03
無線からは、チャンの声が続けて届けられている。
『負けるつもりカ? 逃げるつもりカ? 勝手にしロ。ただし邪魔はするナ。俺にはブち壊さなきゃならなイものがあル。……ブち壊すべきものがあル』
入れ替わるようにして、ノーネーム。
『撤退は可能。ディアーブルはシリーズ・エーギル同様に、パイロットが受け取る視覚情報をモニタに依存している。システムに介入すればモニタに映らないようにすることもできる──もちろん、時間はかかるが』
アビゲイルが畳みかける。
『全員、命と機体の安全を最優先にして行動するようにとの通達です。賢明な判断を、お願いします』
目が覚める。見極める。思考する。
ブラッド・ベイリーがペッシャールに抱いていた感情は、はたして恐怖だけだったか。
勝てない。コールガに乗る前も、その感情は抱いたことがある。生き延びることなどできない、と理解したうえで、いとわずにペッシャールへ挑んだのは、苦しむことなく早急に死にたいと思ったからなのか。
──否。
ペッシャールは自由だと思った。「空を飛ぶ」という行為は、これほどまでに自由にできるものなのかと視界が開けたような気さえした。
重力に逆らうことが、その答えじゃない。
コールガに乗ることが、その答えじゃない。
それは単なる手段に過ぎない。
「……わかった」
ペッシャールと背後をとりあう戦闘機動を続けながら、ブラッドは言う。
「コールガと同調してペッシャールを抑える。その間にチャンは任務を遂行してくれ」
『何を……!』
「アビゲイル。俺は守られるために生き延びたわけじゃない。自由に飛べないなら計画を降りるし、その結果、口封じだかで殺されても構わない。そんなことも思い出せなくなっちまったくらいにビビってたってのは認めるが……ビビったまま殺される気は微塵もない」




