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コールガのコンセプトは不可避の弾幕。本来ならば一対多の状況で叩き込むべきものを、一機に集中して撃つ。
回避の余地はない──と思われたが、ペッシャールは一撃目をひらりとかわし、その先に向かっていた二撃目を回避。機体をひねり、回し、降下と上昇を即座に切り替え、速度を保ったままコールガの弾幕をくぐりぬける。
恐怖心を廃し、隙間ともいえないわずかな空白に機体をねじこむ、その度胸と素質。
「────っ!」
無傷のペッシャールを前に、ブラッドは弾かれたように操縦桿を倒した。がむしゃらな回避。その意識にプライドが入り込む余地などない。体が震える。寒気が走る。目を疑う。
思考する。
ペッシャールは幸運だったのか? ──否。ブラッドの運が悪かったのか? ──否。コールガのAIに異常が? ──否。
奇跡ではない。奇蹟だ。ペッシャールの技量とディアーブルの運動能力の相性は抜群。故にたやすくヒトの限界を超える。不可避の弾幕に対し、必然の回避をやってのける神のような領域へ至らせる。
ありえない、と否定することなどできない。文字通り目前で実行された曲芸飛行を、ブラッドの脳はしっかりと記憶している。
思考する。
ドッグ・ファイトを得意としないコールガが、その切り札をもってしても墜とせないペッシャールに勝てるのだろうか?
『──おイ、腑抜けるなヨ』
鼓膜を叩いた声に、ブラッドの意識が現実に戻ってくる。
前方にペッシャールはいない。慌てて背後のモニタを見ると、その鼻先はすでにコールガに向けられていた。回避は寸前で間に合ったものの、弾丸の一発がコールガをかすめていく。
かすり傷。されど被弾。
コード・マジックが発動できない、とまではいかないが、エラーが発生する可能性は跳ね上がる。そして、エラーに対応する時間は、ペッシャールとの戦いの内に確保できるものではない。




