03
──それを裏切るわけにはいかない。
ブラッドと襲撃者は、互いに視線を交わしながら円を描くように旋回する。様子をうかがっているのだろうか、それとも戯れに付き合っているだけなのだろうか。先刻まで猛禽のごとくソードフィッシュに襲いかかっていたというのに、襲撃者はブラッドと一定の距離をおいたままだ。
ブラッドが見ている限りでは、こちらの存在が知られている以上、襲撃者から逃れることはできないように思えた。奇襲をかけようとしても、相手の反応速度の方が速い。後ろにまわろうにも、相手の方が一枚も二枚も上手だ。逃げるなどもってのほかで、射程外まで飛ぶよりも引き金を引く方が速い。
いちかばちかの賭けすら介入の余地がない。
そもそも、「逃げる」という選択肢も、「自滅覚悟の特攻」も、まざまざと見せつけられた部隊員たちの「死に方」に対して、あまりにも失礼なものだとブラッドは思う。
どうあっても生きるべきだ、と。生きて、生き抜くことができなかったら、せめて自分の信条から逃げない。その結果、死ぬことになったとしても。
「……だったら」
独り呟いて、ブラッドは操縦桿を握りなおした。
シリーズ・エーギルのみではあるが、様々な機体に乗り続けてきたブラッドにとって、一本の操縦桿に愛着を持つことは極めてまれだ。愛着を持つよりもはやく機体は変わり、また次の最新機に乗り込むことになる。
ソードフィッシュに乗り始めたのは、つい最近だ。しかし、この機体の操縦桿は、おそらく最期に握る操縦桿であり、最期まで握っている操縦桿だろう。
──操縦桿を握ったまま空で死ねるのなら、それも本望だ。




