04
『兵装は無音レールガンのみ。パイロットも元・民間人なので、それだけは意識しておいてください』
「……死にかけたことのある空軍兵ってのは、そんなに少ないもんなのかね……」
『死にかけたことがあるからといって、誰でも魔力を持てるわけではありませんからね。死の淵を長くさまよっていれば魔力の量も多くなりますし、逆に少ない人だってたくさんいるんです。仕方ありません』
坦々と述べるアビゲイルの口調はいつも通りだったが、わずかな違和感がブラッドの意識にひっかかった。
言ってはなんだが──アビゲイルにしては感情的すぎるという印象を、ブラッドは抱く。触れてはいけない部分に触れたのだろうか。もしそうだったとしても後の祭りではあるのだが。
ブラッドの視線に、索敵時とは比べ物にならないほどの緊張感が混じる。
「もしかして、アビゲイルもそういう境遇だったり……」
『私は軍学校の通信科卒です。死にかけたことはありません』
「……あ、そう」
しかし、的外れ。肩すかしを食らったかたちになったブラッドは、頬をかいて視線をさまよわせる。
つい最近もこんな状況になったような気がしたが、努めて無視。
追い打ちをかけるように──本人のその気はないだろうが──アビゲイルは容赦なく告げる。
『現場の状況を確認するのはいいんですが……予定通りにいけば、その現場にあと一〇分で到着します。無駄話は終わりにしますよ』
「りょーかい、周囲警戒を続けますよっと」
雲の上を飛んでいるコールガから見える景色は、一〇分程度で変わるはずもない。
存在感を増すばかりのフラストレーションに、ブラッドはひそかにため息をついた。
*
戦場は、すでに混沌としていた。
ブラッドはいまだその現場を直接見ていないが、戦場の異様さを知るにはレーダーからの情報だけで充分だった。




