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しかし、ブラッドは緊張の表情ならば露わにしていた。
原因は、視線の先にあるモニタと、コックピットに流れた電子音声から受け取った情報である。
周囲に友軍反応はありません_
援護可能機を検索 ******完了_
到着までの所要時間はおよそ一時間です_
音声の終了と同時、モニタの隅にポップアップしたウィンドウで六〇分のカウントダウンが始まる。
その上のカウンターは、敵機反応──三二七を示して止まっており、すぐ隣には敵機との距離が表示されている。こちらは止まることなく減少を続けていて、それに伴ってモニタ上のノイズじみた黒点が大きくなっていた。
接触までの時間は八分。
もちろん、射程範囲に入るのはそれよりも早い。
友軍から離れた場所で、敵の大部隊に遭遇する──特に言葉を尽くす必要もなく、単純明快に危険な状況だった。
「……運、ないなぁ。俺」
ため息まじりに吐き出された声は、それでもまっすぐにマイクまで届いたらしい。
電子音声と入れ替わるように、通信の声が入る。
『コールガに搭乗した際、注意事項を伝えられたはずです。単独行動中は特に注意せよ、と』
抑揚のない、若い女の声だった。生きている人間が発しているにも関わらず、機械音声からイントネーションの違和を排除した程度にしか聞こえない平坦な口調を維持したまま、オペレーターは語る。
『戦闘の許可が下りました。生還のため、最大限の努力をするようにとの通知です』
「ずいぶん早いな。さっきだろ、報告したの」
『それだけ貴重だということです。コールガも、貴方も』
「そこは貴重じゃなくて大切って言ってほしかったな」
冗談のまじったぼやきは黙殺。
『戦闘を開始してください』
冷やかに告げたオペレーターに対し、ブラッドはもう一度ため息をついて応答。足の間から伸びる操縦桿を掴む。




