10
──レヴィアタンは、帝国のジョーカーだった。
圧倒的な火力と、巨躯の割に高い速力。空の上にも海の中にも、沿岸部であれば陸にも対応できる万能性は、かつて様々な戦場で帝国軍に勝利をもたらしてきた。たとえ、帝国が不利な状況に陥っていたとしても。
「かつては戦場を支配していた戦艦だ。大艦巨砲主義の産物といえば古臭く感じるが、優秀な護衛艦と相応以上の速力を持っている。しかし、もう切り札にはなりえない」
クレイグの視線は鋭くレヴィアタンを射る。獲物を狙う獣のような目をしながら、その表情はどこまでも柔らかい。
ジョーカー。切り札。「出せば勝ち」を実現するモノ。
時代が変わり、科学技術が進化を遂げれば、有効な兵器も変化するのは当然のことだ。昨日までは脅威だった敵兵器に弱点が見つかり、たった一晩で認識が変わることだってある。最強無比と謳われていた機体の次世代機が次々と現れることだって、ありえないことではない。
「かつて多くの人間が言ったものだ。『レヴィアタンが空を飛べば、それは最高の兵器になる』、と。……冗談まじりにではあったがね」
クレイグの言葉を借りて言えば──公国はレヴィアタンを飛ばすことに成功した。
もちろん、「戦艦をそのまま空に浮かべる」という意味ではなく、レヴィアタン並みの超火力を戦闘機に搭載する形で。
ブラッドの口元に自然と笑みが浮かぶ。
コールガ。公国の誇る機体の一つ。その火力と機動力ならば、ついさっき発揮したばかりだった。レヴィアタンの火力を実際に見たことがあるわけではないが──コールガを「飛ぶレヴィアタン」と称しても、決して過言ではないだろう。
「さっさと言っちまってくださいヨ」
と、それまで沈黙を保ち続けていた東方風の男が、唐突に声を発した。発音やイントネーションに違和感が残っているものの、口調にはためらいなどの感情が微塵も含まれていない。