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「そのレヴィアタンで間違いない」
ブラッドの問いに答え、クレイグはデスクに埋め込まれたパネルを操作する。
呼び出されたデータは司令室中央のホログラム投影機で展開され、極細の光が戦艦の像を作り出した。
鉛色が剥き出しのままの姿は、水棲生物をモデルとしたシリーズ・エーギルよりもよほど兵器らしい。船首上部は水を切るために鋭く、水中に沈む下部はソナーを内蔵した球状の突起が突き出ている。
水面上の船体上部には、中央から前に伸びる二本の主砲。その下には一回り小さい副砲が備えつけられていて、左右を囲むように対空ミサイルの発射ポッドが並んでいる。
超弩級戦艦にカテゴリされるレヴィアタンの主砲は五十二口径。他、全長や幅といった数値で示されるデータは投影されたウィンドウに収まっているが、文字通りミニチュアサイズと化した戦艦を見ても実感が湧かない。
「全長二二〇メートル、幅三二メートル……などと言うよりは、こうした方が分かりやすいかな」
ブラッドの心中を察したように、クレイグが言う。同時、端末の操作に従って投影機がもう一つの像を結んだ。
漆黒の亜音速機──ラ・モール。公国空軍に所属していれば一度は見ると言われている、最高の汎用性を有する帝国機が、レヴィアタンの隣に並ぶ。
たったそれだけで、『全長二二〇メートル』という数値にリアリティが増した。コックピットから見つめ続け、追い続けてきた敵機の大きさは、下手をすると頻繁に変化する自機よりも分かりやすい。
「いい標的に見えるか?」
「……当てやすそうではありますね」
しかして、二二〇メートルの巨体に対し、ブラッドが感じたのは畏怖ではない。言葉を選んではいるものの、その口調に恐怖の感情は含まれていない。