08
一体どれほどの危機を潜りぬけてきたのか。東方出身と思しき男の双眸に輝きはない。
異国情緒と言うべきか、同じ軍服をまとっていても隠しきれない異質さを醸し出す男は、どこか別の世界の人間であるような雰囲気をただよわせている。
東方の人間に対して偏見を持ってはいないと自覚しているつもりなのだが、ブラッドは男から目を反らせずにいた。「珍しいもの」として見てしまっているのだろうか。わずかな自己嫌悪が芽生えようとして、その直後に背中に氷が叩き込まれた。
無論、物理的にではない。東方風の男がブラッドへ視線を向けた──それだけで、ブラッドの背中に寒気が駆け抜けていったのだ。
インクで塗りつぶされたような黒瞳。感情のうかがえない視線。その中には数多くの負の感情が込められているようにも感じるが、寒気の理由はそれだけではない。むしろ、本質は他にある。
男の顔の右側をおおう、火傷の痕だ。軍服の襟の下、首筋までのびている火傷痕は、火事か爆発にでも巻き込まれたのではないかと思わせるほどの大きさだった。黒々とした瞳とあいまって、火傷は男の雰囲気を一層不気味なものにしている。
ブラッドが目を見開いている間に、男は素っ気なく視線を反らしてしまった。ブラッドの反応を不快に感じた、というよりは、最初から興味など持っていなかった、という印象。現に、男の黒瞳はなんの感情も映さずに虚空へ向いている。
「──それでは、本題に入ろうか」
両者の視線が交わったのを確認したのか、クレイグは椅子の背もたれに寄りかかりながら話を切り出した。
自然とブラッドの背筋が伸びる。思考を切り替える。
「ブローズグハッダパイロット、モン・チャン。コールガパイロット、ブラッド・ベイリー。以上二名には明日、帝国の戦艦・レヴィアタンの撃沈任務に就いてもらう」
「レヴィアタン……って、帝国のジョーカーとか言われてた、あの?」




