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ヒミングレーヴァの中を歩いていると、空を飛んでいるという事実を忘れてしまいそうになることがある。
完全に反重力機構に依存した飛行をしているため、エンジン音がないというのが一つ。また、静止中であれ、移動中であれ、揺れが少ないというのが大きい。実際に歩いていても、体にわずかな圧を感じる以外は地上と変わりがなかった。
大きな船に乗ると揺れをあまり感じないのと同じだろうか、と思いながら、ブラッドは狭い廊下を進む。多くの戦艦や航空母艦がスペースの節約に力を注いでいるのと同じように、ヒミングレーヴァも可能な限り狭い空間で最大限の効率を実現する設計になっていた。
記憶を頼りに歩み、数人の乗組員とすれ違いながら、やっとこさ司令室に辿り着く。帰投からの経過時間は、体感にしておよそ五分。途中には道を間違えるというハプニングが含まれる。
──遅刻扱い、になるのか?
厳密に時間の指定があったわけではないのだが、ブラッドの意識にはわずかな不安がある。
『波の乙女計画』の創始者であり、司令官である男と面識がないわけではないのだが、その信条や思想に関しては詳しくないのが実状だった。そういったものを表に出さない……といえば聞こえが悪いのだが、それは同時に信条や思想を押しつけないという意味でもある。
軍人らしいと言えば軍人らしいし、軍人らしくないと言えば軍人らしくない。
そんな印象を抱いているが、今それを気にして立ち止まるわけにはいかない。ブラッドは二、三度首を振って扉に向き直った。コールガを降りてから羽織った空色の軍服を整え、一息ついてから二回ノック。
答えは即座に返ってくる。
「どうぞ」
「……失礼します」




