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プロ野球選手は1軍で結果を残さなければ何の意味もない。いくら2軍で活躍して無双の限りをしようが、1軍に上がらなければそもそも注目すらされない。そういう意味では、なんとしても1軍という名の岸壁にしがみついて、スタメンという名の地上に這い上がらなければならない。
とは言うもの、スタメンクラスの人間だけが必要かと聞かれれば決してそうではない。チームにはスタメン以外にも代打、守備固め、代走など様々な仕事がある。本来ならばスタメンに固定される程の力がないから、こういう仕事を任されるのだが、戦力の整った強いチームでは、他球団ならスタメンクラスの人物を敢えて守備固めや代打につかっているという事もある。ようは、別にスタメンじゃなくても1軍で長く続ければいいということだ。
日本のプロ野球界は他の国と比べて選手の年俸が高いので、代打や守備固めだけで1億円近い年俸を貰っている選手も数少ないが存在している。
今の呉鉄栄もチームの便利屋として様々な局面で使われている。高卒1年目が便利屋というのはファンからもそれ相応の期待がかかっている。
果たして、呉鉄栄は日本のプロ野球界でどのようなプレーで生き残るのか、それは呉鉄栄自身も分からない。
「鉄栄よ。代打の仕事には慣れたかね?」
監督が話しかけてきた。
「はい。なんとか好成績を維持しているつもりです」
「じゃが、お主は左ピッチャーに弱いようだな」
データにも出ているのだ。右ピッチャーとの打率は3割を超える高アベレージなのに対して、左ピッチャーとの成績は1割代にとどまっている。