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呉鉄栄は身長が180センチを超えており、身体能力も高い。裸になれば腹筋が割れていて筋肉の申し子とまで言われている。しかし、そんな呉鉄栄もプロの世界では並にいるレベルだ。特に、両リーグで最も筋肉に優れているのは同期入団である渡辺明という人物である。
彼は高卒一年目でありながら登録名をAKIRAに変えて、一軍としてスタメンに出続けている。その持ち前の筋肉とバットコントロールを生かして、ホームランを量産していた。
この日もそうだった。呉鉄栄はベンチからAKIRAの打席を見ていた。自分は代打で相手はスタメン、何故こうも待遇が違うのかと憎しみに似た感情さえも抱いていた。
しかし、AKIRAの打撃は自分とはレベルがかけ離れているのだと実感するにはものの3秒で十分だった。
バゴオオオオオオンンンンン!
「!」
ボールは見事に捉えられて逆方向にホームランが飛んで行く。しかも飛距離はぐんぐんと伸びて行って、そのまま場外に消え去った。あまりのパワーに敵側であるボンバーズの選手たちもベンチから立ち上がって、消えて行った白球をポカンと口を開けながら見ていた。
「これが高卒一年目かよ」
「化け物だな」
同じく高卒一年目である呉鉄栄はベンチ内に気まずい雰囲気を作り出している事を自分でも分かっていた。明らかに別の次元に立っているので比較される事さえも屈辱的だった。
「超えてやる。いつか!」
呉鉄栄の心の中にライバル心が芽生えた瞬間だった。