006
走り打ちは悪いスタイルだという謎の噂が世に流れているが、それは真っ赤な大嘘だ。走り打ちも立派な打撃スタイルなので、プロの監督も走り打ちを勧める事はある。この場合は打撃コーチなのだが。
「走り打ちですか」
「そうだ。左打者は一塁に近いことがメリットだ。そのメリットを十分に生かすために、追い込まれたら走り打ちする事を勧める」
「分かりました。努力してみます」
こうして、走り打ちを覚えた呉鉄栄は次の試合に代打で出場し、ファールで粘った後に三遊間にゴロを打ち、内野安打を成功させた。打撃コーチから言われた通り追い込まれたら走り打ちをするというスタンスを覚えたのだ。
そこから呉鉄栄は盗塁を成功させて二塁に到達。そして次のバッターがヒットエンドランを成功させてホームに帰還した。ベンチに帰ると選手や監督とタッチをし、最後に打撃コーチと熱い抱擁を交わした。
「良くやった。記念すべき最初の内野安打だな」
「はい!」
頬を赤らめて、満面の笑みで答えた。
「内野安打もヒットと同じ価値があるのだぞ。これからもじゃんじゃん狙っていけ!」
「はい。頑張りま……」
耳元で何かが炸裂したような音が響いたと思った、次の瞬間だ。
バゴオオオオオオオンンンン!!!!
「!」
突如にして爆弾のような音が響いたと思い、コーチと一緒に振り返ると、ドミニカ人の外国人バッターがもの凄い弾道でレフトスタンド上段まで叩き返していた。その特大ホームランに唖然としながら口をポカンと開く呉鉄栄。すると、内野安打を打って舞い上がっていた自分が恥ずかしくなって違う意味で頬を赤らめる。
「さすがに外国人バッターはパワーがあるな」
「…………」
何故だか分からないが、ショボンとした表情のまま目を落とした。自分と求められているものが違うとはいえ、生で特大ホームランを見せられれば落ち込んでしまう。本来呉鉄栄はショートのパワーヒッターとして獲得されたのに、今の自分は正反対のプレーをしている。それが心なしにショックだったのだ。
「功を焦るなよ。今は目の前の仕事を確実にこなしていけ」
打撃コーチはそう言って、落ち込んでいる呉鉄栄を励ますのだった。