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呉鉄栄はボンバースの監督と話していた。呉鉄栄は高校三年間留学をしていたため日本語は大体話せるのだ。
「おまえさんはしばらく代打と守備固めに使うからな」
「やっぱり、僕の打撃はスタメンレベルじゃないのですか?」
呉鉄栄は素直に監督に聞いてみた。
「そうじゃな。わしが見るところによると、まだまだじゃの」
監督は七十歳近いベテラン監督だ。選手を見る目には長けているだろう。
「高卒ルーキーがスタメンを奪うのは難しいのでしょうか」
「かなり難しい。大体の高卒ルーキーは自分の型が完全に出来上がっておらんからの。それに木製バットに慣れるのにも時間がかかる。それに木製バットに対応できず、球団を去る者は大勢おる」
しゃがれた声で監督は口にしていた。
「僕もまだ金属バットを使っていた頃の感触が手に残っています」
「じゃが、お前は一軍におる。高卒ルーキーが一軍レベルに到達していること自体が大変珍しいのじゃ。お前はきっと名選手になれるぞ」
「ありがとうございます」
呉鉄栄は頭を下げて一礼した。
「わしはお前さんの兄を見ていた時期もあった」
「兄はトレードで他球団に移籍しましたね」
「ああ。エースと四番のトレードじゃった」
「生え抜き信仰の日本ではかなり珍しいトレードですね」
「そうじゃな。しかし、両選手ともに新天地で活躍している」
良いトレードだったというのだ。