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呉鉄栄は単打狙いを余儀なくされた。しかし、それは誰から言われてではなく、むしろ自分から単打狙いにスイッチした。それはやはりプライドどうこうよりも、ひたすらに一軍にしがみつきたいという思いからだった。一軍に入れば兄と同じチームで戦う時がいずれやってくるし、やはり二軍での成績だけでは満足できないからだ。
この日の呉鉄栄は代打での出場だった。先発投手の谷が七回一失点の好投を見せて、呉鉄栄の代打と共にマウンドに降りた事になる。
相手投手は中継ぎのサウスポーだ。平均135キロの変化球投手で、ストレートに滅法強い呉鉄栄にとっては苦手なタイプだ。しかし苦手だからと言って、打てない訳では無い。真ん中高めの甘いカーブを捉えて、ライト方向に詰まりながらも飛ばした。打球はライトの前に落ちて、ポテンヒット。呉鉄栄は一塁で止まった。
次のバッターに打順が回ると、ベンチからサインが出た。それはヒットエンドランのサインだった。呉鉄栄はひっそりと頷くと、投手が振りかぶった瞬間にスタートを切った。
バギュウウウンン!
という音と共に、打球は右中間を襲った。呉鉄栄は既にスタートを切っていたため、余裕のホームインをした。
こうして、呉鉄栄は代打や代走などの起用方法が増えていった。やはりスタメンを奪う程の打力はまだついていないようだ。監督も自身もそれは感じていたため、毎日が修行である。