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ドラフト会議にて、とある選手が一位指名された。その選手は呉鉄栄。名前から分かる通り、彼は台湾出身の野球少年だ。高校通算35本塁打の強打力と守備力をかわれて、東信ボンバーズに入団した。
実はこの少年、兄の呉順教に憧れて野球を始めた。順教は今年二千本安打を放った伝説の遊撃手であり、弟の鉄栄は兄に憧れて遊撃手の道を選んだ。
しかしながら呉鉄栄はオープン戦で思うような結果を残せず、二軍スタートを余儀なくされた。開幕一軍は逃したが、これからの成績次第では一軍に上がることも夢ではないので、呉鉄栄は二軍で自分の型を完璧に作って、一軍に備えようと思っていた。
ところが、呉鉄栄は二軍戦でも結果を残せず、十三試合で打率は僅か九分六厘。一割にも届いていないのだ。この信じられない不振は、恐らく木製バットへの対応が遅れているからだろう。金属バットの感触に慣れてしまい、プロが使う木製のバットが馴染まないのだ。
大半の野手はこの理由で苦汁を飲まされる。金属バットを使った記録は参考でしかないのだが、それで「自分はパワーヒッターだ」と勘違いして、そのまま戦力外になる選手は大勢いる。そうじゃなくて、木製バットで、本当の自分のスタイルを見つけていかないと、プロの世界では生き残れない。
それは呉鉄栄も同じである。彼も最初は本塁打狙いのバッテイングスタイルだったが、自分にはまだ早いと感じたのか、単打狙いに変更。すると、打率が面白いように上昇していき、六月に入ると打率は三割を超えた。守備も良く、走塁のセンスもある。いつ、一軍に呼ばれてもおかしくは無かった。