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シルバーの懐中時計を閉じると、丁度リリアの鐘がリンゴン鳴り始めた。レンガの壁に背を預けていた黒いハットを被る私は顔を上げ月を見た。月の中に淡く影が差しよどんだ場所があった。言い伝えによるとそこがルーアの聖地らしい。月の煌めく美しい夜に今日も殺戮することをそっと月の神に詫びた。
「時間だ」
暗闇に夕陽が纏うように二層に分かれた瞳の色。ミミズクみたいなそれは一番先頭に控えていた部下をじっと見つめた。部下は撃鉄を起こす。その重い音に一気に緊張が走った。彼のそばに控える女の茶色い髪が静かに揺れる。夜風は肌を引き裂くように冷たかった。すきま風が入る酒場の扉にひゅうひゅうと風は吹き込み、息絶えそうな老人の呼吸のようだった。
「ボス、行きます」
「ああ」
先頭の男が構成員たちに目配せした刹那、荒々しく開け放たれた扉。突撃する部下たち。駆ける足音、途端に鳴り響く銃声とヒステリックな叫び声。耳をつんざく多くの音に顔をしかめた。彼の横に立つ長身がマッチに火を灯し、ランプに燃えうつさせる。ゆらりと笑う炎が照らした長身の顔は非道く無感情だった。
「フェデリコ様。私たちも行きましょう」
「……そうだな」
中での荒事に顔色一つ変えないで、私の右腕、アンダーボスのエルネストは言う。私は相棒のデリンジャーに手を添え酒屋へ入っていった。