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場の雰囲気が変わる。
「君たちはこの部屋と私の部屋の窓に小瓶が置いてあるのを知っているかな」
「あれ、ですか」
私の問い掛けにダニエルが目で北窓の傍に置かれている透明でなにも入っていない小瓶に目を向けた。白いカーテンが風で揺れている隣、そこに小瓶は太陽の光を浴びている。
「なにも入ってないわよね、あの小瓶」
「前にお花を生けようとしたら、レオさんに止められましたわ」
メリッサとジェシカが口々に言う。レオは空になったカップの底をじっと見つめ、意味深に答えた。
「止めるよ。あの小瓶は『特別』だからね」
ロジャーは小瓶に見向きもせず、エルネストは死人でも見るかのような目で小瓶を一瞥した。
「そう、特別なんだ」
私は懐から愛銃を取り出すと、小瓶を見ることなくそれを銃で撃ち落とした。激しいクラッシュ音とジェシカの短い悲鳴が広間に響く。小瓶がバラバラに砕けて、硝煙の匂いが鼻先をかすめた。ジェシカは口に手を当て突然のことに驚くばかり。ダニエルとメリッサは互いに目を交わすが表情は変えなかった。ガイのメリッサの服を掴んだ手が震えたが、レオとロジャーは微動だにも動かない。まるで私がそうすることを最初から知っていたかのように眉一つ動かさなかった。 私は誰の顔を見ることもなく、手中に収まる愛銃のフォルムを撫でながら静かに言った。
「今夜、奇襲を行う。カポレジームは全員ついてこい」
その声を聞いてレオがにやりと笑ったのを私は見逃さなかった。