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「失礼します」
こんこんと2回ノックして赤毛頭の青年が静かに入ってくる。ダニエル=フォリナ。彼もカポレジームだ。スーツをきちっと着こなして椅子に腰掛ける姿は好青年そのものである。ダニエルはジェシカと同じようにまだ若くしてカポレジームとして組織をリーダーを勤める、優秀で忠実な部下だ。
「ダニエルおはよう」
「……」
「無視かよ」
レオが顔を歪めた。仲の悪さは相変わらずだ。私は口寂しくなり、タバコに火をつけた。それに気づき、ダニエルは私に浅く礼をした。青く透き通った瞳が私を捉える。
「妹はまだですか」
「お茶を入れているよ」
「そうですか……」
「なに、急ぎなの」
「いや、昨夜家に帰ったら伝言を頼まれて」
レオに話しかけられてもお得意の高飛車な態度が出ないのは、多分朝だからだろう。彼は朝が苦手だ。
「あの子はまた家に帰ってなかったのか」
「ええ、僕も久しぶりに帰りましたけど、僕以上にかえってないみたいですよ」
私に声をかけられたダニエルはしゃきっと背筋を伸ばして、私をしっかり見つめて答えた。家には帰れと言ってあるのに。また朝まで拳銃の練習でもしていたのだろうか。
噂をすれば、ジェシカはお茶をもって、部屋に入ってきた。
「お茶を入れました。みなさん席についてください」
紅茶の香りを漂わせた明るい笑顔を見ると、無理をしているようにはとても見えない。いくら大人だといっても彼女はもともと貴族の出。メリッサや他の女性と同じような考えではいけない。彼女の情報処理能力が秀でていたからといって、幹部に含めるべきじゃなかったのかもしれない。
彼女はセンスがいい。飲み込みも早い。しかし、マフィアに加入してから2年たった今でも、彼女は死の恐怖を克服することはまだできていない。そして、銃を打つ際、心と身体を切り離すことが彼女には不可能だった。
ジェシカがプリーツスカートをひらひらと泳がしながら、私のところまで茶を運んできてくれた。気品とした振る舞いに育ちの良さが感じられる。彼女とダニエルは伯爵家の令嬢と令息だ。整った顔立ちと青く透き通った瞳がフォリナ家の誇りと秩序を表しているらしい。だから仕事の際にはふたりとも目の色を隠している。
それぞれ事情が有るにしても、貴族をファミリーに入れることはやめたほうが良かったのかもしれない。そう思うと、彼ら兄妹の顔を見れなかった。
「ジェシー」
ダニエルがジェシカの後ろから近寄り、そっと手紙を手渡した。招待状のような至極シンプルなデザインのものだ。二人の青い瞳が静黙にしてぶつかる。兄のダニエルはすぐ顔を背けた。
「執事から」
「ありがとうございます」
ジェシカが手紙を受け取ってすぐ、私は厳しい声をかけた。普段とは違う声のトーンで。そう、それはマフィアのボスとしての声かけである。
「ジェシカ」
「はい、なんでしょうボス」
「家には帰りなさい。休息がなければ、死ぬぞ」
空気が凍った。言葉は重い。