表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

トリニクルチック 2

作者: ギョウザ44

 私の前には大きな水たまりがある。この大きな水たまりは大地に吸収される事無く、水たまりとして今日も胸を張って生きている。水たまりはただただ水が溜まっただけに過ぎないというのに『海』なんて名前まで付けられて、挙句の果てには偉そうに塩味まで付けちゃって。


 だから私は言ってやるのだ、「お前なんてただの水たまりだよ」って。


 そうしたらば、きっと水たまりはびっくりする事であろう。今までちやほやされていたっていうのに、急にそっぽを向かれるもんだから。だけど水たまりには水たまりなりのプライドもあるだろう。昨日今日になって『海』なんて呼ばれだしたわけじゃないのだから。


 そういう意味では水たまりも被害者と言えなくはない。もっと早く、もっと早くに誰かが言ってあげなければならなかったのだ。それはコッソリとでも良い、堂々と大衆の前でだって構わない。水たまり自身が勘違いを起こす前に真実を伝えてあげなければならなかったのだ。

しかして人類はそれに失敗した。


人類そのものが、水たまりをただの水たまりでは無いと、しっちゃかめっちゃかな勘違いを起こしてしまったのだ。


 だから私は此処にいる。

 だから私が個々にいる。


 私は時を待った。全ての物事にはソレを行うべき時間と場所というものが存在すると思う。だから私は待とう、いつまでも纏う。


 寄せては返す水が、砂と相まってザァザァと音を立てた。妙に耳に心地よいその音はまるで母のおなかの中で聞いた、圧縮的くるくる音楽に似ている気がした。そう思うとなんだかいっそう心地よい、ほんの少しだけ水たまりも良いものだと思える。しかし悲しいかな、私はこの水たまりとさよならしなければならない。

足元の砂を一握りすくい、その中からほんの一つまみ口に含んだ。飴玉のように優しく、誰かの目玉のように愛おしく、私は砂粒を舌の上で転がした。


 砂はまるで銀の様に、私の中で踊って弾ける。銀細工の小人たちは面白可笑しく舞って笑った。

空と水たまりの間で、溶けるように……融けるように。

いっぽ、ほんのいっぽだけ私は水たまりへ近づいた。水たまりは素知らぬ顔で、いつものように寄せては返し、寄せては返し……。


 いつか来るその日、待ち続けているその日。


 いつまでも待っている。いつまでも舞っている。

 トリニクルチック。


 いつか来るその日を、私はトリニクルチックと名付けよう。


 トリニクルチック、トリニクルチック。


 水たまりは、まだ変わらずそこにある。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ