6話 風…… なんだろう吹いている確実に……
・サイクロンライノー(サイっぽいの) HP 2500
(備考)……とにかく固くて手強いモンスターだ。奴の突撃はガードすらも無効化する。しかし遠距離の攻撃手段を持たないので、上手く距離を取って戦えば安全に倒せる。氷属性が弱点なので魔法で一網打尽にするのもいいぞ!
・ヴェクシーイーグル(鳥っぽいの) HP 1100
(備考)……攻撃範囲の広い衝撃波が非常に厄介。威力自体は低いが足止めされるので、ひるんだ隙に他のモンスターにということにならないように速攻で倒したい。幸いにして防御力や魔法耐性は低い。アーチャーやソーサラーはこいつを優先的に攻撃するといいぞ!
ふと思った。
Gillyさんの名前ってギリースーツから来てるんじゃないだろうか。その内「ステンバーイ……」とか言いだしそうで怖い。いや、少なくとも俺は期待している。それくらいの鮮やかなスニーキングっぷりだったのだ。蛇もびっくりである。
そんなこんなでサンマイト遺跡49F。
Gilly「これが最後の難関だ」
うーむ、今度はそう来たか。
だだっ広い部屋にモンスターがぎゅうぎゅう詰め。落ち着いて考えると、かなりへんてこりんと言うか、シュールというか…… とにかく現実的にはあり得ない構図だ。ゲームとはいえモンスターたちもこんな部屋で雑魚寝なんて辛かろうに。
普通に来るんだったら、この部屋は敵味方入り乱れたカオスな戦場と化すのだろう。しかし今は事情が違う。俺達二人を単なる一兵卒とするなれば、目の前には大量の呂布がいるのだ。まさしく三国逆無双状態。
シエル「これは結構先まで続いているんですか?」
Gilly「ああ、それとスモークかけても広範囲攻撃を狙ってくる奴がいてだな。左から二番目の鳥みたいなやつ。それを何とかして確実に事を進めたい」
あの鳥の魔物が……先にもいると考えてよさそうだ。相手に攻撃させずに、常に先手を打って煙幕で撹乱していくべきか。攻撃当たると即死だし。
今回の探索でお世話になりっぱなしの煙幕花火はというと…… 実は結構残っている。俺が持ってる分でも後8個。残りはこの階合わせて2フロアだけだし。もしかして結構余る? それともここから一気に使う羽目になるのか。
Gillyさんとの打ち合わせが始まる。俺がファイヤーウォールWを覚えていないことに気づいて、少し焦っていたようだが、すぐさま作戦を修正。
こう来て、こう動いて、こうやって……おいおい、いけるのかこれ……?
Gilly「焦って操作ミスするなよ。それじゃ行くぞ!」
まずは俺がぶっとい顎を持ったサイのようなモンスターに向けてファイヤーウォールを放つ。ダメージはもう見るに耐えがたい。これで3体起きるが、俺自身は入口の死角にすぐに移動するために、相手は一瞬姿を見失う。
それと同時にGillyさんがモンスターの体で行く手を塞ぐ所まで忍び足で切り込む。サイ達はそっちに気を取られて襲いかかろうとする。こいつらは格闘しかできないので、ある程度接近させた所でわざとGillyさんが物音を立てて周囲のモンスターを起こす。そこへ煙幕花火。
画面上のサイのいたスペースがちょうど空く。そして後ろから煙幕をかすめながら俺がLフレイムレーザーを撃つ。煙幕から逸れた敵は今度は俺の方に向かって、スモークのかかっていない画面上方を移動しようとする。そこへ煙幕の中からGillyさんが一発。漏れなく敵をスモークの中に閉じ込める。
俺が再びフレイムレーザーを撃ち、ダメージ値が出た場所を頼りに俺達は魔物たちの間をすり抜ける。以下それの繰り返し。スモークの中では魔法の詠唱が出来ないので、毎回ギリギリ一人分スペースを空けて煙幕を張ってくれる。流石は煙幕花火全一のGilly先生だ。
そして魔物の群れ、というか壁を突破する。翼くんばりの全員抜きだ。
俺が階段へと続く扉に着いた時には既にGillyさんが鍵開けを行っていた。まだかまだかと待つうちに煙幕が途切れ、あり得ない数のモンスターが後ろから迫って来る。
そこへカチリ、と勝利の音が鳴り響く。鳥が何かブレスみたいなのを吐いてきたけど、こちらを捉える寸前で画面は切り替わる。
ディスプレイにLoading……と表示された瞬間、俺はリアルにガッツポーズをして「ぃよっしゃあ!」と叫んでいた。……壁ドンされた。隣の部屋の人ごめんなさい。
しかし、もう手汗がヤバい。心臓の動悸もいい意味でヤバい。脳汁ダッラダラ。
来た……来たぞ~!遺跡地下50F~!レベル16でクリア出来るとかマジありえねぇ!
画面にサンマイト遺跡50Fと表示された時に、俺は今自分が前人未到の頂にいることを実感する。……おしっ!こうなったら、最後まで油断せず、何が何でもクリアするぞ!
Gilly「よくやった。この階ははっきり言って楽勝だ。後は俺に任せろ」
シエル「本当ですか? お茶飲んでてもいいですか?」
Gilly「ああ、そこでゆっくりしていてくれ」
冗談半分で言ったのに……Gillyあんちゃんマジでええ人や。
Gilly「じゃあ、行ってくる。くれぐれも変な物音は立てないでくれよ」
シエル「行ってらっしゃい。お気をつけて」
俺は椅子にだらしなくもたれかかる。ペットボトルを祝杯の如く掲げ、とっておきの酢こんぶを開けて夜中に一人祝う。明日、じゃなかった今夜のパーティのみんなの反応が楽しみだ。
Gillyさん大丈夫かなー 確かに下一ケタ0の階層はボス部屋となっていて階段を上った先の何も無い小部屋とボスのいる大部屋があるだけだ。10Fと20Fはそうだった。攻略サイトに載っている分では30Fも同様らしい。
と、言うことは50階も同様って言うのも可能性として十分。ボスの隣を上手くすり抜けて宝を取るだけだと考えれば、これまでのダンジョン攻略より遥かに簡単だろう。そうなると完全にボスのワイバーンさんが涙目だな。まともに戦ったらどれだけ苦戦することやら。
Gilly「終わったぞ、さぁ帰ろう」
シエル「お疲れ様です。ってあれ? 何で今来た道を?」
Gilly「何言ってるんだよ。帰るまでがクエストだぞ」
シエル「だってボス倒したら、自動的に町まで…」
Gilly「倒してないからな」
……冗談きついですぜ、兄貴。