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最終話 もうこりごりで済めばなぁ

 「アカシックドミネーター」の前代未聞の懸賞金キャンペーンが終わり、Ver1.0の本稼働が始まった。

 当初の運営の思惑通りネット上ではかなりの反響を呼び、早くも会員数は5万に届きそうとの公式発表が出ている。本稼働に伴い、ゲームバランスの調整、課金アイテム、転職システムの実装など、これまでのユーザーの希望が多かった部分のアップデートが行われることになった。サーバーも増設したみたいで、β版とは比べ物にならないくらい、あらゆる面での動作がサクサクになっていた。


 『やっぱり日本人は2Dじゃないとな!』


 当初はあんだけ叩いていた某巨大掲示板の連中は、単に自分がプレイできなかったことを僻んでいただけのようで、一般公開されたのと同時に見事な掌の返し様を見せていた。ともかく、回転の速いネットゲーム業界の波に負けず息の長いゲームになりそうだ。



 あの戦いの後、大きな騒動が起きることは無かった。やはりサイトさんのあの圧倒的な物量作戦が効いたみたいで、他の殺人願望を持った輩も迂闊に動けなくなったことが大きかったのだと思う。俺達は軽いパトロールを行う事以外は実に平和的な時間を過ごしていた。

 そうこうしているうちに懸賞期間が終わると、ゲーム世界へのトリップ現象はピタリと止んでしまった。これはまさしくGillyさんの言う通り。他のみんなには最後までその事情を話していなかったので、当初はかなり戸惑っていたが、すぐにようやくあの変な現象から解放されたという安堵の声に変わった。もちろん人が寝たまま死ぬなんて事件も、あれ以来全くと言っていいほど起きていない。たまに老人がそんな感じで死んで騒がれるくらいである。


 ……結局あの『現象』の真相は解からず終い。Gillyさんの調べによると、最終的な犠牲者(=死亡者)は約1500名とのこと。しかし毎年3万人が自殺している国だ、この程度の死者など数に関しては何のニュースにもならないだろう。まさかゲームが原因で死んだとは当事者以外は誰も信じようとしないだろうし、この現象を悪用していた連中も証拠が無いので取り調べようがない。結局は全てが野放し。まぁ、その死者の中には世の中の蛆も多く含まれているはずなので、これから少しは国が良くなることを祈るばかりである。


 ゲームの本稼働、そしてあの現象の終わりと同時に、俺の仲間のほとんどはゲームを退会していった。皆が口を揃えて「もう二度とネトゲなんてしたくない」とまで言う始末。当然と言えば当然だが。


 サイトさんは今回の事件で、自分に自信が持てたようだと言っていた。新学期が始まったら、大学のゼミに戻って教授や他の学生たちと徹底抗戦をする予定らしい。どんなに強がってていても、人ってもんは簡単に死んでしまうものだからね、だと。少し物騒だが、それで少しでも人生が前向きになればいいかな……と思う。


 Aseliaさんも今度の公務員試験でも受けてみようかな、と最後に言っていた。別れ際まで相変わらずの口調だったが、仲間たちの今後の事は割と真面目に相談に乗っていたみたいだ。

 俺とにぃにぃさんは×ぽんさんから就活についてのアドバイス(主に彼の失敗談)を受けていた。まだ気が早いかもしれないが、今後の糧になることだろう。

 そして最後に、彼ら全員から如月(伊藤)の墓参りに行くことがあったら、俺達の分までよろしく言っといてくれと頼まれた。あいつ自身はこの現象の純粋な犠牲者と言ってもいい。それを救えなかったのは彼らとしても心残りだったのだろう。


 YASUさんもあの戦いの後、牢屋から解放されてようやく落ち着いた日々を送れたらしい。あの時の出来事は悪夢のようだったけど、俺のおかげで本当に助かったと何度も感謝された。

 事情を知らないまるちーさんも、本稼働になってほどなくして退会の意思を伝えて来た。実はこれまでなかなかログイン出来なかったのは、仕事だけでなく彼女との付き合いがあったかららしい。結局プロポーズまでしちゃったから、ネトゲでわいわいやっているのは見せられない… とのこと。全く、羨ましい限りだ。末永くお幸せに。


 アレックスさんはどうやら自分たちの作った物が怖くなって逃げ出しただけであって、今回の件は全く知らない……そう言っていたらしい。彼のその後は知らない。

 同様にこの前の戦いで捕まった奴らもどうなったかは知らない。一応殺人犯の情報を全部聞きだすまで生かされてはいたみたいだけど…… 少なくとも雨宮は処刑されたみたいだ。残りは執行前にこの現象が終わったのなら助かってはいる……とは思うのだが。


 まぁ約一名、生存確認されている人物がいるんだけど。

 ちゃっかり賞金までゲットしやがった奴が。

 わざわざ俺にチャットで「あん時殺さんでくれてありがとさ~ん」なんて調子のいいこと言いやがって。……まぁ、別にいいか。

 


 そして、俺とGillyさんはというと……


「え? じゃあ日本を出て行っちゃうんですか?」


「ああ、生き延びたらとっとと戻って来るだろうけどな。まだこっちでも調べることは山ほどあるし」


 俺達は例の如くクアアイナにてハンバーガーを食いながら今回の騒動について話をしていた。と、いってもこれが最後になるだろう。


「あまり大きな声では言えないが…… こっちの方で次は韓国に行くと踏んでいる……」


「え…… どうして?」


「向こうでもこっちのネトゲの宣伝戦略が話題を呼んでるしな…… 今度出る新作ゲームに2000万ウォンの賞金を付けるとかで話題になっている」


 2000万、ウォン。

 いちいち劣化させるからネタにされるんだよって、向こうの人に言ってやりたい。


「この現象が発生する条件は新作であること、そして何かの期間が設けてあること、それと名前……でしたよね?」


「今までの事例の共通点でしかないから確実な情報ってわけではないけどな。だが、この国の時はそのおかげで当たったし、おそらく次回もそうだろう」


「違ったら違ったで、のんびりできますもんね」


 何だかんだで命をかける職業だろうしなぁ。やってることはほとんどゲームだけど。


「証拠も根拠もないけどな。もちろん、このことは他言無用だ」


「わかってますよ。今回の件も…… 黙っているのがいいでしょう。正直あの政治家どもが死んでくれてスッキリしていますし」


「ま、物事の取り方も人それぞれってか。……じゃあ、俺はちょっとやる仕事があるからこの辺でな。……もう、二度会うこともないだろう」


「そうですね、俺もあまりお世話になりたくないです。変な組織にマークなんてされたくないし」


「……だろうな。じゃあな、あばよ、シエル」


「お仕事頑張ってください。Gillyさん。それともうすぐ俺はシエルでも無くなりますけど」


「……そうか。それがいいだろう、学生は勉強が本分だ」


 Gillyさんは一度も振り返ることも無く行ってしまった。

 ……本当に何だったんだろう。彼の素性は正直言って物凄く気になるが、俺のようなパンピーは下手に首を突っ込まない方がいいんだろう。思い返してみると彼には色々と世話になったけど…… 忘れた方がいいんだろうなぁ。やっぱし。




 店の外に出ると、もう9月に入ったというのに、お台場は夏と変わらぬ強い日差しに照らされていた。一応世間は休日なので外を歩いている人間も少ない。


『日本国民の皆さまのために! この加持隆介に清き一票を……!』


 ……こんなところまで来るのかよ。そう言えば総選挙やってるんだったなぁ。国会や内閣もぐちゃぐちゃになっちゃったし。世直しを試みた者はここから先の事も考えていたのだろうか。俺も今年から選挙権があるし……誰に投票すっかなぁ……

 この御時世に立候補できる肝っ玉があるだけ、みんな根性はあるということなのだろうが。


「ひーっ、それにしてもまだ暑いなぁー」


 アイスかジュースでも…… と思って俺は財布を開く。だがその中身を見ると、思わず溜息が出てしまう。


「何かバイトでも始めるかな……」


 それも出来るだけ楽な奴。せめて死なない程度の。

 俺は炭酸飲料を飲みながら、お台場の通りを歩く。






 大学生の夏休みはまだまだ長い。







 ―アカシックドミネーター  END



連載開始から約4ヶ月……ようやく完結しました!


短めとか言っておきながら、やたら長ったらしくなってしまった話をここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!


最後はあっさりしすぎ? いやいや、構想当初からこんな形だったんです。

結局根本の原因はなんだったんだよ、と疑問に思われる方はかなり多くいらっしゃると思いますが、そこはホラーと言うことで……


細かい設定と話の補足として、この後に後書きと追加エピソード(蛇足)を1話入れる予定です!


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