5話 低レベル攻略。それは男のロマン。
・シエル(♀)
職業:ソーサラー(ソーサレス)
Lv.16 HP 217 SP 252
・Gilly(♂)
職業:シーフ
Lv.31 HP 778 SP 87
サンマイト遺跡42Fに生息するモンスターの平均HP…1000前後
サンマイト遺跡42F―
幸いにして未だに敵との交戦を全て避けている。低レベルのソーサラーという足手まといがいるというのにGillyさんのルート取りは完全に仕上がっていた。
41Fで煙幕花火を2つ使用。出来れば1つで済ませたかったと言っていたので少し申し訳ない。予定のうちには入っていたようだが。これからは俺もさらに慎重に移動していかなければならない。
ちなみ装備も一部変えられた。まず脚装備を「地下足袋」に。魔女っ子が地下足袋て。防御力も低い序盤も序盤の装備だが、どうやら隠し効果で敵に気づかれにくくなるらしい。一体どうやって気づいたんだ。
そしてアクセサリ装備で「ばってんマスク」。特に能力値の変化は見当たらず、攻略サイトにも単なるアバター用の装飾装備とされている。だが彼によると、これも敵に気づかれにくくなる特殊効果があるらしい。本当かよ。だからどうやって知ったんだ。Gillyさんてもしかして製作側の人間ですか?
Gilly「よし、ここが第一の難関だ」
先を行くGillyさんが足を止めた先には狭い通路。その先にはメデューサっぽいモンスターが寝ている。こちらが下手に近づかない限り目を覚まさないようだが。
Gilly「ここは煙幕花火を使っても、先の方まで届かないからな。道が狭いから相手が『詰まって』強行突破も出来ないし。前回までは最低でも3つ必要だった」
シエル「今回の算段は?」
Gilly「Lフレイムレーザーがあるだろ? レベル15で覚えるやつ。あれを通路にぶちかましてくれ」
シエル「出来ますけど、その後は?」
Gilly「すぐに死角の壁に張り付いてギリギリまでやり過ごす。気づかれたら俺が煙幕花火を使って強行突破だ。奥にいる奴を限界までおびき寄せるようにしたい」
なーる。Lフレイムレーザーは詠唱時間が長い割に威力が低いので正直扱いづらかったのだが……そんな使い方もあるのね。
Gilly「詠唱が近過ぎても敵は起きるからな…… えっと、この位置だ。ここからならギリギリ奥まで届く」
自分の使用キャラでもないのに何でここまで把握してるんだろうこの人。相当調べこんでいるようだ。
Gilly「ようし、やってくれ!」
シエル「了解!撃ちます!」
14! 9! 13! 12! 14! 16!
悲しいくらいに非力なダメージ値が画面を埋め尽くす。
うん、まともに戦ったらまず勝てません!無理です!
目を覚ましたモンスター達が一斉に通路の先の部屋を目がけて飛び込んでくる、部屋の真ん中まで進んで、壁に張り付いている人間を見つけて襲いかかろうとした瞬間!
Gilly「行くぞ!」
画面一杯に白いスモークが覆いかぶさる。一定時間とはいえ敵も味方も判別が付かなくなる代物だ。俺も感覚を頼りにキャラを動かして通路を進んで行く。途中何度か引っかかりを感じたが、深く考えないようにしよう。狭く長い通路の先は…… 階段!
Gilly「こいつは重畳だ。次もよろしく頼むぜ、相棒!」
シエル「うっす!」
本来ならば次のエリアに進む階段の前には扉があり、敵を全滅させないと開かない、もしくは敵のどれかが鍵を落とす仕組みになっているのだが、そこはシーフの特殊スキル「熟練鍵開け」で突破する。Gilly先輩マジパネェっす。
なんだろう、凄い一体感を感じる。今俺達に風が吹いている。確実に。
来てるぜ、コイツは。
画面移動のローディングの合間に(現実世界の)俺は手元のペットボトルのお茶を一口含む。キャ○ツ太郎を箸でつまんで口に放り込み、手汗をウェットティッシュで拭った。
「キてるぜ……」
暗い部屋の中で低く、重く、一言つぶやく。
一人暮らしじゃないとあやうく家族に心配されるところであった。