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53話 弱者たちの争い

 ノツィミカーラの町を出て、小走り気味に進んで30分ほど。その間は何も無く、ただ俺たちは今から戦う相手をどうフルボッコにしてやろうか、「ぼくのかんがえたりそうてきなてんかい」を言い合いながらただひたすらに進んでいた。だが決戦の舞台を実際に目の当たりにすると、各々の頭の中の恐怖と緊張感が漏れだし、次第に口数が減っていく。


「ここに奴らのアジトがあるのか……」


「もしかしたら、既にアルクって奴に見つかってるかもな」


「とにかく、ここに何人か来ているかもしれない。みんな、くれぐれも油断するなよ」


 もちろんこれらの台詞はアルクに見つかっている事を前提に言っている。つーか逆に見つけてもらわないと作戦が台無しだ。単に気づいてないならこちらから奇襲を掛ければいい話なんだけど。

 俺達は防壁を張ったテルミさんとサイトさんを先頭に、隊列を整えて山の中へと入って行く。この山にはモンスターは出ないらしいので、そこの所は一安心。寧ろモンスターが出ると、向こうがアジトとして使えないだろうしな。

 整備された林道のような物は無く、俺達は予想以上に生い茂った下草を掻き分けながら進んでいた。途中で人が踏み荒らしたような道も目に入ったが、敢えて気づかない振りをしてスルー。本当にちょうど今アジトを探している最中だという振りを続ける。


「本当にこんな所に人が来てんのか?」


「わからん、アレックスの情報だと本当に滅多に使わないらしい所だから、利便性はあまりないんだろうが……もしかしたら洞窟のような所かもしれないといっていたけどな」


 嘘の会話の続けつつも、俺達はわざと遠回りを続けながら、草を掻き分ける。


「……いたっ!」


 歩いていると突然Aseliaさんが足を抱えてしゃがみこむ。俺達もすぐさま臨戦態勢に入り、周囲の警戒を行う。


「大丈夫か?どうした?」


「あ、いや、少し足をくじいただけだよ」


 悪い悪いと彼は姿勢を戻すも、その顔は先程とは比較にならないほどの真剣味が隠せずにいた。もちろん足をくじいたと言うのは嘘。これは彼の合図だ。おそらくホムンクルスのようなものを捉えたのだろう。実物を見た事は無いが、アレックスやマガマギの証言では、光る小さな妖精みたいな感じだという。この鬱蒼とした林の中では、隙間から差し込んで来る木漏れ日のせいで、逆に空を飛ぶ光る物体は見つけにくいと感じていたのだが。

 なにはともあれ、これはこれで一応予定通り。敵がこちらに気づいたのであれば、これから先はより警戒を強めないといけない。そこでここからは敵のアジトの方面に進路を取る。適当に進む振りをしつつも、じわじわと相手に近づいていく。増援が来るまでの時間を稼ぎつつも敵を森の中に散らせない。絶妙なタイミングが必要になって来る。


「……」


 サイトさんが無言で左手で後頭部を掻きだす。これは敵が近くにいるのサイン。後ろを掻くと言う事は……敵は後ろにいる!多分俺達が通り過ぎるのを待って後ろに回りこんだってところか?……次は俺の番だ。頼みますよ、テルミさん。


「あっ!」


「今度は何だよ」


「すみません、服に草が引っ掛かって。ええいくそ……!あ、俺のことは気にせずに、先進んでてください。すぐに追いつきますんで」


 俺がしゃがみこみ、みんなは怪訝な顔をしながらも前へ進もうとする。全員の顔が前方へ向き、数歩ほど歩みを進めた……その時!


「でっ……!」


 浅いが、首筋に何かが刺さる感覚!やっぱり狙って来たか!


「敵襲っ!」


「シエル大丈夫か!?位置は!?」


 俺はすぐさま左の方を指差し、そちらへ向かって味方のアーチャーとソーサラーの一斉攻撃が始まる。


「全方向にも気を配れ!」


「すまん、大丈夫か?防壁が少し遅れた」


 テルミさんが広域防壁を張りながら俺に近寄ってくる。傷は大したことは無いが、一応プリーストの回復魔法をしっかりとかけておく。俺の足元には……矢。これまでの手口といい、雨宮って奴のものだろうか。


「もっと後ろにいると思ったんだが」


「複数いるのかもしれません。とりあえず、ここを!」


「おう、みんな! 一旦離れるぞ!」


 離れる、と言っても実際は敵のアジトへ向かって直進。問題はここからだ。


「あっ!見えたぜ!小屋だ!」


 俺達は敵のアジトの周りの開けた庭に飛び出す。アジトである小屋はキャンプ場で見かけるロッジ程度の大きさだが、庭は25mプールがすっぽり入りそうなくらいに広々としている。今の時刻はこの世界で言う所の昼3時くらいであろうか。太陽が周りの木に隠れ、大きな影が出来ていた。


「みんな!大丈夫か!?」


「くっそ……森の中で待ち伏せされてたなんて。でも、この人数だったら……」


 

「……その人数なら……何なんだ?」


 ぎぃ、と何かが軋むような音が聞こえた瞬間、笑みを含んだ男の低い声がその場に響き渡った。場所は……小屋の上? 


「くく……こうも上手くいくとは……」


 その男は銀色の髪を優雅にたなびかせながら、余裕の面持ちでこちらを見下ろす。


「あ、あれが……!」


 アカシックドミネーターのトッププレイヤー……漆黒の君。直接対峙するのは2度目だが、やはりその威圧感は半端ない。青白く光る剣を構えながら、ねずみ取りにかかった獲物を眺めるようにその口元には邪悪な笑みが浮かんでいる。

 さらに小屋の後ろから人が続々と出て来る。1、2、3…4。4人? いや、さっき襲ってきた連中を含めたら、さらに2人。大当たりだ。だが、後一人いる筈だが……。


「ふん、アレックスから色々聞き出したと思うが、そちらの情報は全てこちらに筒抜けだったんだよ。アルク対策をしたつもりだろうが、もう少し身内の人間にも気を配っておくべきだったな!」


「……まさか、ギルド内部に!?」


 な、なんだってー!?(棒) でも、漆黒の君の顔は自信たっぷりだ。上手い具合に引っかかってくれているみたいだな。


「まさかここに全メンバーが揃っているとは思いもよらなかっただろう。町の人間を上手く味方につけたようだが、その物量に安心しきって戦力を分散させたのが仇になったな!」


 ああ、なんかもう清々しい。やっぱ頭はあんまよくねーわこの人。


「思わぬ収穫だったのはこっちも同じだ!ここでお前らを倒せば、殺人事件は止まる!」


 サイトさんがヒーローっぽく相手を威嚇するが、それに対して漆黒の君は目を見開いて笑う。


「お前は馬鹿か?巷の殺人事件を全て俺達のせいにするつもりだったのか? だとしたら本当にお笑い草だ!」


 彼は切っ先をサイトさんの顔へと向けた。


「教えてやろうか?この世界で行われているゲームプレイヤーによる殺人事件だがな。今ここにいる俺達が関わったのはほんの半分……いや、それすらもいっていないんだよ!」


「……半分もいくのなら十分だ。それにお前らのは特に悪質なのが多い。殺人を防ごうとする俺達を襲ったり、町にモンスターを放しての無差別殺人。単なる殺しよりタチが悪い」


 つーか半分きるのかどうかも怪しいし、何百人規模で殺したでしょうが、あんたら。


「何だよタチが悪いって!理由があろうが、無差別だろうが、殺しは殺しだし、殺された人は殺された人、殺された遺族もそれで納得がいくわけがないだろうが!」


 な、何だ……こいつ? 笑ったかと思えば急に激高しだしたりして…… この前もそうだ、感情の振れ幅が大きすぎる。イコールかなり性格的にヤバくないか?


「お前の意見ももっともだろうが、それは殺しをやった人間が言う台詞じゃないだろ!」


 おお、サイトさんは相変わらずの正論。漆黒の君は歯を噛み締め一瞬剣を構えたが、すぐに気付いたかのように再び笑みを浮かべてこちらを見下ろす。……本当に何なんだこの人。


「ひひ、じゃあ聞くがよ。殺しをやっていない人間がやる事が絶対に正しいのかよ?人殺しさえしていなけりゃその人間は正しくて、人を殺してしまったら何事も間違いになる。そうだってのか?」


「誰もそんな極論は言っていないだろ……」


 テルミさんが少し呆れたかのように返す。確かに頭の悪い意見だとは思うけど。


「じゃあ、何で貴様らのような例外を除いて、こっちの世界に来た奴らはみんな殺しをやりたがるんだ? どうしてだと思う?」


 論点があっちやこっちや飛ぶなぁ……。でも、俺達は敢えてそれに合わせる。時間稼ぐにはこっちの方が都合がいいからな。もちろん周囲の警戒も怠らずに。


「それは人それぞれじゃないのか?自分の立場を勘違いして行動に走ったと言う奴もいるし、興味本位の奴だっているだろうし」


「そうだ……この世界は現実での邪魔な奴を消せるんだ。言っておくが政治家や有名人を殺すのは雨宮やアレックスみたいなガキがやることだ。もしも真っ当な大人ならまず最初に誰を殺すと思う……?」


 アレックスさんは大人だろうし、あんたらも真っ当とは言えんだろうに……しかし、大人が最初に殺す人間といえば……。


「……自分に直接危害を加える人間か?」


「イエス。ニュースに載るような政治家や有名人や犯罪者なんぞ、いくら殺しても自分の人生には何の影響もない。少し社会を知ればそれが嫌でも分かるだろう?だからみんな選挙なんかに行かないんだよ。個人にとっての悪人、始末するべき存在はまた一般の個人でしかない」


 漆黒の君は益々饒舌になり話を続けた。


「マスコミが騒いで報道している裏で、一体何人もの人間が同じ原因で死んでいると思う?証拠も一切残らない。いや、殺しだということすら分からない。殺す人間、殺される人間も様々だ。外部から捜査のしようもない。言わば、らくらく完全犯罪システム。『こんな物を利用しない手があるか』、お前らの数倍はそう思っている奴らがいるだろうよ。……いや、実際にいるからこそ、今のような事態になっているんだぜ?」


 男はこちらをあざ笑うかのように、言葉を返す暇を与えぬまましゃべり続ける。……自己陶酔の激しいヤローって聞いてたけどその通りだったな。


「(サイト……!)」


「(言わせとけ……)」


「(いや、林の中に3つの人影が確認できた。向こうは挟み打ちのつもりらしいぜ)」


「逃げる算段か? こんな状態で良くもそんな考えが浮かぶものだ」


 瞬間、俺達の背後から再び激しい衝突音が聞こえて来る。


「撃ってきた!?」


「雨宮ァッ!誰がもう撃てと言ったぁっ!」


 意外にも怒号を飛ばしたのは漆黒の君だった。すぐに攻撃は止み、林の中に静寂が戻る。今はテルミさんの防壁がちょうど俺達を包んでいる状態だから、そう簡単には不意を取られないはずだが……目の前のコイツが向かって来るとちょっと分からないな。


「ふん。あんな奴が他にもこっちの世界に来るという可能性は考えもしないのか?」


「……お前の味方じゃないのかよ?」


「どうかな」


 雨宮ロキ……どんだけ仲間内でも(略)。しかしリーダー格の漆黒の君でもこうだと言うのだから、相当手を焼いているようだな。


「それとお前らには最後にもう一つ尋ねておきたいことがある。俺達を始末して、仮に殺人が表に出なくなったとして……それから一体どうするつもりだったんだ?」


「……この現象を止める方法を見つけるつもりだった。今はゲーム製作者に問い詰めるくらいしか案は出ていないというのは認める」


 サイトさんの答えに、さらに漆黒の君は肩をすくめる。


「その製作者に問い詰めることすらも出来ていないというのが現状なんだろ?……そうそう、確かお前らのお仲間でゲームを止めさせようとして、実際に逮捕された奴もいたよなぁ?どうしてだと思うよ? あの日何があったか知ってるか?」


「何が言いたい?」


「お前らの他の『お仲間』が警察とゲーム会社にリークしたんだよ。IPアドレスを流し、そいつの住所を特定して見せしめのために逮捕させたってわけだ」


 マジっすか。意外と情報通でもあるんだな。


「ゲームを止めさせたところで何になる?この世界が存在した所でどれだけの不利益が生じる?自動車が毎年のように数千人規模の死亡事故を生み出しながら規制されないのと同じく、このゲームも、世界も、存続を望むものが大多数なんだよ!何人ものプレイヤーがこっちの世界に来ていると思う!?お前らのような考えを持った存在は何人いると思う!?1~2割行けばいい方だ!他の奴らはみんな、自分自身の思いのままに、新たな自分の体で元の世界とは比べ物にならないくらい『幸福』に過ごしているというのに!」


 単にこの演説がやりたかっただけだろ、こいつ。その考えには致命的な欠陥があるのに気づいていないのだろうか。この作戦だってそれを見越してのものなのに。


「そんな考えを持った奴がお前らのお仲間にいるかもなぁ?いや、今いる奴の中にいるかもしれないんだぜ?いつ寝返るかもしれない奴がよ!お前らの掲げるその綺麗事は誰も望んじゃいない。ほんっと、糞の価値にもならない、何かの問題を根本的に解決するでもない!」


 漆黒の君は完全に悦に入っているようだった。俺達を言葉でも打ち負かしたかったのだろうか、それでこちらを論破したつもりなのだろうか。……いずれにしても、ここから言葉で説得するのは難しい。後は体で解からせるしかないかな。


「はぁ……言いたいことはそれだけか? 連続殺人犯が」


「……それしか返せないのか? そんな現実での価値観などこっちの世界では何の意味も持たないというのに」


 仲間が一斉に武器を構える。そして敵も同じく。漆黒の君もようやくと言った感じで、彼の剣から神々しい虹色の光が発せられる。


「たかだが、2~3人多いとこころで所詮は烏合のしゅ……」


『大変だ漆黒!嵌められた!』


 上空から男の慌てたような声が聞こえて来る。人間ではない。体長20cm程度の妖精みたいなもの。ホムンクルス……アルクか。なるほど、あんな風に伝えているんだな。テレパシーとかじゃなくて少し安心した。ん?ということは、この中にはこいつはいない……。


「なんだアルク……?」


「嵌められたって……?」


 相手が少し焦ったかのように身構える、ついでに言うならこっちも少し焦っていた。

 ちょっと予定より早いけど……大丈夫かな?

 さらに慌てたように林の中から弓を持った男が飛び出し、漆黒の君の後ろに隠れて喚き散らす。


「アルク、何で敵に気づかなかったんだよ!?」


『ここの奴らも見張っている上に、あんな格好をされると、遠目に見たら気づかねぇよ!』


 さらに林の中で怒声と悲鳴が聞こえたと思うと、茂みの中から次々に人が現れる。


「タミ……!その格好は……?」


 なんと、全身に木々を張り着け(所謂ギリースーツ)、顔にも迷彩ペイントを施した面々。このファンタジーの世界観に似合わない、現実の特殊部隊さながらの如く。


「思ったより平和そうじゃねーか。早く来て損したぜ」


「いや、早すぎだろ……10分以上は……」


「誰も怪我してねーし、敵さんの数も揃ってるし。これで結果オーライさ」


 タミさんが右手を上げると、更に続々と人が小屋を取り囲むように姿を現す。そしてついでに手足を縛られ、猿ぐつわを巻かれた女性が2人放り投げられる。


「る、RUIとかおりんが……」


「……馬鹿が」


 一度に全員で突入すると相手が恐れをなして逃げてしまう可能性があるので、時間を置いて残りのメンバーが突入する手はずになっていた。しかしここでも問題になるのがアルクの存在。証言によるとアルクが操れる偵察用のホムンクルスは4体まで。もしかしたら、山の麓を常に見張り続けているかもしれない。なので、後発隊は大周りをして俺達の入った所とは遠く離れた所から突入する予定だった。そして俺達先発隊もアルクが黙って偵察出来ないくらいに、戦局を広げるつもりであった。それがなぁ……


「へへ、この(ギリースーツ)はお前らにも内緒の秘蔵のアイデアだったんだが、予定以上に早く到着しちまってよ。いても経ってもいられなくなって」


「……まぁいいか。こっちも相手方のリーダーさんがおしゃべり好きで大助かりしていた所だ」


 こちらのメンバー全員が残りの犯人グループに向けて一斉に戦闘態勢に入る。これには相手方も動揺を隠せず、すごすごと漆黒のそばに寄り添っていく。


「10人相手なら、待ち構えさえすれば8人でも何とかなると思っていたようだけど……29人ならどうだ?」


「おまけに2人減って残りは6人。戦力差は約5対1。まだやるつもりですかぁ?」


 計算通りとはいえ、形成は完全に逆転した。相手方のメンバー構成、おおよそのレベルも分かっている。そしてこの完全包囲。これなら……やれる。普通の人ならまず心が折れる。


「はっ……はは、いいのかぁ!? こんなところに主力を全部集めちまって! 町にはまだ俺達の仲間が……」


 アーチャーの男(多分雨宮)が苦し紛れにブラフを掛けようとするが、もちろん今の俺たちには通じない。


「マガマギなら既にギルドの地下牢にいるよ。もちろん、他にお仲間がいようとて同じ事。今のお前達の状況が、その場凌ぎの拙策で覆されることはまずありえない!」


 止めを刺されたかのようにアーチャーの男は吃音する。


「自分たちの置かれている状況が理解出来たのなら、大人しく投降することだ。今からでも出頭すれば、命だけは助かる」


 8割がた死罪になることは見えているのだが、ここは敢えて優しい嘘を。絶望的な状況の中で出会う助け船という物は結構人の心を動かしたりするものだ。

 ほらほら、既に約2名ほど手を上げちゃってるし。つーか雨宮、お前はあれだけやっといて、まだ投降すれば命が助かるなんて思ってんのか。おめでたい野郎だ。


「こいつらの甘い言葉にのってどうする」


 漆黒の君の低い言葉が響き、手を上げた側の2人がより一層引き攣る。


「で、でも……あんたがいても流石にこの数じゃ……」


「特に雨宮。お前は一生この世界での人生を獄中で過ごすつもりか?この世界にわざわざ来て。ようやく現世との繋がりも絶てたというのに」


 ……何を言っている?現世との繋がりを絶つって……ただの例えなのかもしれないが。


「……で、でも、あいつらには!」


「勝てない事はない」


 漆黒の君は淡白に重く、冷たく、そう言った。

 ナルシスト故の単なる強がりかもしれないが、先程とは打って変っての物静かな言動に、俺達も警戒を強める。


「まだ…… やるつもりか? こんな状況でも。どんな勝算があるのか分からないけどさ」


「ふん、簡単な事だ」


 漆黒の君は目を細めながら、自分を取り囲む相手の顔を一瞥する。


「お前らの中の1人でも……殺せれば俺の勝ちだ。そうだろ?」


「……っ!」


 彼は虹色に光る剣を下段に構え、こちらを挑発するように顎を上げて来る。


「来いよ。ヒーローのなりそこないどもが」


 そして、矢も放たれる。


「うわっ!……あぶねぇ!」


「よりによって捕虜を狙って来たぞ!」


 雨宮は半泣きの声で笑いながらこちらに弓を向ける。


「や、やってやる……俺を殺そうとする奴なんか……全部ぶっ殺してやる……!」


 だーめだ。こいつは完全にトチ狂ってやがるな。でも漆黒の発破もあってか、他の連中も既に抵抗の意思を見せている。恐怖支配とはいえリーダーであることには変わりない、か。


「どうします?タミさん」


「一応ここまでは作戦の第2段階で予定通りなんだろ?約1名こっちの痛い所を突いて来る奴がいるが……ま、気をつけながら受けて立つしかないな!」


 漆黒の君は一歩も引く気は無いみたいだ。しばらく、こちらの様子を窺うかのように睨みをきかせる。そして、その赤い瞳が素早く瞬いた思った瞬間―


 最後の戦いが始まった。


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