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51話 怖いくらいに鮮やかです



 そして決戦の地へ。


 格好良く言ったつもりだけど、やっぱりリスポン地点はいつもの酒場。

 そして今日は出前に紛れて、冒険者ギルド本部の前に到着。これでひとまずは安心だ。

 ……なにやら入り口で人が長蛇の列を作っているな。何やってんだろ?



「合言葉をどうぞ。『ソース』」


「……男の子」


「はい、こちらへどうぞ。次の方、合言葉は? 『サイダー』」


「おばあちゃん」


「はい、こちらへ。次の方、『赤いウインナー』」


「ら、ライス……?」


「……こちらへ。身体検査を受けてからお通りください」



 ……本当に何やってんだ。



「あ、おーい。シエルさん」


 にぃにぃさんだ。何だか物凄く助かった気がする。


「何やってるんですかあれ?」


「みんなギルド本部の中にいた方が安全って考えているみたいでね。ああやって振り分けているとこだって」


「あんまし意味無いんじゃないですか?分かる人には分かる合言葉だと思うし……」


「うん、特に意味はないみたい。でも正解した人は現実の意識がトリップしているって分かるから、別口に分けられているみたいだよ」


 無駄な作業にも思えるが……まぁ説明のしやすさとか?


「じゃあ俺達も今からこの列に並ぶんですか?」


「いや、私らはあっち。裏口から入れるよ」


 犯人警戒のためとはいえ、事前連絡も無しにそんなことやられてもなぁ。

 あ、何か看板が立ってる。


『殺人犯退治に参加される方は裏手に回ってください→』


 ……大丈夫なのかよこんなんで。緊張感に欠ける。

 

 看板の指示通りに歩いて行くと建物の裏口が見えて来る。そこには何人もの屈強な兵士が並んでおり、しかも何分かおきに交代するといった厳重さ。分かり易いくらいに本命だ。

 ここでは中に一人ずつ通されるみたいだ。にぃにぃさんが先に入り、ほどなくして俺の番が回って来る。中に入るとすぐさま鉄格子に直面。右手には分厚そうなガラス戸越しに、これまたギルドのお役人っぽい女性が座っている。

 

「合言葉代わりに今から質問をします」


「はい」


「殺人犯グループのメンバーの名前を覚えている限り答えてください」


 良く考えられてるなぁ。


 幸いにして俺の記憶力の調子は良く、全問正解で通される。親切にも昨日とは別の会議室までの道のりを張り紙が示してくれており、何の問題も無くメンバーの元に到着。

 今のところの集合率は八割くらいか。各々が今日の決戦に向けて、装備の確認や精神統一を行っている。部屋の壇上ではメンバーのリーダー格の3人が何やら打ち合わせをやっている模様。


「あれ?そういえば、Aseliaさんまだ来てませんね?」


「本当だ。いつもならすぐに飛んでくるのに」


 まだ全員揃ってないし、もう少し待ってみようということになったが、28人目が来た辺りから段々不安になり始める。それから更に20分くらいして流石にそろそろ誰かが探しに行こうかと雰囲気になった時、廊下からどたどたと足音がしたと思ったら、部屋の扉が勢いよく開け放たれる。


「ちくしょう!場所変えるなら連絡くらいしろよな!」


「……誰?」


 声でAseliaさんとは分かるけど。いつもの白銀の鎧を着込んだ彼(体は彼女)とは違って、装備は上から下までまで真っ黒なものに変えられていた。本人は気合入れて新しい装備にしたつもりだろうが、それがかえって仇になったみたいだ。


「ずっっっと、昨日の会議室で待ってたんだぞ。人は来るけどここのメンバーが全然来ないから、受付に問い合わせに言ったけど、忙しいからってまともに取り合ってくれねーし」


「あー、多分、あの看板立てる前に中に入っちゃったんだな。すまんすまん」


「待たされるだけならいいけど、男どもが身体検査だとか言って、鎧脱がせたうえに、人の体べったべた触ってくるしよ……。マジで前座代わりに斬り殺そうかと思ったぞ」


 そりゃ、今のあんたは絶世の美人さんだし。男の性なら仕方ない……かな?

 斬り殺されても文句は言えないが。


 彼はすっかり御立腹のようだが、これでひとまずは安心。タミさんの号令で皆が着席する。この部屋は昨日の会議室とは違って、どちらかと言うと学校の視聴覚室に近い。

 部屋が暗くなり、壇上にスクリーンが映し出される。ここでの変な突っ込みは野暮ってもんだ。そして指示棒を持ったサイトさんが今回の作戦の説明を始めた。


「昨日はみんなに詳しい内容を教える事は出来なかったから、ここで改めて今回の作戦を説明させてもらう。まず、これがこの世界全体の地図だ。アレックスさんの証言によると、犯人グループはアジトというか溜まり場を3ヶ所ほど持っているらしい」


 世界地図に3つの○が表示される。それぞれが適度な距離で離れており、二つは町の中だが、もう一つは町から離れて山の中にある。


「思いっきりこの町にもアジトがあるじゃねーか」


 Aseliaさんの言葉に、サイトさんも軽く頷く。

 

「ああ、この町での犯行は主にここを根城にして行っていたんだろう。アレックスも普段はほとんどここに集まっていたと証言している」


 映像が一部切り替わり、アジトと思われる一軒家の写真が映る。


「でも、今回はここは叩かない。付近には一般市民も多く住んでいるからだ。下手に戦闘を行うと町に被害が出る。俺の昨日の案もここでは使いづらいしな」


 再び映像が切り替わり、同様にこの町の北に位置する町のアジトらしき建物が映し出される。


「こっちのアジトも同じ理由だ。混み合った市街地戦は出来るだけ避けたい」


 と、なると……


 今度はこの町の北西、山奥のアジトらしき小屋の映像が映し出される。小屋の周りは割と開けているが、さらにその外側は薄暗い林が広がっている。


「今回叩くのはここだ。この場所で決着をつける」


 確かにここなら町や市民に余計な被害を出すことはない……が。


「でも、どうやって犯人グループを全員ここに追い込むんだ?」


 俺と同じ疑問の声が上がる。でもサイトさんはそこの所もちゃんと考えてあるといった感じだ。表情に自信が表れている。


「町にある二つのアジトから追い出してやればいい。奴らがこの山奥のアジトに集まらざるをえない状態にするんだ」


「追い出すって……どうやって?」


「だからあんな看板を立てたんじゃないか」


 殺人犯退治が云々って奴? あえて自分達の動きを教えることで、相手に警戒心を持たせる効果を狙っているのだろうか。


「それだけじゃない、今朝からあのアジトの前の通りは何でか知らないけど、やたらギルド側の警備が厳重になっててさ。おまけに何をやるのかは分からないが、あのアジトの前に大量の火薬が運ばれている」


「……追い出すってそういうことか。でも火薬は本末転倒じゃないのか?」


「大丈夫、ほとんどが偽物だよ。昨晩ギルドマスターに頼んでこれだけの準備を仕込んでもらった。もちろん、北の町でも同様」


「でも、それで都合良く山奥のアジトに集まってくれるかな?」


 スクリーンが再び世界地図に切り替わり、この町と北の町を除いた全ての町に×印が記入されている。


「この町以外の全住民に(この世界換算での)朝10時以降の外出禁止令と冒険者の退去命令を出している。もちろんこの事はこの町の人々には知らせていない。さらに町の門の警備も強化して冒険者には念入りな身体検査を行わせている。よって、他の町への出入りはまず不可能」


 そこまでやるか……。


「加えてアレックスの証言で、少なくとも漆黒の君と雨宮ロキはこの町にリスポンしていることが明らかになっている。特に漆黒の君は仲間内で頼られているらしくてね、みんなまず最初は絶対にこの町に集まって来るらしいんだ」


 そこまで分かっているからこそのこの大掛かりな作戦か。この町に一度集め、町に長く入られないような状況を作りだす。アレックスさんの裏切りもそろそろバレている事だろうし、それに加えて殺人犯退治の看板にもうお前らのアジトは分かっているぜの動き。すると相手は焦って町を出て行き、外のアジトで作戦会議でも開かざるをえない……。もの凄く上手くいってこんな感じか?


「そんなに都合よく進むかなぁ……町の中のどこかの民家に逃げ込まれたらそこで終わりなんじゃ……」


「この町の人全員が互いを互いが見張っている状態だ。町の至る所に注意喚起の張り紙も張ってあるしね。さらに一時間おきに隣の家の確認を行い合うように義務づけている。さらに重要なのはこの山奥のアジト。実はアレックス本人は行った事が無いらしい。酒の席で聞いた情報なんだってさ。昨晩ギルドの人に夜通しでこのアジトの捜索をやってもらったんだ。よって向こうもこのアジトの場所はまだ知られてないと思っている可能性が非常に高い」


 何この『一晩でやってくれました』的な展開。有り余る物量があるからこその、完全にコストと労力を度外視した作戦だ。昨日の直接対決の際の案といい、色々とやり過ぎてる気がする。


「向こうにはそこまで頭の回る人間はいないようだし、シエルさんの話だと漆黒の君もそこまでらしいからね。でも、向こうのメンバーの多くは彼を頼りにしている。恐怖交じりにね。だから彼に無理に意見を言う者はいないはず。彼が山奥のアジトに行こうと言ったら、その場では逆らえないはずだ」


 俺の話持ち出されちゃったよ。大丈夫かなぁ、色々と。


「何度も繰り返すようだけどこの作戦は穴がある。いや、穴だらけと言ってもいい。相手方が町に残るならば市街地戦になるだろう。その時はその時なんだが」


「じゃあ、何でわざわざこんな大掛かりな事を?」


 その時、部屋のドアがノックされる。若いギルドの役人の男が部屋に入ってきて、はつらつとした表情で敬礼した。


「一人、網にかかりました!」


「本当か!? 当たればラッキーなくらいに思っていたけどやってみるもんだな!」


 前の3人は大喜びしている。その他の俺含め残り26人は何が起こったのかさっぱりといった感じだ。すると、サイトさんがAseliaさんに視線を合わせる。


「Aselia……入り口の合言葉には答えられたか?」


「犯人グループの名前じゃなくて、男→キンピラゴボウって奴?」


 Aseliaさんも結構な孤独のグ○メのファンなんだな。

 いや、この場合は久住ファンか?


「ああ、その様子だと答えられたみたいだな」


「あれって何の意味があったんだ?答えても答えられなくても身体検査されるみたいだし……あっ!網ってそういうことか!」


 彼の言葉で俺も要領を得る。


「そうだ、合言葉さえ言えばギルドの内部に潜入出来るとでも思ったんだろうな」


「案の定アサシンスーツで変装していましたよ。しかし、あらかじめ武器さえ奪っておけばこっちのものです。8人がかりで取り押さえてやりました」


 若い男はしてやったりという顔でニヤリと笑う。よくよく見ると頬の所に痣もある。実に輝かしい漢の勲章だ。


「身体検査をやる事そのものが目的だったんだな? わざと身内外の人間でも分かる合言葉にして、見事誘い込んで釣り上げたわけだ」


「御名答。まぁ直接対決の際に説明しやすいように、人を振り分けるのが本来の目的だったんだけど……思いの他上手く引っかかってくれたようだな」


 やるぅ。裏口の合言葉だって、犯人グループの一員なら言うのを戸惑ってしまうしな。これで残りは8人になったわけだ。


「で、誰だ?捕まった奴は?」


「マガマギという女です。ファイターの」


 マガマギ……確かあの中ではレベル低い方だったな。流石に大物とはいかないか。


「よっしゃ、当人はここに連れて来れるかい?」


「はい、ただ今」


 ほどなくして、手足を手錠で繋がれた黒髪のポニーヘアの女性が連れて来られる。鎧のような装備の類いも全て取り外されており、その顔はまさしく恐怖に歪んでいる以外の言葉が見つからない。それと彼女も顔が痣だらけだ。8人がかりだったらしいし仕方ないね。

 さらに隣には、ギルドマスターの爺さんもついて来ていた。


「さーて、マガマギさん。あんたにも色々話してもらおうかねぇ?」


 マガマギは目を見開いて、必死に訴えて来る。


「ち、違う!俺は悪人しか殺ってねーよ!お前らを襲った奴といい、町にモンスターを放った奴といい、みんな雨宮ロキって奴がやってんだ!」


 まーた糞アーチャーの名前が。どんだけ仲間内でも嫌われてんだ。

 それと、この人も中身は男っぽいな。


「似たような事をお前らの仲間から聞いたんだが?」


「やっぱり……アレックスの奴は寝返ったのか?」


「そんないいもんじゃねーよ。あくまでも出頭扱いさ。今は牢屋にぶち込まれてるし、どちらにせよ処刑されることには変わりねーしな」


 タミさんが邪悪な笑みで一部事をオーバーに言うと、マガマギは益々体を強張らせる。


「や、やめてくれぇ……!お、お願いだから命だけは助けて……!」


 マガマギは涙交じりの声で命乞いをする。……人間ってこうなると、本当に無様だなぁ。

 そしてまたギルドマスターの爺さんが彼女の肩を優しく叩く。う~ん、なんかデジャブ。


「お嬢さん、君がここに入ろうとしたのは君個人の判断かね?」


「ち、違う!奴らに命令されて来たんだ!奴らにはどうやっても叶いっこないし、逆らって殺された奴も知ってるからよぉ!」


 マガマギは顔を上げて必死の形相で訴える。


「すると他の仲間も今君がこの建物にいると知っている?」


「あ、ああ!」


「要は俺達の動向を探りに来たんだろう? 今朝からホムンクルスの対策もしているしな」


「そ、そうだ!いつもはアルクの奴がホムンクルスを使って偵察をやっているんだが、今日に限ってギルドが滅茶苦茶厳重に警戒されてて……!殺人犯退治とかいう看板も立ち上げられてるし、絶対お前らが動くと思ったから、仲間内でレベルの低い俺が見に行かされたんだ!」


 おうおう、これはまたペラペラとしゃべってくれるなぁ。


「君よりレベル低い奴が二人もいるようだけど?」


「か、かおりんとRUIって奴は雨宮に取り入ってるから……。こないだは何の事情も知らない『A.R.クリスタル』の獲得者も殺しやがったし、今日もまた……」


 その話ももう聞いた。しかし、この三人はフルボッコ確定だな。情状酌量の余地が無い。さらに彼は弁解を続けようとしたがギルドマスターがそれを遮る。


「まぁまぁ。あんたは私利私欲以外の目的だったのかもしれんが、事情を知らないわしらや、殺された当人、遺族、友人にとっては殺しは殺しでしかない。それ相応の罰は背負ってもらうよ」


 マガマギは啜り泣いたまま顔を上げられずにいる。


「じゃが……今ならまだ、いくらか罪を償うことが出来る。のう、サイト君?」


「はい、彼を今利用しない手はありません」


 サイトさんの目は対照的に輝いている。なんか社会の縮図を見せられたような気がするが、今はサイトさんが味方で、マガマギは敵だ。本当によかった。マジでよかった。


「今、他の仲間はどこにいる?連絡手段は?」


「ま、町はずれの民宿だ……今は全員ではないが……」


「そこには誰がいる?」


「し、漆黒と雨宮とアルク……」


「よし、その三人がいれば十分だ!民宿だから電話はあるよな?」


「あ、ああ……」


 サイトさん絶好調だなぁ。流石は高学歴。ノったら強い。


「で、結局どうするんだ?」


「こいつに電話させて、残り全員を山奥のアジトへと誘導してやる。そして昨日の策で一網打尽にしてやればいい。一人少ないし、ちょっとは楽になるぞ」


 早速、そのための適当な言い文句を考えるとする。

 とりあえず、町の中は警戒が厳重すぎて危険だから、山奥のアジトに集まったほうが良さそうだと言う事。そして山奥のアジトの場所はまだ判明していないため、日が落ちる前に一部の冒険者がアジトの捜索を行うらしいとの事。捜索人数は10人ほど。また、町の門が昼過ぎには閉まるため移動は出来るだけ早めに……。


「こんなもんかな」


「10人か……敵は乗ってくれるかな?」


「しっかり作戦を練って、待ち伏せていれば2人の差なんてどうってことないと油断してくれるだろう。向こうだって俺達のことを潰したがってるしな」


 この作戦において一番都合が悪いのは、皆で散り散りに逃げられてしまう事。この世界も結構広いし、一度本気で雲隠れされてしまうと、捜索が更に困難かつ危険になるからだ。相手を一網打尽にするためには一度全員を終結させる必要がある。

 すなわち、相手の対抗心を刺激して真っ向から挑む(ように見せる)必要がある。


「で?『最初の』10人は誰が行くんだ?一番危険なんだろ?」


 アルクに発見されるための最初の10人。上位プレイヤーのサイトさん、Aseliaさん、テルミさん、タミさん、グンジョーさんの5人は確定。後はプリーストやソーサラーからやる気のありそうな奴を適当にと。


「うう、みんなには悪いけど最初は嫌だな……」


 思わず隣でにぃにぃさんが漏らす。情けない話だが、俺も同感。このメンバーは待ち伏せしている敵の初撃を一手に引き受けるのだ。最終的に全員で戦うとはいえ、この中に入るのは危険すぎる。

 結局希望者が出なかったので、後でくじ引きで決めるという形になった。

 どうか当たりませんよーに。


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