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49話 決断の時です

 漆黒の君 ファイター Lv 67


 アルクェイド アルケミスト Lv 58


 クロイツ プリースト Lv 54


 雨宮ロキ アーチャー Lv 52


 バドランド ソーサラー Lv 51


 シン ファイター Lv 45


 マガマギ ファイター Lv 41


 かおりん☆ ソーサラー Lv34


 RUI アーチャー Lv32



 ◇ ◇ ◇ ◇



「これで全員か?」


「俺が把握している分は」


 レベル30台クラスの奴らは全く記憶にないが、上位の奴は俺がとったメモとも一致していた。アルクェイド、雨宮ロキは俺の予想が的中。しかし漆黒の君は出来れば敵でないことを祈っていた筆頭である。


「では次はこいつらの容姿を……」


 まるで警察の取り調べさながらの光景だ。数十人規模が楽々入れる冒険者ギルド本部の会議室はしんと静まり返り、ギルドの尋問官とアレックスさんとのやり取りが静かに響いていた。その様子を俺達掲示板メンバーは黙って見つめる。


「よかったのう、サイト君」


 右手の方で飄々とした老人の声が聞こえる。ギルドマスターの爺さんちーっす。この世界の人々に俺達の事情を話しても到底納得してくれるとは思えないが、そこはサイトさん達が頑張って説明して理解してもらったらしい。本当にお疲れさまでした。


「これで囮捜査とかはしなくて済みそうですが……敵も思ったより強敵です」


 え、そんな物騒なことを考えていたの? よかったー、出頭して来て。


「こちらには数の利があるから最終的には負けはせんだろうが、これだけの相手を犠牲者0で確保するのは難しいじゃろうな」


 Gillyさんと同じような事を言うギルドマスター。しかし、それが最重要課題なのは肯定せざるをえない。漫画のように上手くいくかどうかも分からないし。


「何かいい案はあるかの?」


「理想案に過ぎないものばかりですよ。出来れば真っ向勝負は避けたいところですけどね」


 策……ねぇ。ああ、駄目だ。俺の頭じゃ思いつかん。自分の事ならともかく、人の命まで預かるなんて責任が重すぎるっての。ここはデキる人に任せた方が得策だな。俺は俺のやるべき事を……どうやってアレックスさんを連れ出すかどうかを考えておこう。死罪をまぬがれる可能性が出てきたとはいえ、20人以上もの人間を殺害している彼の独房入りは絶対に避けられない。連れ出せる隙はほんの僅かだな。

 連れ出すのが無理にしても、Gillyさんと会わせる時間はなんとか確保したい。だが、四六時中監視の目が入っている中でそんな事が可能なのか。とりあえずギルドの役所に彼宛てのメールは送っておいたが……彼がいつ気づくかにもよる。


「……特に性格がヤバいのが雨宮ロキって奴だ。先日の広場での襲撃もコイツの独断で行われた。殺人も全体の3~4割はコイツじゃないのかな?他にも婦女暴行とかもやってる。とにかく中身が子供……いや、ガキだな。子供と大人の悪いところを寄せ集めたような性格だ」


 事情聴取が犯人グループの人物像の話となると周りのみんなの表情が一斉に固くなる。そう、このアーチャーには散々な目に会わせられたのだ。特にサイトさんにいたっては殺されかけたしな。


「この漆黒の君という人物は?」


「リーダー格……ではある。実際に一番強いし、下の奴らも怖くて逆らえない雰囲気が出ている。でも、完全にこっちの世界の自分に陶酔しきっている感じで、逆に足を引っ張りがちな雨宮のことを鬱陶しく思っている節はある」


 やっぱり悪人同士の相性の問題もあるのか。何とか利用出来ないかな。


「クロイツ、バドランドも普通に性格悪いけど、何事も漆黒についていれば大丈夫って思ってる気がする。シンとマガマギは、まだマシな方だ。悪人に対する裁きのつもりで動いている。かおりん☆とRUIは後から入って来た奴だが、こいつらも悪人殺しを楽しんでいる。あまり強くはないが、雨宮についで性格が悪い。なんかもう、色々頭が足りてない。先日の町のモンスター襲撃の主犯格はこの三人だしな。さらに昨日に至っては……」


「至っては?」


 アレックスは吐き捨てるように言う。


「俺達の世界で賞金が貰える『A.R.クリスタル』ってアイテムがあるだろ? それの持ち主を殺害して、クリスタルを奪いやがった」


 自己満とはいえ世直しですらなく、完全に私利私欲の犯行、か。


「あいつらにとって人殺しはちょっとしたお遊びなんだ。悪人だから殺すのではなく、悪人だったら殺してもいいって感覚なんだ。後先をまるで考えていない」


「いや、お前も人の事言えないけど……」


 前の方で聞いていたタミさんが冷静な突っ込みを入れる。


「それは十分承知している。でも、殺人を犯しているって感覚は忘れないでいた。自分のエゴかもしれないけど、世の中のためを思ってやって来たつもりなんだ。でも、あいつらは違う。人殺し、いや力による蹂躙そのものを楽しんでやがる。当初は強攻策をとろうとしなかった、お前らすらを疎むのはそのためだ」


 分別のつかない幼稚園児にミサイルの発射スイッチ持たせた感じなのかな。ともかく、この人の憔悴した表情を見ると、普段の付き合いも気が気でなかったんだろうとつい同情してしまう。


「あ、ちょっと質問いいですか?」


 アレックスに比較的近い位置にいるくろね子さんが手を上げた。


「さっき『A.R.クリスタル』の持ち主を殺害したって言ってましたけど、たしか獲得者のクレッセントさんってまだレベルが30以下でこっちには来てないんですよね?でも、事実その人は今朝からログインしてなくて権利放棄の状態になっていると……本人の精神がトリップしていなくても、使用キャラを殺害したらプレイヤーも死んでしまうんですか?」


 あ、いい質問。これは俺も気になっていた事だ。何せプレイヤー自体は腐るほどいるからな。低レベルの人間が脱落したとか気にも留めないだろうし。まるちーさんのこともあるしな。

 だが、返ってきたのは意外な言葉。


「それは……分からない。俺も知らないんだ。多分殺した本人らも知らないだろう」


「ええ!?じゃあなんで、わざわざ殺害したんですか?」


「『自分らと同じようにゲームをしてお金持ちになったのがムカツクから』だ、そうだ」


 そ、そんな理由で……?本当に教育を受けた日本人なのかよ……。


「再びクリスタル探しが再開されたことで、また自分達にも賞金獲得のチャンスが巡って来たって喜んでいたよ。……もう、まともに話の通じる相手じゃないんだ」


 ひ、ひでぇ……。俺含め掲示板メンバー全員がドン引きしている。


「俺、この三人なら躊躇なく殺せるかも。正真正銘のクズじゃねーか」


 Aseliaさんが隣で呟く。いつもだったら、まーたこの人はと心の中で突っ込みを入れる所だが、今回ばかりは同意せざるをえない。俺達に対してやってきた事含めて、どんな環境で育てられればそんな思考回路が生まれるんだと問いただしたくなる。


「そもそも本当に賞金が出るのか分からないのに……」


「いや、賞金の話は本当……らしいんだが」


 ん?おい、賞金一千万って本当の話かよ。社員さんがそう言うのならそうなのか?となると、この世界に俺達を引きずり込んだ理由がますます分からなくなって来るな。



「なるほど……大体の人となりは分かった。それでは最後にこのアルクェイドという人物はどんな感じだ? アルケミストなんて珍しい職業についているが」


「ああ、そいつは……動機は俺と大体同じ……だと思う。直接的な殺人はほとんどやってないはずだ。だが、戦闘以外では最も気を付けるべき相手だ」


「戦闘以外?」


「こいつは主に偵察や後方支援の担当だ。ホムンクルスっていう妖精みたいなのを飛ばして、ターゲットの監視や捜索とかを行う。この中では縁の下の存在だな」


 ホムンクルス……要は小型偵察機みたいなもんか。それだと昨日のマインが見破られたのも合点がいく。恐らく上空から俺の行動を見張って、その情報をあの剣士に伝えていたんだろう。

 ……つーか、ここにも来てんじゃないだろーな?


「奴らから逃げ出す時、アイツの気を逸らすのに一番苦労したよ。それとプリーストの防壁にちゃんと引っかかるみたいだから、この部屋には入れないようになっているはず。そこは安心してくれ」


「コイツの戦闘能力とか分かりますか?」


「戦ってるとこ見たこと無いから何とも……戦闘向きではないはずだが」


 社員だから本当は知ってるくせに。知り過ぎてても怪しまれると思っての発言か?まぁ、実際四職業以外は戦闘はてんで駄目だしな。厄介なサポート要員と思っておこう。


 話が一段落すると部屋の中にぱんぱんと手を叩く音が鳴り響き、全員がその方向へ注目する。皆の視線の先には、こんな状態でも穏やかな表情のギルドマスターがいた。


「はい、皆さん注目。そこのアレックスくんの話が本当ならば、一刻も早く奴らを止めなけねばならん。私達の町に多大な被害と不安を与え、君達の世界にも少なからず悪影響を及ぼしていると聞く。よって、無抵抗のまま逮捕出来たとしても死罪はまぬがれないじゃろう」


 アレックスさんの目が見開かれる。自分のやったことを後悔しているとはいえ、流石に処刑が決まるとなると精神的に来るものがあるんだろう。

 それを察してかギルドマスターが彼の肩を軽く叩く。


「アレックスくんの処分は彼らを全員検挙した後、決めるとしよう。それまでは独房に入ってもらうとする。物事が穏便に片付けば少しは罪も軽くなろう。……皆の者も異論はないな?」


 異論を唱える者は当然のことながらいない。みんなも、もうアレックスという弱々しい個人には興味がないのだろう。とにかく今は目先のクソッタレ野郎共を潰すという事だけ。


「よろしい。おそらく彼らもこの冒険者ギルドに登録しているのであろうが……たった今除名処分が下された。そして、今この部屋にいる君たち冒険者に以下9名の殺害許可を与える」


 ぶっ殺してもオーケー。いや、もう殺っちゃってくださいってところか。

 みんなも元々そのつもりだったんだろうけど、改めて提示されると中々凄いことだな。雰囲気も出る。


「ま、あくまでも許可じゃ。現場の裁量は君たちに任せるとしよう。穏便に済ませられたらそれが一番ええ。若いモンが無駄に命を散らさんようにな」


 当然。俺達は自分が死にたくない故に結束したメンバーだ。

 夢も、目標も、大義もない。自分の身の安全が最優先。

 故に手を組む。


「事の発端はこんな滅茶苦茶なトリップ現象だけど……。こんな凄惨な事件の原因が俺達と同じ世界にいる人間にあるというのならば、まずはそれを解決するのが先だ」


 我らが通称攻略掲示板メンバー計29名。

 リーダーはタミさん。サブリーダーはテルミさん。

 そしてエース兼ブレインのサイトさん。

 俺?下っ端でいいよ別に。


「ギルド公認の悪人退治だっ!気合入れて行くぞぉっ!」


『おぉ~っ!!』


 士気は最高の状態だ。みんな元の世界では結構駄目な部類に入る人種なんだろうけど、こんな漫画みたいな展開には燃え上がらずにはいられないんだろうな。


「んじゃ、まずは作戦会議!相手も何だかんだで相当の強者だ!何とかして味方に犠牲者を一人も出さずに〆ていきたい!」


 うーん。


 メンバー全員が一斉に頭を悩ませる。


「じゃあ、まずは現役○○大院生のサイトくん、何か良い意見はない?」


 サイトさんってそんなにハイスペックだったんですか。何か失礼しました。


「……さっきも言ったけど、犠牲を抑えるなら真っ向勝負は避けた方がいいと思う。単純な物量はこちらが三倍とはいえ、これでも安全に勝利することは難しい」


 相手の漆黒の君は全プレイヤートップのレベルだもんな。事情聴取のメモを見せて貰ったけど、やっぱり昨日の剣士の方でした。頭脳はともかくこちらの攻撃は全く通っていなかったし、まともにやり合うのはきつそうだ。


「三倍でもまだ人数的に厳しいのか」


「そこで、だ。俺が今考えているのが……」


 ……………………


 …………


 ……


 はへ?


「は、発想が単純過ぎないか?」


「う~ん、いい……けど。シンプルイズ・ザ・ベストだけど!」


 確かに安全策、ではある。格好はつかないだろうけど。


「でもこの作戦は、奴らが全員揃っていないと意味が無い。そしてその一番の障害となるのが偵察要因のアルケミストの存在だ」


「あぁ、規模が大きいから読まれちゃう?」


「コイツを何とかごまかさないとな……」


 サイトさんの作戦は確かにありだ。これなら何とかなりそうだと思ってしまう。もし、俺が相手側の立場になったとすれば確実に戦意無くす。こちらの準備が整う前に相手側を一旦騙す必要があるか。注意を上手く引き付けられれば……。


「相手方にどれだけ頭の周る奴がいるかにもよるな……」


「あー、少なくとも漆黒の君はあんま頭良くないと思います」


 知識で負けるとすぐに社会云々の話を持ち出すのは愚者の証(by 高瀬悠一=シエル)


「いや、問題はアルクェイドの頭なんだ。コイツを何とかしないとことには……」


 相手を騙すためには……味方からとはよく言うが……。いや、ここで味方騙してどーするよ。


「騙されてみる……一度相手の罠にかかってみるか……」


「え、それは危険なんじゃ?」


「要は死ななければいい。そのギリギリの時まで時間を稼げれば……殺人犯のアジト候補が載ってる地図がありましたよね?それ貸してください」


 何やら熱心に地図周辺の地形を確認するサイトさん。


「向こうも物量では負けると分かっているはずだから、真っ向勝負は避けたいはず……だから闇討ちなんかに走る。こちらから攻めることを知ったら……何かしらの策、罠を仕掛けてくる可能性が高いということだ。これを上手く逆手にとれば……」


 サイトさんは何やらぶつぶつ言いながら、地図に色々書きこんで行く。それはもうほとんど落書きに近い形で、何と書いているのかさっぱり解読できない。

 しばらくの間悩みあぐねると、何か閃いたかのようにその場を立ち上がる。



「さっきのに加えて……みんなに少し不利な真っ向勝負をしてもらう事になるんですが」



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