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47話 ようやく話の元を知りました

「このゲームは日本限定だからな。外国人がやっていたのは少し意外だったか?」


 少しどころじゃないっす。遥か斜め上っす。それにしても凄く日本語ペラペラだな。まるで吹き替えの声優が裏にいるかのようだ。


「詳しい事は中で話そうぜ。昼飯はまだだろう?奢ってやるぞ」


「あ、どうも……」


 Gillyさんの勧めるがままに俺達はクアアイナの中へと入る。店の中は何ともハワイアンな雰囲気。というか、Gillyさんの格好が自然すぎる。他の客もカップルに女性グループ3人。ハンバーガーショップなのに女性向けとはこれいかに。


「Gillyさんはよく来られるんですか?この店」


「ああ、他の所は性に合わなくてな。ほれ、好きな物頼んでいいんだぞ?」


 そう言って彼が指差したメニューを見ると、何やらアボカドバーガーなる物がプッシュされていたので、あまり考えずそれのセットにする。


「んじゃ俺はベーコンバーガーのセットに……あと、ローストターキーのサンドを」


 ……セットだけでも結構な量な気がするが、この体格だと自然な光景に見えるから不思議だ。むしろこの人、生身の方が向こうの世界の姿より強いんじゃないのか?余裕で人の骨へし折れそうなくらいの腕してるし。女性客の多い店だとしても、外人が一人混ざればまるで向こうが場違いだといわんばかりの空気になる……気がする。これで俺のような人種の男が二人だとまた違った雰囲気になっただろう。凄く周りの視線が痛そう。


 話が話なので他の客達から少し離れた席に座る。ハンバーガーも出来あがり、まずは本題の前に腹ごしらえと二人してかぶりつく。……うーん、美味い。普段食ってるハンバーガーのようなジャンキーさが全く感じられない。


「やはりハンバーガーはここにのに限る」


 こだわる大人だなぁ、Gillyさん。でも食うの早ぇよ。周りの客たちも最初はこちらをちらちら見て来たけど、すぐに自分たちの会話に戻っているし。これも外人効果ってやつか。


「さて、お前にはどこから話してやろうかな」


 そして早くもベーコンバーガーを食い終わったGillyさんが、セットのポテトをつまみながら話を切り出す。こちらが普段食べ慣れていない巨大なハンバーガーを食うのに悪戦苦闘している姿などお構いなしかの如く。


「Gillyさんの組織の話とかは怖いからあまり突っ込まないとして……とりあえず、あなたが本当は一体どこまでこの事件について知っているのか教えてくれませんか?」


 彼の素性はともかくとして、まずは情報を引き出すことから始めなければ。組織ぐるみでこの事件を扱っているとなれば少なくとも単なる一プレイヤーよりは何か掴んでいる筈だ。


「ん、そーだな……まずは、お前が本気で調べれば見つかるくらいの話から始めるか」


 Gillyさんは口直しにコーラを飲んで軽く一息吐く。


「今回の現象……いや、正しくは大勢の人間が朝眠ったまま病死する連続変死事件と呼んだ方がいいかな。これは今に始まった事ではない」


「今までに同じ事が……前例があるってことですか!?」


 Gillyさんは顎だけで返事をする。


「もちろん日本では初めてだ。だがこれまでにフランス、イギリス、ドイツ、ロシア、アメリカ……世界8ヶ国で似たような事が起こっている」


「ま、本当ですか!?」


 インターネットで海外のニュースは良く見るけど、そんな出来事全く見た事聞いた事も無い。いくら何でも総理大臣とか、有名人が死んだらもっと大騒ぎになってもいいはずだが。


「まぁ、お前が知らないのも無理はないさ。ほとんどの国は民間人に多数の死者が出ただけに留まっている。この国のような特定の個人を標的とした殺人はあまり起こっていない」


 だが、それだけ変死者が出たならもっとニュースに……。あ、なるわけないか。政界人や有名人が大量に死なない限りは伝える価値はないんだし。この国と同じ死因は病死だとすると、国内のニュースでは取り上げられても海外の人が興味を持つような内容でも無い。大勢の人間が脳梗塞や心臓発作で死んだってニュースなんて、『みなさん健康管理には気をつけましょう』で片づけられるもんな。


「その事件は今でも海外で起こり続けているんですか?」


「いや、止まっている。今はこの国だけだ」


 止まっている? それが日本に来るっている事は…… 伝播?


「事の発端はイギリスで起こった。国内の各地の若者が次々に死んでいき、それに続いて市民も朝眠ったまま病死する事件って感じでな。向こうでも不自然すぎるとちょっとした騒ぎになったが、この騒動が起こってから2週間と少し……それはピタリと止んだ」


「それ以降、似たような事は?」


「一切起こっていない。老人や病人予備軍ならともかく、健康な若者が次々と死んでいくことなんてな」


 ってことは……この現象は『止まる』ものなのか?


「次に事が起こったのはその1週間後のフランスだ。市民が朝眠ったまま次々に死んでいくので何事かと思っていたら、案の定その前日に若者が大量に同じ死因で病死していた」


「……」


「そしてまた1週間ほどで止み、その4日後今度は別の国で同様の事件が起こっている」



 な、なんじゃそりゃ……



「これが連続変死事件の起こりさ。一部オカルトマニアでは結構話題になっているらしいんだがな。当初は原因なんて突き止めようもなかった。いや、突き止める必要性も感じられなかった」


「でも、Gillyさん達は違うんですよね? 今回の件を『追っている』という事は、既にこれらの事件は何が関与しているか分かっているという事……ですよね?」


 Gillyさんは軽く頷く。


「実はウチのお偉いさんも数人くらい同様に死んじまったからな。コレが人為的に引き起こされているものだったらたまったもんじゃない。だから一応対策本部が作られたのさ。……ま、最初は4、5人ほどの窓際族の寄せ集めだったんだけどな」


 窓際族ってまた日本的な……この人の組織とやらも結構ノルマとかがあったりするのだろうか。やり口から考えても正義の組織とは思えないが、きっとそれなりに大変なのだろう。


「そこでまずは死んだ人物の共通点を洗ったんだが、それが全然でな。いきなりのお手上げ状態。もう少し絞ってみようと、事件の始まりに死んだ若者達に重点を置いてみたんだが……」


「まさか……それが、ゲーム?」


 気が付くとGillyさんはサンドイッチも平らげていた。ずっと話していたと思っていたのに、この人はいつの間に食ってたんだろう。


「そう、当時のネット上に気になる噂が流れていてな」


「……ゲームの中に入ったとか?」


「その通り。当初は子供じみた冗談だと別に気にしてなかったんだけどな。だが、実際に殺された若者達のパソコンの履歴を調べてみると、共通して死ぬ前日まで同じオンラインゲームに接続していたことがわかった。とりあえず、そのゲームを作った会社のコンピューターや社員を尋問して洗いざらい吐かせたが、何の手がかりを得ることが出来なかった」


「ゲーム会社の人達は何も知らないと?」


「さぁ、それもどうかな。真相は分からないままだ。しかし焦点を絞ってみると、各国で起きている事件もあれよあれよと繋がってしまったんだ」


 全てゲーム関連……誰もが死ぬ前に同じネットゲームをやっている……


「Gillyさん、そのゲームってもしかして……」


「いや、違う。国ごとに全然別のゲームなんだ。アクションにFPS、戦略シュミレーションとジャンルは特に関係ない。ただし、どれも決まって共通点があった」



1. 新作のオンライン(多人数プレイ)ゲームであること。


2. クローズド(人数限定)であること。


3. 何らかの期間が定められている事(キャンペーン、テストプレイなど)



「そんなのいくらでも当てはまるんじゃないですか?日本でさえゴロゴロしているのに、ましてや世界規模じゃ」


「最後に4つ目、タイトルに『神』とか『支配者』を暗示させるような言葉が入っている。アカシックドミネーターに至ってはそのまんまだな」


 マジですか。


「世界中のオンラインゲームの動向を監視するのは骨だったがな。ちょうど日本にそういったものが出ると聞き、向かってみたら……このザマだ。」


 Gillyさんは自嘲気味に手の平を上げて笑う。


「実は俺も初めはこんな推理なんか全然信用してなくて、体のいいゲーム休暇気分でこの国に来たんだが。……まあ、これで何かいい情報でも得られれば、出世レースに参加できるから御の字ではある」


 いやいや命の危険もあるんですよあんた。何でそんなに余裕なのよ。


「じゃあまとめると……Gillyさん達は元々ゲームが原因で大量死が起こっているということだけを知っていて、それがどういう仕組みなのかは全く分からない状態なんですね?」


「ああ、それを調べるのが仕事だ。逃亡した社員を連れて来て欲しいってのも、ゲーム製作者がこの事件にどれだけ関与しているのかを聞き出すためだ。製作者が関与していなくても、出資者とかソフト提供とか色々関連する連中をある程度焙り出せるからな」


 さらにそれは一般人にはあまり知られたくない、と。どうもきな臭そうな空気が漂ってくるけど、彼の意図は大体理解出来た。


「それともう一つ質問です」


「何だ?」


「俺とかを使ってゲームの中から調べさせるより、現実世界からその組織の人達を回した方がいいんじゃないんですか? 逃亡した社員だって……」


「それでもいいんだけどな。人員とコストもかかるし、この国は何かとうるさいから。なるべく表沙汰にはしたくないんだ。お前だって自分が殺人犯に疑われるのも嫌だろ?」


「いやいや、人の命がかかっているのに人員とかコストの話されても……」


 Gillyさんは最後のポテトを口に放り込み、コーラを飲み干す。


「ああ、一応言っておくけどな。俺達はこの国の人間が何人死のうが別に知ったこっちゃない。一連の事件の詳細さえ分かればいい。だからお前らのグループにも参加しない。プレイヤー同士の争いに関与するなんてまっぴら御免だ。死にたくないのは俺も同じだけどな」


「……」


「不満か?」


「当然です」


「気持ちは分からんでもないが勘違いするなよ?こんなことになった根本の原因はともかく、殺人を犯しているのはお前らの国の人間だ。日本人の一般プレイヤーだ。俺に責任取れとか、助けろとか言われても困る。自分達で起こした問題くらい自分達で何とかしろ」


 やっぱり、この人は甘くなかった。


「まぁでも、少なくとも協力者であるお前の命くらいはちゃんと助けてやるよ。そこら辺はギブアンドテイクだ。これが世の中ってもんだぜ、学生さん」


「……肝に銘じときます」


 とりあえず敵ではない、か。

 敵の敵。限りなく味方に近い敵の敵って認識でいいのだろうか。


「俺の事情はこんなもんなんだが、今のお前らはまた別の問題も抱えているだろ?それに関しては、こちらがいい情報を与えてやる」


 そう言うとGillyさんは、どこからともなく白い紙を取り出して俺の前に差し出す。


「これは?」


「お前にやるよ。まぁ見てみなって」


 クリップで止められているA4サイズの紙をめくると、なにやらいかにもExcelで作った感じの表のような物が目に入る。えっと、『漆黒の君 Lv 67 ♂ ファイター』……


「昨日の時点でのレベル30以上のプレイヤーのリストだ。高レベル順から並べてある。デバッガーのアルバイトの奴に作ってもらった。人数はかなり多いが、これから同じプレイヤーを警戒するんだったら何かと参考になるだろ」


 うぉぉい……三百人は軽く超えてるなぁ。ありがたくはあるが向こうの世界には持ち込めないし、全部覚えるのも大変そうだ。


「ああ、それと死んだ人間も勘定に入れてある。誰が死んだかはログイン履歴を見れば大体分かるんだろうけど、流石にそこまでは調べられなかったってさ」


 本当だ、伊藤(如月)やPon太さん、れんちぇふさんの名前もまだ残っている。となると実質の人数はもっと減るか。普通にモンスターにやられて死んだ人も結構いそうだし。


 上位勢には掲示板メンバーの人達も結構見かけるから、他の高レベル勢に注意ってところか? だけど、仲間内で一番レベルの高いサイトさんでも4位か……その上に3人も。中身はパンピーだろうし、実戦になると分からないけど。レベル30台が半分以上を占めているため、俺も半分より上ではある。


 職業は基本戦闘の四職がほとんど。たまにモノ好きな人も見かけるけど。Gillyさんとか。シーフでレベル30以上はこの人だけ。あとはクリエイターのミノル?以前の煙幕花火とか作っていたのはこの人臭いな。あとは……アルケミストのアルクェイド。型月厨乙って感じだな。しかしこいつ吸血鬼じゃなかったか?俺も人の事言えんが。


 ……ん?待てよ。アルク?



「おい、どうした?」


「……殺人グループの一人、発見っす。このアルケミストのアルクェイドって奴。Gillyさんに助けられた時、あのファイターが『追え!アルク!』って叫んでたし、おそらくは」


「ほー、俺は聞きとれなかったんだけどな。なるほど、注意しておこう。しかしアルケミストか……何を使って来るか分からんな。今度デバッガーの奴に聞いておくよ」


「お願いします」


 これは思わぬ収穫だ。となると例のアーチャーとかは……。この『雨宮ロキ Lv52』。高レベルの奴と考えると、こいつ辺りが怪しい。昨日のファイターは……最悪この『漆黒の君』か? 全然漆黒じゃなかったけど。ココロが闇属性なのだろうか?ともかくこれは帰って仲間に伝えてやらねば。


「思ってたよりも役立ててもらえそうで何よりだ。それと例の社員は『アレックス』という名前だ。職業はファイターでアバターは男な」


 アレックス……あったあった。レベルは38か、それほど高い方じゃないな。



「了解です。俺の役目はこの社員をGillyさんの前に連れて来る事、ただこれだけでいいんですね?」


「そうだ、それだけでいい。もし何か聞き出せたら、原因が何だとか黒幕が誰だったとかは教えてやれるよ」


「それで話が解決できればいいですけどねー……」


 俺はわざと嫌味っぽく言ってみる。向こうがギブアンドテイクと言うのなら仕方ない。


「それと一応言っておくが……」


「この事は他言無用、ですか」


「よく分かってるな」


 Gillyさんは最後に口元だけで笑ってみせる。


 ふと気が付くと周りの客は既にいなくなっていて、店の中の客は俺達だけになっていた。


「大丈夫だ。誰にも聞かれちゃいない」


 警戒どうも。

 ……今日の話はここまでみたいだな。俺とGillyさんは席を立ち、店を出る。


「Gillyさん、最後にお聞きしたいんですが」


「何だ?」


「この事件、本当に『止まる』んでしょうか?」


 Gillyさんの話ではせいぜい2週間程度で死亡者がいなくなると聞いたが、それでも不安はぬぐえない。ゲームをやっている人間が全員死んだとかもないだろうし。


「いつも通りだったら、そのうち自然に止むだろうさ。保証は出来んがな」


「そうですか……」


「次に起こらないようにするのが俺達の仕事だ」


 そう言ってGillyさんは反対方向に去っていく。彼は気づいているのかどうか分からないけど、この日本で名前が言えない組織ってのはかなり怪しまれるんですよ。どこの国でも同じだろうけど。きっとよからぬ事も多分に考えているのだろう。……今は彼を味方につける他ないが。


 そんな事よりもまずは目の前の問題か。向こうの世界で殺人グループに対抗できるように、シエルのレベル上げをせねば。いや、その前にちょっとビッグサイトの方にも寄りたいかも。折角来たんだし。マリーちゃんもう一回見たい。


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