4話 でも同時に世の中の怖さを知りました
俺は不要アイテムを売っぱらい、彼の言った通り可能な限りアイテム欄を空けて来た。ソーサラーは元々あまり荷物持てないけど。
もう午前一時半過ぎだと言うのに、遺跡の前には結構人がいた。レベル30超えの人は結構いるんだな。40過ぎもちょくちょく見る。いや~みんないい感じに廃人ですな。
Harida(Lv.42)「今から40Fに挑むのでパーティー募集中でーす」
うっへ、どんどん周りに人が集まってる。このゲームのパーティーの最大人数は10人だけど、当初から危惧されていた通りパソコンや通信のスペックが追いつかない人が多いようだ。アクション要素があるだけに戦闘時のラグや回線落ちはかなり痛い。だから普通はみんな4~6人くらいで組んでいる。
ぱる(Lv.38)「今日こそクリア目指しましょう!」
レーベン(Lv.40)「石化回復アイテムたっぷり持って来ましたよ」
うえー 石化とかあんのかよ。みんなレベル40前後なのにクリア出来てないってどんだけ。あれを本当に単騎で行けんのか?
そう宣うGillyさんはと…いたいた。
Gilly「よしよし。来てくれたな。アイテム欄はちゃんと空けて来たか?」
シエル「はい、言われたとおりに限界まで減らしました。回復一つ持ってません。これって深層アイテムを回収するためですか?」
Gilly「いや、悪いがダンジョン内のアイテムは基本全無視で頼む。モンスターに気づかれるし、40F以降はアイテム自体がトラップって時もあるからだ。俺は前々回それでやられた」
シエル「ということは、目標は例の赤石だけですか?」
Gilly「ああ、詳しい話は中でしよう」
サンマイト遺跡は10F毎のフロアボスを倒すと、近道が出来るようになっている。つまり20Fのボスを倒したら、一度町に戻っても次は21Fからチャレンジできるということだ。でも次の近道が使えるのは30Fのボスを倒すまで。一回の挑戦ごとに10フロアを突破する必要がある。低層の敵は面倒くさいだけだし、当然ともいえる仕様である。
……うわー 本当に40階までショートカット出来ちゃったよ。マジでここまでクリアしたんだなこの人。
Gilly「よし、ここから先は敵と戦おうなんて思っちゃいけない」
シエル「私は4人がかりで20Fがやっとでしたからね」
Gilly「パーティーは?」
シエル「ファイター2人にプリースト、それと私。レベルはみんな同じくらいです」
Gilly「まぁ普通にプレイしたらそんなもんだろうな。俺がシーフの能力に気づいたのもたまたまだし」
シエル「ところでアイテム欄を空けたのは何のためですか?」
Gilly「これを持っててほしいからさ」
『Gillyはシエルに「煙幕花火」を渡した!』
なになに? これを使うことで一定時間相手の足止めが可能です、か。なるほど、戦闘回避にはもってこいのアイテムだ。だけどこんなアイテム見たこと無いぞ。店はおろか掲示板にも攻略サイトにも載っていない。
Gilly「これは今のところ超レアアイテムだ。悪いが攻略サイトとかにも書かないでくれ」
シエル「何でですか?」
Gilly「実はこれ合成で作れるアイテムなんだが、これを作って売ってボロ稼ぎしている奴がいてさ。そいつから口止めされているんだ」
そういえば職業にクリエイターとかもあったな。自分と同じことをやられて、商売敵を作るのを防ぐためか。せこいなー。
シエル「でも、入る前に渡した方がもっと数持てるんじゃないんですか?」
Gilly「実は前にこれを持ち逃げされたことがあってだな。あん時は俺もこっぴどく怒られたもんだ」
ネトゲだと言うのに……恐ろしや。何もネットの世界で盗みなんてしなくても……リアル人生よりかはよっぽどイージーなんだし。
Gilly「その後、アサシンスーツ渡されてプレイヤーキラーさせられたからな」
シエル「うわぁ……」
このゲームはダンジョン内部ならばプレイヤーキラー(味方殺し)行為も可能だ。ただし一回でもやるとプレイヤーネームが真っ赤に表示され、おまけに掲示板にも危険人物リストとして晒されるので、ほとんどみんなやらない。メリットは他プレイヤーからアイテムを奪えることくらい。とてもじゃないがリターンに対してリスクが大きすぎる。
で、このアサシンスーツ。これも攻略サイトによるとこれも入手を確認したのが数人しかいないほどの超激レアアイテムらしい。装備時に自分のプレイヤーネームと職業を偽装することができ、PK行為をしても名前が赤く染まらないというものだ。こんなもの作るなんてPK行為を推奨でもしてんのか? 運営よ。
Gilly「それと隠し効果か単なるバグかは解からないが、偽装した名前と同一のプレイヤーがいた時にそいつに罪を被せることが出来る。俺はパクった奴の名前を使って高レベルの味方を後ろから刈りまくって、そいつをIDと個人情報晒しまで追い込んだ」
怖ぇ。マジで怖ぇ。ネトゲ舐めてました、すみません。
Gilly「だからお前もそんなことは無いようにしてくれよ? こっちだって好きでやったわけじゃないんだからな? すごく後味悪かったんだから」
シエル「その話聞いてやる人なんていませんよ……」
Gilly「もちろんこの話も他言無用だ」
シエル「当然です」
まさか虚構の世界で世の中の恐ろしさを知ることになろうとは。この人には大人しく付いていこう。俺は心の中で静かに誓った。敵に回すと恐ろしいが、味方だと頼もしい人だ。多分。