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39話 油断も隙もありません


『シエルへ


  まだ何とか生きているか? お前を見込んで話したい事がある。

  かなり重要な話だが、例の如く他の仲間には一切話さないでくれ。


  待ち合わせは前と同じ武器屋アニムスの裏手。

  時間はお前の都合のいい時を指定していい。

  ギルドに伝言しておいてくれ。

 

                                  Gilly』



 ……この人の言う重要な話は本当に重要だからな。今晩にでも会いたいところだが、雰囲気的にここを抜け出すのは結構難しい。これからの予定もはっきりしないし(どうせ部屋に籠るだけだろうけど)、ここは一度宿に戻ってよく確認してから時間を指定した方が確実だろうか。

 そうと決まればそろそろみんなと合流するか。この手紙は超極小サイズのファイヤーボールで燃やす。うぉオン、俺はまるで人間百円ライターだ。

 ……うん、何だか色んな方面の方々に向けてごめんなさいしたくなってきたぞ。どうかこのいたいけな少女のくぱぁで勘弁してください。R-18小説じゃないので、細かい表現が出来ないのが残念でなりませんが。


 メタな話はここまでにして、とっととトイレを出よう。

 しかしあのGillyさんが『俺を見込んで』なんてな。いや、交渉術も上手そうだしリップサービスってやつか?でも今更だしなぁ。



 ◇ ◇ ◇ ◇



「ようシエル。さっきの手紙は一体何だったんだ?」


 Aseliaさんよう、本当にこの人も油断も隙もねぇ。周りに他の人がいないのがせめてもの救いだ。


「例のGillyさんからの手紙です」


「ふ~ん?内容は?俺達には話せないか?」


 痛い言い方するなぁ。でも仕方ない。その通りなんです。


「で、どうなんだ?」


「何がですか?」


「そのGillyって人はそこまで信用できる奴なのか?」


 Aseliaさんはやたらとストレートに聞いて来る。その表情からは特に怒りとか俺を疑るといったものは感じず、純粋に興味があって聞いているように見える。


「そうですね……信用できるかどうかは判りませんが、敵に回すと色んな意味で恐ろしいだろうけど、味方にいるとかなり頼もしい……と、思える人です」


「別に全幅の信頼を置いているわけじゃないんだな」


 改めて思ったけど、なーんか違うんだな。やっぱり。


「でも結局そんな感じになっている節はありますけどね。彼が凄すぎる…… っていうかこっちに来ても手際が鮮やかというか」

 

 どこか場慣れしてるっていうか。判断力、思考力、行動力、色々と。


「もしかしたらそいつ、製作者って奴かもな」


「……」


「どうした?意外と反応が鈍いんだな。自分でも結構な問題発言だったと思うけど」


「いや……実は俺もそう思っている節があるんです」


 Gillyさんが製作者側の人間……それは十分にありうる。心の中では既に考えられていた事だ。思い返すと結構つじつまの合う分が出て来る。だが、所々で妙な引っかかりも覚えるのだ。製作者だとしたらなぜ?と、思う所も多い。


「しかし……彼が製作者だとしたら何故シーフなんでしょうか? 俺達と戦闘する事になったらまず勝ち目はないはずじゃ」


「すばしっこいから偵察に向いていたりする、とか?逃げ足も速そうだし。あと製作者ならステータスなんていくらでも弄れるだろ」


「偵察だったら素直に俺達の仲間になったほうが効率はいいはずですよ。集団の輪の外にいる孤高のシーフなんて、わざわざ人に疑われるような要素をつける必要性がない」


「……やっぱり信頼してんじゃねぇか」


 違う。あなたの言う信頼とはどこか違うんだよAseliaさん。あぁ、自分が上手く言葉に出来ないのがもどかしい。


「お、シエルさん。用は済んだのか?」


 俺がまごついているうちに他のみんなが集まって来る。


「ま、せいぜい、頼もしい味方のままであることを祈るよ」


 Aseliaさんも空気を読んだのか、最後にそう付け加えると、この場はこれ以上深く追求してこなかった。疑われてはいるのだろうが、まだマシな部類か。騒動さえ起こさなければ何とかなるかな。なにはともあれ、ひとまず宿に戻りますか。

 



「そこの冒険者の方々! ちょっと待ってください!」


 建物を出ようとしたらこれだ。急に後ろから怒鳴るような男の声が聞こえ、俺達は一様にすくみ上がる。前を警戒していただけに。


「な、な、何ですか!?」

 

「何か俺達不味い事でもやった!?」


「いや、ギルドに登録している者はすぐに現場に向かって欲しいのです!」


 どうやらギルドからの依頼(クエスト)の方であったようで、内心少しほっとする。つーかこんな時のクエストって攻略サイトにあったっけか?


「一体何が……」


「町の東部区画6丁目にモンスターの大軍が押し寄せて来たんです! 今すぐ討伐に向かってください!」


 おいぃぃ……こんな時に。別に急ぎの用事なんてないけどさ。しかしモンスターの大軍って……人の多い町は襲ってこないはずじゃ。適度に冒険者(プレイヤー達)が狩っているし、監視とかもしっかりされてる(ということになってる)はずだが。


「どうするよ!?」


「頼まれてるなら行くしかないだろ!?それに下手に市民に被害が出たら……」


 現実でも死亡者続出……ってか!流石に無差別は勘弁してほしい!


「よし!とりあえず急ごう!」


「でも東部区画6丁目ってどこ?ゲーム基準の右でいいの!?」


「えーーっっと……」


 緊急事態だというのに、すぐさまのギルドの人を呼び寄せて道を尋ねる冒険者達の図。結局ゲーム基準で良かったのだが、東部区画6丁目なんてゲーム中に出ない単語を出されてもこっちは混乱するだけだ。向こうはそんなこと知ったこっちゃないんだろうが。それにしても、さっき既に結構な距離を歩いたばっかだから、少女の細脚には流石に堪える。


 モンスターの質も数も良く分からないとのことであったが、現場に近づくに連れて事態の物々しさが明らかになってくる。次第に大きくなってくる人々と人以外の悲鳴。遠くの建物からは黒い煙が上がり、大通りは家財道具を持って逃げる市民達で溢れかえって行く。つーか邪魔!逃げるのはいいけど落ち着け!先に俺達を現場に向かわせてくれ!現実の避難でもこんな感じなんだろうな、まったく!まるでこれじゃ祭りの中の人混みを掻き分けていくような…… いてぇっ!いくらこっちの背が低いからって、少女にひざ蹴りかまして詫びも言わずに逃げんのか!?誘導員がちゃんといるだけに、我先に我先にと逃げようとする民衆が憎たらしい。 この人混みにフレイムレーザーでもぶち込みたくなってくる。


 ……あ、あれ?みんなはどこだ?はぐれた?いや、こんな状況下で固まって移動するのも無理な話だとは思うけどさ! 探している暇は……無いか。とにかく先に現場に向かおう。方角は空に上がる黒い煙に向かって行けばいい。



 人の洪水に逆らいながらも何とか前に漕いで進み、もうどれだけの時間が経ったのやら。



 急にぴたりと人ごみと喧騒が止み、次第に周囲から人の物とは思えない悲鳴が増えてくる。夢中になって走って(泳いで)いたので気づかなかったが、あちこちの家に火の手が上がっており、いくつかの建物は倒壊し始めていた。やっぱり氷系の魔法とか覚えておけばよかったかなぁ。一酸化炭素を多分に含むであろう煙が厳しいが、道が広いのがせめてもの救いだ。道の真ん中を少し屈んで進めば、煙も吸わずに割と安全に移動出来る。早くみんなと合流しないと。


 ドン。


 右後方で何かが倒れたような音がする。建物の崩壊とは別のもっと小さな……


「ぅ……」


 それは手を伸ばしながら、ナメクジの如き遅さで地面を這いずっていた。しかしそれも僅かに残された体力。1mも進まないうちに手と顔が地面にへばりついたまま動かなくなる。その最後に描いたであろう軌跡には赤黒い血がべったりと塗りつけられていた。


 俺は思わず近づいてその手首を取る。既に脈はない。

 顔は……お爺さんか。


 俺は軽く手を合わせて数秒ほど黙とうするとすぐに立ち上がる。……さっきから自分が前に進むことしか考えて無くて意識の中に入ってこなかったが、家の煙と火の手の中にまぎれて少し前までは人間だったであろう物体がいくつか転がっている。


「……」


 俺は唾を飲み込む。何だか無性に喉が渇いてきたのだ。……早くここを抜けなければ。


 遺体を見ないように帽子を深く被りその場を駆けだす。大気がカラカラで熱い。とにかく喉が渇く。こんなことはとっとと終わらせて水を飲みたい。まったく、こんな歳頃の女の子には酷ってもんだろうが。次第に黒い煙の方向というより、僅かにでも涼しい場所を求めるかのように脚は動いていた。道端から人の呻き声が聞こえてくるような気がするが多分気のせい。うん、気のせい。俺は必死に心を逸らしつつ、空襲にでも遭ったかのような家並みを駆け抜けた。


「……!?」


 突然、目の前の地面を影が通り過ぎる。建物があるのか何か物が落ちて来たのかと思って正面を向いたが、前方には道路が続くのみ。駄目だ……もう、嫌な予感しかしない。

 間髪置かず、頭上でガラガラ声のモンスターの悲鳴が聞こえてくる。

 

「あっ……!シエルさん上!避けて!」


 避けて、の声を聞きとる前に脊髄反射で俺は前方に飛び込む。軽く転がってさっきまでいた位置に視線を合わせると、一拍おいて眼前にキマイラらしき物体が落ちて来る。手足のぐにゃぐにゃ具合から着地というより落下という有り様。体には一本の矢が貫通していた。


「大丈夫ですかー!?」


 大通りの向こうから弓を持った黒髪ロングの少女が駆け寄って来る。

 あー、くろね子さん、どうもっす。そういやこの人アーチャーだっけか。


「真正面から来てたのに全然気づいてなかったんですか?」


 ……帽子深く被った結果がこれだよ! 感傷に浸るなんてロクなもんじゃねーや。もうここからは『異常な』世界なんだ。ホント戦場は地獄だぜ!


「と、とりあえずみんなは?」


「もう始まってますよ!敵の数が思ってたよりもヤバいです!むしろエグいです!」


 そう言ってくろね子さんが指差した空の先には……何あれ? イナゴの大群?


「あの~、あいつらのサイズは……」


「みんなこのくらい」


 くろね子さんが息も絶え絶えのキマイラの土手っ腹を蹴る。


「仲間も集まって来てるし、とにかくやんないと!」


 き、気が遠くなりそうだ……


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