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37話 当事者として

 現実世界へ5度目の帰還。そして例の如く学食なう。



「……」



 このチキンカツ卵とじ、外食ならではのメニューだよな。少なくとも家では作らない。そういえば家でカツ丼ってあまり食わない気がする。なんかね、勿体ない感じがするんだよね。例えばトンカツってすっげー贅沢な料理じゃん?実際贅沢かどうかはともかく、贅沢感というか、ジャンクっぽさ且つ高級感を兼ね備えた稀有な料理だと思うんだよね。ラーメンとかと違って。ラーメンはどこまで行ってもジャンクフードだから。あれに700円以上払える人の気が知れない。つーかラーメンなんてどうでもいいや、今はカツの話だ。話を戻すが、トンカツの醍醐味の一つってやっぱり衣のサクサク感だと思うんだよ。でもカツ丼はそれを敢えて卵とダシで台無しにする。最大の武器を敢えて捨てる。例えるならサイコフレームを放り投げたνガン○ム。シャアは倒せてもアクシズの落下を防ぐ事が出来ない。これでは物語を展開する上で致命的。たったあれだけの数のギラ・ドーガとGMⅢとジェガンで落下する小惑星を止められでもしたら、それこそ( ゜д゜)ポカーンだわ。ニュータイプ要素を嫌って、エスパー的なものを全て排除しました(^^)って、余計つまんなくなるだけだから!おっさんばっかりのリアルな戦争物のガンダ○が見たいって、それ○ンダムじゃねーから! そもそもモビルスーツの存在が一番非現実的なのに何抜かしてんだ、根本的なものを何もわかっちゃいない、単に通ぶりたいだけのに糞ニワカガノタ共が。そんなに見たいなら、自分一人でネット上にでもシコシコ書いとけ。大体戦争を経験していない奴がリアルな戦争物なんて書けっこないだろうけどな。いかん、また話が逸れてしまった。そう、とにかく揚げものを卵でとじると言うのは、そのくらい果てしなくリスキーな料理なんだ。

 それはチキンカツにおいても同じ事。肉の価格の関係上、トンカツと比べると高級感は落ちるが、パン粉を付けた揚げ物の長所は何も変わらない。俺も一度家で揚げ物を作ってみた事があるが、二度とやらないと俺の心に決心させた。一人分を作るには消費量が多すぎる上に処分に困る油、飛び散る油で汚れまくる台所、後処理がもうすんごい大変。作る時点でこれだけの難点を抱えているのだ。そう、つまりカツは多くの犠牲を払って作られた料理! カレーと同じで少量生産には全く向いていないのだ。カレーと違ってあまり保存利かないしね。大量の油を使ったらならば、やっぱりその代償の結晶である衣を楽しむのが色々な方面に向けての筋だと思うんだよ俺は。つまりはこの目の前のチキンカツ卵とじというのにも……。



「どうしたんだ高瀬?何だか最近、日に日に表情が固くなってないか?」


 うるせえ、内山。人が必死に現実逃避している最中に茶々入れないでくれ。大体俺達は普段からそんな風に声を掛け合うような仲じゃないだろ。伊藤の一件があったとはいえ。ほら、お前の後ろにいる取り巻きの女の子らが不思議そうな目で俺の事を見てるじゃないか。もう勘弁してくれ、色々と。


「まだ、伊藤の事が気になってるのか?」


「そんなんじゃないよ。まぁそれも一部あるけど。今の社会情勢を見て、ほんと人の人生って何なんだろうなーって考えてたとこ」


 流石に目の前の定食について必死に考察していたなんて言えない。


「人生は行き過ぎだとは思うが……確かに最近はちょっと、な……」


 今日も死者の方は相変わらず。最近はマスコミすらも名前書くだけで相手を殺せるノートの線を本格的に疑ってきている。んなもんあるわけねーっつーの。漫画の読み過ぎだ。自分で作ったキャラクターの精神にトリップして、別の世界から相手を殺せるゲームはあるけどさ。


 とにかく昨晩の出来事はもう思い出したくもない。目の前で人が何者かに狙撃されるわ。そして宿屋に避難しようとしてYASUさんと合流出来たまではよかったものの、Pon太さんは部屋の中で……


 部屋が軽く荒らされたような形跡があったので、物取りを兼ねての犯行かとも思ったが、誰かが無理やり侵入しようとした形跡は一切無く、YASUさんの弁によると部屋のドアには鍵を閉めるように言っておいたし、しかも実際に閉まる音もしたとの事。Pon太さんも一応ファイターだし、何者かが侵入してきたら普通は多少なりとも抵抗はするだろうが、そんな跡も無し。しかも凶器に使われていたと思われるのはYASUさんの剣であった。終いにはそこの宿屋の使用人の女性が、YASUさんが血まみれの姿で部屋から出て来たとか言うし。

 

 当然のことながらYASUさんをパーティーに加える事はしなかった。彼は最後まで自分は何も知らないと必死に訴えていたが、これだけの状況証拠が揃っているのならば……いや、俺はYASUさんを疑いたくはない。少なくとも俺の知っている彼は礼儀正しくて面倒見の良い人なのだ。そんなことをするはずが無い。だが周りが、他のメンバーが、宿屋の主人すらもそれを許しはしなかった。そして彼はゲームの中だというのに、ギルド直下の警備隊によって連行されてしまった。


 もう一体何が何だか。いや、何なの?


 最近は睡眠もまともに取れている気がしない。時間そのものは十二分でも、寝ている間の出来事があれだし。日に日に寝るのが怖くなって来る。向こうの世界に行くと常に姿の見えない敵に命を狙われ続けているのだ。現実でも胃が痛くなってくる。


「……高瀬?どうしたんだ?」


 あー……内なる怒りに浸り過ぎてたようだ。こんな中二臭い言葉を使うのもどうでもよくなってくる。もうあのゲームの中の現実から抜け出したい。あれなら、こっちの現実世界の方がまだマシだ。まだ幾分か自分の身の安全が保障されている。


「いや、もしこの状況を引き起こしている奴がいるかと思うとさ……」


「そういうのは単なるお伽話か、漫画の中だけの出来事だと思ってたけどな。本当に存在するのかも。例のノートとか」


 内山も俺の隣の席に腰かけて話に乗って来る。


「もし、犯人って奴が存在するとしたら、今どんなことを考えていると思う?」


「どうかな。考えようともしなかったし、考えたくもないな。いるとしたら本当に狂ってるとしか思えないよ」


 狂ってる、か。そりゃそうなんろうだけど。でも、まともに考えようとはしてなさそうだな。事情も知らないし、当然っちゃ当然だが。

 俺は残りのお茶をぐいっと飲み干し、席を立つ。


「いや、変な事聞いちまったな。俺、もう帰るわ……」


「ん?ああ、お疲れ」


 内山の目に俺の顔はどう映っているのだろう。つーか、これだとまるで俺が犯人みたいじゃないか。ドラマとかだと確実にそうだ。もうフラグ立ってる。

 俺は食器を返すと、内山達とは視線を合わせずにそのまま真っ直ぐ家に帰った。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 帰ったらすぐにパソコンの電源をON。こんなのネトゲやる前からの日課だが、最近はやたらと重苦しく感じる。電源を入れる時、そして他のページを開くときも毎回気合いを入れなければならない。ゲームを始める時なんかはさらに顕著だ。何だか義務やノルマのように感じてしまい、実際ダンジョンに入る時やチャットの最中以外は5分おきに席を立っている。もう何だか色々と本末転倒だ。



 公式は……特に更新無し。今日は土曜だから会社も休みなのだろうか?

 じゃあいつもの掲示板に……あれ?

 俺は画面に映し出されたエラー表示を見て、しばらくの間思考停止を起こしてしまう。



『指定されたページが見つかりません』 



 ……とうとうあれですか。潰された?いやいや、ここの管理人さんはゲームに取り込まれていないはずだし、この掲示板は運営側にも知られてないはず。多分。攻略サイトの方は普通に運営されているし、これは一体……とにかくもう色々滅茶苦茶だ。みんなやられたわけじゃないだろうし、ゲームにログインすればいるんだろうけど。ゲーム……うう、重い。 

 休日という事もあって、昼間からそれなりの人がいる。オープンチャットで楽しそうに会話している人もちらほら。ああ羨ましい。とりあえず仲間を探そう。


 ゲームの中のノツィミカーラの町は今日も平和だ。向こうの世界で起こっている連続殺人事件はその片鱗すら見えない。モブキャラも決められた台詞だけを言わされるだけの平穏な人生を満喫している。



Aselia「よう、遅かったなシエル。少し心配したぜ」


 真っ先に声を掛けてきてくれたのはAseliaさんであった。思わずリアルに安堵の溜息が出てしまう。


シエル「よかった!掲示板がなくなって、みんなどうしたんだろうと思ってたんですよ」


Aselia「昨日の一件でもう一度メンバーを立て直そうってなってな」



 彼の話によると、今朝一番に管理人の夕凪さんに直接連絡して掲示板を閉鎖してもらったらしい。実は俺達掲示板メンバーの中に夕凪さんのリア友がいるらしいのだが、そこはあえて誰にも知られないようにしている。下手に特定されて狙われたらそれこそ不味いしな。

 んで、今晩場所を変えて、もう一度集まって対策を練ろうと言うらしいのだ。幸いにも俺は割と信用されているらしいので、こうして声も掛けて貰ったわけだ。他にも『信用出来る』知り合いを見かけたら教えてやってくれとのこと。



シエル「了解っす」


Aselia「ああ、それと昨日のヤスとかいうやつだけど。よくよく考えたら、結構オイシイ展開になってるのかもな。あいつ」


シエル「どうしてですか?」


Aselia「だってあの後連行されて、牢屋にでも入れられたんだろ? だったら」


シエル「かえってそのほうが安全ってわけですか」


Aselia「そゆこと」



 うーん……どう、なんだろうか。人一人殺しといて、ただの懲役刑で済むのだったらともかく。少なくとも江戸時代とかだったら即討ち首獄門だろうし。向こうの世界の刑法はどうなっているのだろうか。


Aselia「とにかく、これ以上は変な事に関与できないだろ。さすがに脱走とかは出来んだろうし」


シエル「そもそも、彼はあんなことをするような人ではないと思いますが……」


Aselia「そりゃわからんよ」



 まぁ、たしかに俺が知っているのはゲームの文面上での彼だし。実際のYASUさんがどんなことを思っているのかは知る由も無いが。



Aselia「まぁ、お前が気になるなら、何か言っておいたらどうだ?」


シエル「そうですね」


Aselia「んじゃ。今日は2時から『焔の谷』に集まる事になってるからな。よかったらお前も来いよ」


シエル「ありがとうございます」



 Aseliaさんはそれ以上深く追求してこなかった。本当に気にしてないのか?

 ……まぁ、違うだろうな。おそらく彼と親しい俺を少し疑っての事だろう。つまりは様子を窺おうっていうわけだ。もしかしたらゲームの中で尾行されているかも解からんし。


 それに、こんな風にタイミング良くチャットコール来てるしな。



YASU「シエルさん。昨日のことなんですが」


 やっぱり来たか、という感じだ。


シエル「何とも言えませんが、とりあえずあまり気に病まないでください」


YASU「やっぱりあれは夢じゃなかったんですか?」


シエル「少なくとも現実に深く関与してはいます」


YASU「じゃあPon太さんは?」


シエル「多分」


YASU「昨日の事は私は本当に何も知らないんです。部屋を出てからフロントまで降りて、そのままシエルさん達に会っただけなんです」


 ……たしかに。落ち着いて考えてみると、もしYASUさんが本当に殺人を犯したなら、あの結末はあまりにもお粗末すぎる。顔を見られておいてわざわざ現場に戻ってくるなんて。推理物だとかだと完璧に真犯人がいるフラグだな。お約束もいいとこ。


シエル「少なくとも俺はYASUさんは無関係だと信じてますよ」


 ……でも、だとしたら犯人とやらは結構回りくどい事をやっている事になるな。


 可能性としては……変装? YASUさんに扮してあの部屋の鍵を中から開けさせ、Pon太さんを殺害。あの時の使用人は気が動転して彼がトイレの中に逃げ込んだ後は知らないと言っていたから、多分そこで変装を解いて、何食わぬ顔で現場を立ち去った… というのはどうだろうか。そもそも自分の顔を見られたのなら、使用人も殺害するだろうしな。わざわざ「血のついた手で突き飛ばす」くらいで留めているのがどうにも怪しい。


シエル「でも状況証拠が揃っているから、あそこからは救いだせそうにありませんね。あの後はどうなったんですか?」


YASU「酷い尋問を受けました……他にも人を殺したんじゃないのかとか…… まさか今晩もあの続きがあるんですか?」


 向こうの人は向こうの人で結構ピリピリしているみたいだ。それも当然か。監視カメラとかDNA鑑定とか、今の鑑識技術は流石に無いだろうしな。見たものを疑うしかない。


シエル「おそらくは……」


YASU「尋問の後ずっと牢屋の中だったんです…」


シエル「拷問とかは? 処刑とかの可能性はありそうですか?」


YASU「肉体的に酷い仕打ちは無かったんですけど、精神的には堪えました。取り調べの人の言葉が酷くて……」


 だよなぁ。人殺しがただの独房入りで済むはずがない。

 警察官の誘導尋問とか……受けた事無いけど相当酷いって話も聞くしな。


シエル「でも、処刑される可能性が無くて、精神的に耐えられそうだったら、そのまま牢屋の中に入れられた方が安全かもしれません」


YASU「周りから狙われる心配が無いからですか?」


シエル「はい。でもヤバそうだったらすぐに言ってください。こちらでも向こうの人達を何とか説得してみるので」


YASU「シエルさん達はもう何日もあんな体験をしてたんですね……」


シエル「俺の場合は、ちょっと違いますけどね」



 YASUさんには悪いがここはこのまま牢に入ってもらうのが得策だ。仮に出れたとしても、俺の仲間の信用を得る事が出来ないだろうし、どうしても無駄な溝が出来てしまう。かと言って一人放置しておくにもいかないし。俺にも変な疑いがかかる。

 昨日の事件はツッコミどころがいくつかあるから、ギルドにもそのことを言って彼の処分を保留して貰えないだろうか。うん、そのところは今晩が勝負だな。



YASU「あの世界の話、本当に誰も信じてくれないんでしょうか?」


シエル「難しいとは思いますね……」


YASU「Pon太さんがいればもう少し何とかなったんでしょうが」


シエル「どうしてですか?」


YASU「彼女はマスコミに信頼できる知り合いがいるって言ってましたから」



 ……なるほど。あれを止めさせたくない連中にとっては目ざわりになったわけか。


 かといって、も簡単に人を殺せるなんて。中身は普通の人間なのに。

 俺と変わらない、単なる駄目なゲーマーなだけのはずなのに。


 Gillyさんの言葉が今一度頭の中に浮かんだ。


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