表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/65

31話 良識を持っていてください

「俺からはこんなところだ。次はお前の番だが……」


 手持ちの情報でこの人の知らない事があるかどうかは解からないが、とりあえず知っているだけの事は伝えよう。こっちに取り込まれた人が集まる掲示板については伏せておくことにする。ついさっきポロっと単語を出してしまったが、単なる攻略掲示板のメンバーだと考えてくれるだろう。

 この通りあまり期待はしていなかったが、『A.R.クリスタル』はこの世界には無い可能性が高いという話には割と食いついてくれたようだった。


「なるほどな……こんな現象を引き起こしている奴の匙加減でどうにでもなるとはいえ、その可能性は高いな」


「そもそも、そんな物存在しないってこともありえます。賞金云々だって、単なるプレイヤーをより多く誘う売り文句でしか」


 Gillyさんはまたも腕を組んで何かを考えているようだ。


「そうなると、ますますこの事態を起こしているのはゲームの製作者ということになってしまうが……」


「俺は正直その線が一番濃厚だと思いますけど。方法や動機こそ全く解かりませんが、色々辻褄は合います」


 ゲームを支配する、管理・運営できる、プレイヤーのレベルでこの世界に取り込まれる物を調整できる、というのなら、もう黒幕は製作者しか考えられない。ゲームを止めさせようとする活動を潰すのも運営側なら何等不自然でない行動だ。世間も信じようとしないので、証拠隠滅だって簡単。


「確かにお前の言う通りだ。黒幕はゲームの製作者、俺も9割方そうだと思っているんだが……」


「何か疑問でも?」


「……いや、そしたら逆に動機って奴が気になってな。こんな事態が引き起されたのも、そいつらの御望みどおりなのか……」


 どうなんだろう。確かに、もはやゲームのバーチャル体験で済むレベルじゃなくなっている。この調子だと国家転覆だって狙えてしまうくらいだ。こんなものを何も知らない一般人にやらせてどうするつもりなのだろうか。異世界から人を殺すなら自分たちでやった方が早いし余計に見つからないだろう。自分が死ぬというリスクを考えてのものだろうか。

 かと言って、仮に黒幕が製作者以外となると、余計に訳が分からなくなるし。


「じゃあ、仮に製作者が黒幕だったとしよう。この現象を食い止めるためには、現実から叩いていくのが最も効果的だと思うんだが」


「でも、証拠も何も無いんですよね……現に止めさせようとした人達が警察沙汰を起こしちゃって、向こうもかなりピリピリしているでしょうし」


「方法ならいくらでもあるさ。例えば『こっちの世界』から製作者どもを殺すとかな。もし向こうがそれを見越して強力なキャラを作っていたら……そうだな、関係者を人質に取るとかな。現実とこちら側両方から」


 よくもまぁ、こんな風に物騒なことを思いつくなぁ。

 既に一人殺っているし、この人もある意味で箍が外れているのかもしれない。


「強攻策ならいつだってとれる。だったらその可能性もあるのに、何故こういった仕組みにしているのかということだ。こっちの世界での行動が死ぬ死なない以外に反映されないのも、元々から殺人をするように仕向けるためなのか……」


 そう言われてみると、今回の出来事については色々『穴』がある。この世界の存在を複数の人間に知られるとなると、そこにリスクが生じる。自分たちの手ではなく、人の手で殺させることによって罪を逃れるつもりなのだろうか。でも殺人幇助はまず避けられないだろうし、殺した人間に罪を負わせるにしてもこのゲームとの因果関係を明らかにしないといけない。そうすると必然的に自分たちにも矛先が行くことは避けられないわけで……あぁもう、考えれば考えるほどややこしくなってきたぞ。


「結局、動機は本人たちに聞くしかないんじゃないですか?」


「それも確証あっての物種だがな。中途半端な証拠だと知らばっくれるだろうし、仮に製作者が黒幕でなかったら取り返しのつかないことになる。強行策は真犯人を明らかにして、確実にこの現象を止めることが出来るという保証が無い限りは取れない」


 製作者を殺してもこの現象が止まらなかったら……確かに洒落にならん。今この時の俺達の命だって常に握られていないとも限らないのだ。動くんなら全てを、いや少なくとも真犯人を明らかにしてからが最も安全、か。基本っちゃ基本だけど。疑わしきを罰することが出来ないのは痛いな。


「やっぱり、今出来ることは情報集めだけですか……」


「だな。他に良識のありそうな仲間がいたらそう言ってやることだ」


 解決に向けては全く進展していないんだな。足元を固め道を広くしただけだ。自分の命もリアルにかかっているし、まだまだ地道に進むしかなさそうだ。


「そうそう、それとこのゲームを自分の意志でやめられるかどうかについてだが……」


「確か退会した人がいるんでしたっけ?」


「無駄だったようだ。画面上はキャラを消せてもこっちには残る。強化出来ない分、更に絶望的な状況だろうな。そいつは昨日、頭抱えて震えてたよ」


 それはお気の毒に。


 だがこうなってしまった以上、もう逃げることも出来ないってことだ。唐突に強大な力とリスクを与えられ、自分自身は力の行使を拒否することが出来てもその惨状を見届けなくてはならない。実際の異世界召喚なんてチートモノじゃない限り、ロクでもないもんだな。


「とにかく、この世界を利用して何かを為そうなんて奴には極力関わらないことだな。お前だって出来ればこれ以上何も起きずに終わって欲しいんだろう?」


「少なくとも自分が死ぬのと人殺しは勘弁ですね。現実でこのゲームのせいで友達が死んだんで、見ていてあまり気持ちのいいものじゃないって分かりましたし」


 伊藤の死が俺の中の何かを踏み留まらせた気もする。流石に親兄弟にあんな死に目は見せられない。自分の命を守ることの重要性が少しは実感できた。もちろん人を殺すことも。正直なところ、悪人個人のことは知ったこっちゃないが、余計な罪を背負って生きたくはないし。


「既に一人殺した俺が言うのもなんだが、それもそうだな。だが、そうじゃない考えの人間だって世の中には星の数ほどいる。だから、下手に関わるなよ」


 口の上ではそう言っているが、Gillyさんは実際どう思っているんだろう。少なくとも自分には悪人とはいえ人を殺したことに対する『気負い』というものが彼から全く感じられない。自分の命を守る上での実験とは言え、こうも簡単に人の命を奪えるのも……

 いや、下手に考えるのはよそう。今のところ、この人は頼りになる味方なんだ。いざとなったら互いに利用し合うというのも、暗黙の了解が成り立っている気がする。上手いんだろうな、そこらへんの人付き合いが。


 次に会う時間と場所はGillyさんの判断に任せることにした。彼がクエスト受領のための冒険者ギルドに手紙を送って、待ち合わせ場所を決めるという方式だ。俺が小まめに見に行く必要があるが、そこまで大した手間では無い。互いに居場所を知られないという点ではちゃんと配慮されている。


「Gillyさん、最後に一つ聞いていいですか?」


「どうした?」


「どうして俺以外に人と組もうとしないんです?」


 Gillyさんは鼻で笑う。


「誰も組んでいるのがお前だけとは言ってないぞ。それに、人前に晒さない理由だってこの前言ったはずだが?」


 そう言うと彼は振りかえることも無く、夜の町に消えて行った。彼は彼で気になる所が多い人なんだが、下手な詮索はするなってことなのかな。

 ……何か理由があるのなら全てが終わってから聞こう。


 

 夜の町は行きよりも幾分か人は減っているようであった。多くの人はもう寝静まっている時間帯なのだろうか。俺も宿屋に真っ直ぐ戻るかな。


 と、思って、しばらく歩いていた途端に道の先で何やら人だかりだ。その多くは冒険者ではない。日本人のモブキャラだ。何だろう、民家の周りに集まっているようだけど。



「酷いなこりゃ……」


「やったのは冒険者だって?」


「こんな荒らし方は普通の人は出来ないよ……」



 俺も気になってその人だかりに交ざると、後ろから冒険者ギルド直轄の警備隊の人達がやって来て、野次馬に道を空けるように怒鳴っていた。


「一体何があったんですか?」


「いやね、ここの一家が強盗に襲われたんだってよ。家族全員皆殺しさ」


 思い当たる節があり過ぎてそれ以降の言葉に詰まる。


「最近になって急に増えたわよね……殺し方もどうやら冒険者みたいだっていうじゃない?」


「昨日なんて丘の上の屋敷の御主人が縦から真っ二つになってたんだろ?」


「二丁目の金貸しも黒焦げ死体になってたっていうしさ…」


「やだ、怖い……冒険者には町を出て行ってほしいわ……」


「しっ! 誰に聞かれているか分かんないんだぞ……!」


 変装しておいてよかったな。いつもの格好だったたら、無言で立ち去られたのかも。

 町の人間を手に掛けるようなクエストなんて当然ありはしない。そういった輩を退治するクエストだって。


 これも他の人にとっては正義だというのだろうか。


 理解は出来るが同調はしたくないな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ