2話 結構面白かったんですよ
まるちー「すまん、俺は明日早いからそろそろ抜けるわー」
YASU「おう、お疲れー」
シエル「回復役が抜けるときついね。今日は解散にする?」
Pon太「うん、そうしよー」
β版の稼働から一週間。俺達は主に4人でパーティーを組んでいた。まだ短い時間しかやっていないが、パーティーバランスは割といいと思う。
まるちーはプリーストで貴重な回復役なのだが、リアル社会人っぽく結構早い時間に抜けることが多い。
YASUはリーダ格のファイター。ネット上だというのに細かい気配りが出来る人で、最初に俺をパーティーに誘ってくれたのもこの人だ。
Pon太も同じくファイターなのだが、彼(女?)は何故かアバターが獣人になっている。何か弄ったとかではなく最初からそうだったらしい。どうやらこのゲームでは初期アバターはランダムに決定されるみたいだ。今のところ変更できる機能はない。おそらく正式稼働版で課金することで色々弄れるようになるってところだろう。
最後に、画面上は紅一点のソーサラー、シエル。つまり俺。中身は男って……薄々みんな勘付いてるだろーな。
YASU「じゃあ自分も今日は抜けますね。それでは」
Pon太「シエルさんはどうする?」
シエル「私はしばらく個人ショップを見て回ります」
個人ショップというのは、他のプレイヤーに自分の武器や道具を自由に売ることのできる機能だ。時々クエスト用の重要アイテムまで売ってたりするので意外と侮れない。
Pon太「そうかー。僕の友達が新しく始めたんで、今度暇があったらこっちのパーティーにも来てくれないかな?」
シエル「まだ募集やってたんですか? テストプレイみたいなものなのに」
Pon太「そう言えばそうだよねー。抽選って言ってる割にはどなたでもウェルカムって感じ」
シエル「運営のことですからよく分かりませんね」
Pon太「シエルさんは、本稼働になっても続けるつもり?」
シエル「課金しないと詰まるといったことが無い限りは」
Pon 太「実はβ版からのプレイヤーは本稼働時に色々特典があるらしいよ。特殊クエストとかもあるみたい」
シエル「それは初耳ですね」
Pon 太「僕もまた聞きしただけなんだけどね。それじゃ、仲間から呼び出しかかってるから。時間あったらよろしく!」
シエル「はい、それじゃあまた」
テストプレイの方には色々特典ね……まぁ別にそこまで珍しいことでもないだろうけど。初めて聞いた情報ではある。攻略サイトや某巨大掲示板もよくチェックしてるけど見たこと無かったし。今夜中にでも出るのかな?
それからしばらく俺は個人ショップを見て回っていた。その中でちょうどクエスト達成に必要なアイテムである精霊石がまとめ売りされていたので、それを見て悩んでいた。
くそ、俺が欲しいのはあと八個なんだ。二十個でまとめ売りなんて残酷すぎる。精霊石が取れるダンジョンは魔法耐性が高い敵ばっかりだから、単騎だと余裕で全滅の恐れがある。個人のクエストのために他の人を連れ回すのは申し訳ないし。
五千G……高いなぁ。これは完全に俺達ソーサラーの足元を見ていやがる。というか金が足りない。今から単騎駆けしてくるか? でも一人でクリアできる程度のダンジョンじゃ、金溜めんのにどれだけ時間がかかることやら……ちくしょ~。
ん? おっと、チャットコールだ。
Gilly「ちょっといいかな? 今、時間ある?」
シエル「はい、大丈夫ですけど。どうしました?」
Gillyさん……?見た所職業はシーフか、珍しいな。
早いうちに出来た攻略サイトを色々見て回っているが、このゲームは鉄板の職業、つまりファイター、アーチャー、ソーサラー、プリーストの四職以外は初心者は手を出さない方が無難とまで書かれてある。
理由は戦闘能力がこの四職に比べて圧倒的に低いこと。初期段階の固有スキルは見たところ面白そうなのが揃っているのだが、それをまともに使いこなせるレベルになるまでが大変らしい。前半はともかく、中盤以降は戦闘面で完全にお荷物になるため、転職システムが後に実装されるであろう……という期待まで書いてある始末。シーフも素早さは高いが攻撃力が低過ぎて敵が倒せない、との悲痛な叫びが掲示板に書かれてあった。実際、ゲーム上でもこの鉄板四種以外の職業はほとんど見かけない。
Gilly「ちょっと協力してほしいクエストがあるんだけど。いいかな?」
シエル「私に出来ることでしたら、内容にもよりますけど」
Gilly「これなんだけど」
そう言って彼が提示したクエストを見て俺は自分の目を疑った。だが、この時のGillyさんとの出会いが後の俺の運命を決定づけたと言っても過言ではない。