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27話 こんな仲間で大丈夫でしょうか

「掲示板のパスワードは半角で『yugiri』だ。これは現実世界、ゲーム画面上でも人に絶対に教えないでくれ。この世界の中でしか伝えてはいけない」


 もう表向きには出せない話題だし、これは当然の措置だな。

 

 この掲示板は新しい情報を投稿する場でもありながら、各人の生存報告も兼ねている。これは毎日絶対にすること。洒落にすらなってない本当の意味の生存報告なのだ。書き込まなかったら死んだと見なされる。


「教えてあげられることはこれくらいだな。他に何か聞きたいことある?」


「えっと……皆さんはこれからどうするつもりですか?」


「まぁ……各々に分かれて町で情報収集かなぁ。のんびりしたいなら、ここで寛いでいっていいけど」

 

 ×ぽんさんはやや決まりが悪い表情になる。つーか、いいのか?そんなゆるくしちゃって。さっきまでの真剣な雰囲気はどこへやら。


「人に直接迷惑がかかるようなことをしなければ、何をしても特に咎めることはないよ。俺達にそんな権利も無いしね」


「はぁ……」


 と言うことは、別にやりたい放題やってもいいわけね。怠けちゃってもそこまで怒られないと。足を棒のようにして情報集めするのも個人の意思ってわけか。

 迅速な問題解決のためには、統率力のあるリーダーとキッチリとした規則があったほうが、効率はいい気がするけどなぁ。この人達の考えもあるんだろうし意見しないでおくけど。


「それとシエルさん、ちょっといいかな」


「何でしょうか?」


 サイトさんが再び神妙な顔つきになる。


「如月さんのことなんだけど……彼の家族とかには会った?」


 正直、伊藤の奴とそこまで仲が良い関係かといわれるとな。友人であることには間違いないけど、あいつの家族構成とかも知らないし。そこまで深く踏み入った関係ではない。まだ知り合って長くもないし、このくらいの付き合いの方が互いに気楽だからと思っていた節はある。


「病院に運ばれて説明を受けただけで、家族には会ってません。後は警察とかに任せてますし」


「サイト、まだ気にしてるのか?」


 奥の方からAseliaさんの不快そうな声が聞こえてくる。彼が気にしてるのって、伊藤の奴が死んだことに関してか。


「仕方ないですよ。こんな状況じゃ……」


 サイトさんは首をゆっくり横に振る。


「いや、違うんだ。君とは多分違って、俺達は5人まとめてこの世界に連れてこられたんだ。始めのうちは、夢かもしれないけどみんなしてゲームの中に入れたと浮かれていてね。そして調子に乗って探索に行ったら……」


 伊藤がやられたというわけか。


「それだけじゃない。俺達はここをゲームの延長だと思って、結果的にあいつを見殺しにした。あの時真っ先に助けに向かっていれば、彼は死なずに済んだかもしれないのに……本当に、すまなかった……」


「サイトさん、俺に謝られたってどうしようもないし、あなた達を恨むなんてのも筋違いもいいとこです。それよりも、みんなで今この状況を何とかする方法を探しましょう」


 頭を下げるサイトさんに少し強めの口調で言ってみる。


 伊藤が死んでも別に悲しいとか泣くほど辛いとか思っていない。それよりも自分の命をまず何とかしたいから。自分でも薄情な奴だとは思う。身近な人が死んだけど、全く実感が湧かないのが正直な所だ。流石にこれは人に言えないけど。


 ×ぽんさんもサイトさんの肩に手を置く。


「……ああ、ありがとう」


 まだ割り切れていないとわかる表情だ。優しい人ではあるんだろう。だが、人の死を引きずるとロクな目に合わないってのは世の常だから何とかしてほしいな。


「とにかく、気に病まなくていいですよ。俺はこれから町へ行って情報を集めて来ます。宿もここの2階の部屋を使いますから」


「ああ、俺達はずっとこの部屋を使うから、何か急な用事があったらここに来てくれ。でも、情報交換は出来るだけ現実の掲示板でやったほうがいいかな。そっちの方が効率いいからね。全員に伝わるし」


「はい、そうしますね」


 俺はそう言って彼らに見送られながら部屋を出る。


 さて、これから……Gillyさんに会いに行くか。約束の場所にまだ来てなかったら、適当に町をぶらつこう。部屋を借りて一人であんなことやこんなことをやってもいい。

 何だかんだ言って仲間が増えたことで、この世界に対する不安はかなり軽減された。彼らの言う通り、町で大人しくしておけば死ぬ確率はぐっと少なくなるのだろう。それ以外は……ゲームの世界なのだ。


 俺はフロントで2階の適当な部屋を借りる。部屋番を伝えるのは後でいいだろう。


 それにしても普通に仕事してくれる宿屋の主人だなぁ。不自然さが全く無い。



 外は既に陽が傾きかけていた。


 ゲーム画面上では単なる飾りでしかない民家も、この世界では各々が立派な役割を果たしている。重たそうな荷物を担いで運ぶ男。夕飯の準備をする女性、道の真ん中で玉蹴りをして遊ぶ子供たち。この世界にはこの世界の人の暮らしが確かにある。みんな日本人顔がなのが気になるけど。



 ……そして俺はふと足を止める。


 目の前の前の雑貨屋で、若い男が女の子達と話しながら陳列棚の整理をやっていた。普段なら「リア充もげろ」とか言いたくなる光景ではあるが、俺はその男を一目見た瞬間に我が目を疑う。あの整髪料で軽く立たせた暗い茶色の髪。長身痩躯の体型に女性受けしそうな爽やかなマスク。あれは、間違いなく――


「内山!?」


 思わず俺は声を出しながら近づいてしまい、周囲の視線を一手に浴びる。だが彼は特に気にしていない様子で、営業スマイルを崩さぬままこちらに話しかける。


「何だいお嬢ちゃん?お使いかい?」


 容姿だけじゃない。声、あと多分性格まで同じクラスの内山そっくりだ。


「あの、あなたのお名前は!?」


「ん? ナオトだけど」


 ナオト……確か内山直人……だったな。あいつのフルネームは。こんな偶然があるのか?


「内山、俺だ。同じクラスの高瀬だけど、わかるか?」


「……変なこと言う子だなぁ」


 内山そっくりのナオトという男はあからさまに戸惑っている様子だ。俺がこんな外見だからか? いや、それでも高瀬という名前を聞けば何かしらの反応があっていいはずだ。


「何なの、この子?」


「女の子が俺って言うのは良くないよ」


 店先の女の子たちも俺の事を不思議そうな目で見る。よく見るとこの子達もどこかで見たことあるぞ。もちろん現実世界でだ。一体どういうことなんだ?

 でも流石に居た堪れなくなったので、俺は軽く謝ってその場を跳び出す。


 例の町の郊外に向かって走りつつも、俺の頭の中は新たな疑問で錯綜していた。この世界のモブキャラが皆日本人に見えるだけでなく、現実世界に瓜二つの人間も存在する。容姿も名前も性格も同じだなんて、たまたまで済ませていい問題なのか? もしかしてあいつもこのゲームをやっているのだろうか。


 いやいや、待てよ。だったらゲームの中のアバターの姿で入っている筈だ。取り込まれていない人のアバターは確かに存在するわけだし……となると、あのナオトという男は一体何だったのだろうか? もしかして現実世界の人がそのままモブキャラになってるとか?どちらにせよ、これはみんなに教えるべきだろうな。

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