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26話 仲間が増えちゃいるんだけど

「それはちょっと難しいです……」


 しまった、ちょっと長く考えすぎたかな……かえってみんなの不信感を煽ってしまったかもしれない。


「どうしてだい?」


 当然の如くサイトさんも食いつく。うん、当然の反応だな。


「彼はその、あまり人と組みたくなさそうな感じなんです。それに次はいつ会えるかも解かんないし」


「ふーん……?」


 うわ、すっごい妙なというか、疑わしい顔をしてるよみんな。やっぱりGillyさんのことは言わない方が良かったか?


「いいんじゃないんですか?それは個人の問題でしょうし。その内会えたら誘うことにしましょう」


 ×ぽんさんが話題を止める。つくづく場をまとめるのが上手い人だ。内心はどう思っているのか分からないが。他のみんなは軽く頷くだけであまり納得しているように見えない。


「ま……どこにいるのかも知らないなら仕方ないよな。少なくともシエルさんは協力してくれるんだろうし」


「はい。俺は是非とも」


 俺が即答すると、周りの緊張が僅かに緩んだ気がした。今まで立ちっぱなしだったサイトさんもソファーに腰を下ろす。


「じゃあ、今度は今の俺達のことを話そうかな」


「お願いします」


 にぃにぃさんが席を立ち今度はどこからか電気ポットを持って来て、他の二人にも茶を注いであげる。だから妙なところでテクノロジーが発達しているよな、この世界。ゲームの中だからそこは御都合主義……という事でいいのか?


「今の俺達の仲間の数だが、総勢で30人くらいってところだ。当然他にもこの世界に取り込まれている奴らはいるだろうが、今のところ合流出来ているのはこれだけだ」


「30人ですか。多いような少ないような……」


「中には大勢で組むのを嫌って、それまでのパーティーだけで探索を続ける輩もいるからなー。そのGillyって人も大凡そんなクチだろう」


 Aseliaさん……先程の俺への対応のフォローのつもりなのだろうか。


「でも、何でみんなで協力しようとしないんでしょうか。常に命の危険があるわけだし。単独や少人数での行動にはあまりメリットが無いような気もするんですが……」


 ここで自分自身の正直な疑問をぶつけてみることにする。その理由の一つはGillyさんから聞いているが、彼らがそのことに対してどう思っているのかも少し気になったのだ。


「君もさっき言った通り、賞金一千万円の特殊クエスト……『A.R.クリスタル』がこの世界に存在していると思っている人たちが結構いるんだよ」


「それを狙うために?たかだか一千万円じゃないですか。自分の命に比べたら……」


「私もそこまでして欲しいのかな……って思うけどね。でも賞金だけじゃなくてね、この世界を楽しんでいる人達がいるのも事実なのよ。だってほら、現実と違って色々凄い力を持ってるじゃない。冒険者ってだけでハクが付くから、異性だって口説き放題だし」


 どうなんだろう。本当に楽しめるのかこの世界?女を口説くにしても死んだらどうにもなんないんだぞ。考え方があまりにも刹那的すぎやしないか。


「みんな現実から逃げたがってるんだよ。どっちか選べっていったら当然充実した方を選択するだろう?現実では自分の命を賭けて得られるものなんて、たかがしれているしね」


 サイトさん、こっちに来てから言ってることが全体的に暗いよ……


 でも、そう言われちゃうとな。俺はまだ大学の一年だからいいけど、進学や就職に失敗した人達とかは本当に毎日が辛そうだよなぁ。もちろん仕事している人たちは言うまでも無い。自分が享受する現状への不満、そして将来への見えない不安……現実社会では自分の辛苦からどれだけの対価が生まれるのだろうか。今の俺にはまだ分からない。

 

「言うなればこの集まった30人というのは、まだ現実というものに未練がある人達ってことです」


「そうなんだよなー。俺も……なんだよなぁ」


 ×ぽんさんの例えは結構的を射ているのかもしれない。俺は今まで現実に絶望するほどの苦難を味わって来たわけじゃないしな。受験勉強もそんなに頑張ったつもりはない。逆に言えばそれだけ当たり障りのない、つまらない人生を送って来たということなんだけど。

 それとサイトさん。さっきから負のオーラ出しまくりだよ。大丈夫か?


「……サイトさんは置いといて、とにかく、この集まりで協力して何とかこの現象を食い止める方法を探しているんです」


「食い止めるって……何か方法があるんですか?」


「それがさっぱりだから、今こうしてこの世界について調べているんだよ」


 ああ、なるほど。Aseliaさんがさっきから本を読んでいるのはそのためか。体勢はともかくとして。


「もちろん現実世界からの行動も色々試してみてるのよ。でも他の人に話しても信じてくれないし、直接運営に取り合っても相手にされないし……」


「一度みんなで製作会社に乗り込んでゲームを中止させようって話もあったんだが、速攻で通報されて提案者が書類送検にあったしね。現実に証拠が存在しないから外部から働きかけるのがほぼ無理な状況なんだ」


 だからゲームの中から何とか出来ないかと試みているわけか……しかし、そんなこと本当に可能なのだろうか?


「A.R.クリスタルさえ見つかれば、こんなふざけた現象も止まるかもしれないって話も出ている。それでダンジョン探索に精を出す人たちもな」


「みなさんはどう思っているんですか?」


「確証の無い話に命は賭けられない……かな」


 良く言えば慎重。悪く言えば臆病、か。でもまぁ、当然だな。


「だから今はとにかく安全策を取っている。この世界に来たらダンジョンなどには向かわない。モンスターとの戦闘も出来るだけ避ける。情報収集も基本的に町中だ。ゲーム画面に比べると人は腐るほどいるからな。実際に中に入ってみるとこの世界もめちゃくちゃ広いし。少しでも人の手を借りたい状況なんだよ」


「となると、今はみんなで手分けして世界を回っている状況というわけですね?」


「そういうこと。その都度こちらの世界で全員が集まらなくてもいいように、新しく発見したことがあったら、攻略サイトの専用掲示板に書き込んでいる。パスワード制のな」


 ここでも掲示板か。しかもよりによって攻略サイトの。


「管理人の夕凪さんを説得して専用の奴を作ってもらったんだ。他のSNSじゃ、やり難くてな。警察沙汰にもなったから、どこから目を付けられているかわかんないし」


 それが不特定多数の人が利用するSNSは避けた理由か。個人で作ったWebサイトなら、監視の目も届かないだろうということか。


 しかし、警察沙汰にまでなったのは初耳だった。こんな状況になったのだから何が何でもゲームを止めようとする気持ちは解かるが……焦って動いたせいで、その当人にとっては更に事態が悪くなってしまった良い事例だ。


 こんな異常事態だからこそ、冷静な状況判断と慎重な行動を心がけないといけない。……こう考えられるのも犠牲者という名の先駆者がいるからなんだよな。昨日のGillyさんの発言を心で理解出来たが、同時に俺を後ろめたい気持ちにさせる。


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