25話 それがベストと言うのなら
3階の部屋の内装は、いかにも欧風と表現出来るような木造建築様式となっている。正直2階の部屋を広くしただけなのだが、やっぱり実際に入ってみると高級感溢れる造りのように感じる。広々とした部屋のリビングの一角には約1m四方の木製テーブルがあり、それを囲むようにソファーが置かれている。俺はサイトさんに促され適当な席に座った。
部屋の中にいたのは顔見知りのサイトさん、×ぽんさん、Aseliaさん。そして今回初対面となる、このパーティー本来のソーサラー役のにぃにぃさんだ。
「はいこれ。紅茶っぽい飲み物よ」
席に座るなり、にぃにぃさんが俺に茶を注いでくれる。同じ女性アバターのソーサラーではあるが、三角帽にぱっつんショートのいかにも魔女っ娘な感じの俺とは異なり、にぃにぃさんは赤髪ロングヘアーの大人びた女性の容姿をしている。好みは人によりけりだとは思うが。
「何にせよ、仲間が増えるといいもんだな。こっちも人手が欲しいしよ」
Aseliaさんが奥のベッドの方で、寝転びながら何やら本を読んでいる。おそらく俺と同じで中身は男なのだろうが、折角の青髪の美人女騎士のアバターが色々と台無しだ。
「Aseliaさん、一応体は女性なんですからその格好はちょっと……」
「ゲームの中なんだし気にするもんじゃねーだろ」
「サービスするのは結構ですけど、乱暴されても知りませんよ?」
Aseliaさんの女性の体らしからぬ無防備な体勢に、×ぽんさんとにぃにぃさんが苦言を呈す。そういえば、この体であんなことやこんなことも出来ちゃうのだろうか。いや、今の俺はいたいけな少女の体だ。つまりはやられる側。嫌だ、絶対に嫌だぞ。男にやられるなんて。童貞より先に処女を散らすなんてまっぴらごめんだ。
……でもまぁ、G行為くらいはいいかなぁ。折角女の子の体になったんだし、やらないともったいない気さえする。今度トイレとか風呂とか、一人の時にやれないだろうか……
「あの……シエルさんは、どっちなの?男?女?」
にぃにぃさんの問いに、思わず紅茶っぽい飲み物(味はほぼ紅茶)を吹きだしそうになる。やっぱりそれ聞かれるのか……ゲーム内での体の性別はバラバラだとはいえ、中身がちゃんと意識持ってるからな……
「中の人は男です。何かすみません」
「え~シエルさんも~?」
「まぁそんなとこだろうと思ったけど。残念だったね~にぃにぃさん」
困ったように溜息をつくにぃにぃさんを尻目に、Aseliaさんはベットの上で笑う。
「結局本物の女は私だけか……」
「あ、にぃにぃさんってリアルでも女性なんですか……」
あーそうなると確かに気の毒だ。女1人に男4人。これはちょっと不安になるかも。肉体的には女3人、男2人だけど。乱暴を働くにしても……結構いいシチュエーションになるかもしれない。
「女性プレイヤー結構いるって聞いたんだけどなぁ……」
「現実云々の話は抜きにしましょうよ。それよりもこれからの事を話しあわなきゃ……」
いいまとめだ、×ぽんさん。プリーストは大体こんな感じなのかな。そうそう、俺がここに来たのは自分の身を安全にするためと、少しでもこの世界に関する情報を得るためなのだ。途中で煩悩が混じったので、話が変な方向へ向かってしまった。
「それじゃあ、俺……あ……やっぱ俺の方から知ってることを話しますね。情報量はそっちの方が多いでしょうし」
「ああ、それは助かるよ」
もう中身は男って言っちゃったし、一人称も俺でいいや。
とりあえず俺は自分がこの世界について知っている限りの事を話す。昨日のGillyさんから聞いた仮説、俺自身の考えなどなど。ひとしきり話し終わった俺の目に飛び込んできたのは、皆が一様に目を丸くして口をぽかんと開けている表情であった。
「あ、あの……一応これで以上ですけど……何か……?」
「いや、その……教えてあげられることあんましないなーって……」
にぃにぃさんが苦笑いしながら、お茶のお代わりを注いでくれる。気を利かせてくれる人だ。アバターと相まって可愛い。現実世界ではどんな人なんだろう。
「こっちの世界に取り込まれる条件とか、あんまし考えてなかったもんな。なるほど、レベルか……」
「確かに、僕たちの他に取り込まれているのが確認出来た人たちは、みんな古参の人たちでしたね」
「ああ、それにレベルが関係しているとなると、古参メンバーの中で夕凪さんだけが取り込まれてないことも頷ける。確か彼はまだレベル20台だったはず……」
おいおい。何だか話が予想外の方向に転がってないか?こちらが情報を貰うつもりだったのに。いいんだけどさ。
「シエルさん、これだけの情報を一人で集めたんですか?」
バスケとかやってそうな感じの爽やかな風貌をした、赤髪の青年剣士アバターのサイトさんが真剣な目でこちらを見て来る。ゲーム上だと気の抜けた感じの人だっただけに、そのギャップにやや戸惑いそうになる。
「いや、他に俺の知り合いでこっちの世界に取り込まれた人がいて、情報の大半はその人から……」
「その人の名前は?」
「Gillyさんって人です。シーフの」
「Gilly……?誰か知ってるか?」
皆一斉に首を横に振る。つーかマジかよ。
一応彼と知り合いになった経緯も皆に話したが、今度はまた違った雰囲気でその話に聞き入っているようであった。
いや、何でみんなそんなに真剣なの?もしかして話しちゃいけないことだったか?
「高レベルのシーフなんて聞いたことないぜ」
「シーフってそんな使い方あるんだ……」
「シエルさん、今からじゃなくでもいいから彼に会うことは出来るかい? ぜひ彼にも協力してほしいんだ」
……うわ、参ったなぁ。
ソロプレイヤーを信条としてるっぽい人だとは思っていたが、ここまで知られていなかったとは。たしかに話聞いたら興味持つわな。
今日会うことを話すべきだろうか? 彼はあまり仲間を作りたくない感じだったけど……
俺の独断でみんなの仲間に入れるのはどうなのだろう。
迷う。