22話 俺が何か出来たりしない?
ゲームが原因で人が大量に死ぬ?だが、世間や警察はそんな話誰も信じてはくれないであろう。当事者でない限りこんな漫画みたいな展開は……
「何とかしてこれを止めることは出来ないんですか?」
「…………」
Gillyさんは何も答えない。目を瞑って何かを考えてはいるようだが。
「シエル、お前はこの現象はなぜ起きていると思う?」
「なぜって言われても……何て答えればいいか……」
「この現象は自然に起こっている物なのか、それとも誰かが人為的に起こしている物なのか……お前はどっちだと思う?」
止めるにしても原因を、というわけか。自然に起こるって、異世界にトリップする自然現象とかたまったもんじゃない。誰かが人為的に起こしている……こっちの方が可能性は高くないか?異世界召喚モノとか大概そうだし。漫画とは違うけどさ。
しかし、誰かが何かの目的のために、何らかの方法でこの現象を起こしている、となると色々つじつまが合う部分が出て来るぞ。レベル30以上でこの世界に連れて来られるとか、明らかに人間が調整したようなものだ。それに、この現象が始まったのは日曜の夜。日曜、日曜って確か……
「賞金一千万円のスペシャルクエスト!ってことは……!」
「そう考えるのが妥当、だよな」
偶然にしては出来過ぎてる。無料のネットゲームで一千万の賞金という胡散臭い話もそうだ。まさかこうなることを知っていて、というか最初からそれが目的で?
「ゲームの製作者が何かの理由で俺達をこっちに連れて来ているんですか!?」
「…………」
……あれ? 何で無言で考え込むんだGillyさん。結構筋の通った推理だと思ったんだけど。
「……確かに、その仮説は筋が通っているが」
「Gillyさんは違うと?」
「否定は出来ない。だが全て仮定で固めた意見だ。他の可能性もまだまだ捨てきれないってわけさ」
うーん、ゲーム製作者以外の人の可能性ねぇ……現時点では謎が多すぎるし、犯人を決め付けるのもどうかというわけか?また別の第三者によって引き起こされた事態……
「だが、少なくとも他の奴らは、大半はお前と同じ結論に至っている。さらには『A.R.クリスタル』とやらがこっちの世界に存在するのかもしれないって話も出てるしな」
「確かにその可能性も!……いや、それだと公式の『レベル1でもゲット出来る』なんて触れ込みが嘘になるな……でもその話も絶対ってわけでもないし……」
「とにかく現時点で結論付けるのは早すぎる。原因の根本を突き止めるにしても、もう少し情報が欲しいってわけさ。とりあえず今一番重要なのは自分の身の安全を確保することだな」
Gillyさんの言う通りかもしれない。目標があやふやなのに下手に固定観念に囚われて動き回っても、かえって自分の身を危険に晒すだけだ。
身の安全の確保か。今出来ることといえば、こっちの世界に来た時はダンジョン探索を控えることぐらいだな。そして、レベル30以上でこっちに取り込まれるということは、仲間内にもしばらくゲームのプレイを止めるように言っておくべきか?理由は何て伝えようか……
「明日の朝、一部の奴らが運営側にこのゲームを止めさせるように直談判するつもりらしい。出来ればの話だがな」
「やっぱりそれは難しそうですか?」
「向こうがこの事態を知っていようがいまいが、まともに取り合うと思うか?」
だよなぁ。
どちらにしてもゲームを止めるなんて出来っこないし……ん、止める?
「Gillyさん。もしかしたら、このゲームを退会すれば全てが済む話じゃ!?」
「既に試している奴がいる。今は結果待ちだ。どうも嫌な予感がするがな……」
取り返しのつかない行動をするにはまだ早い、か。俺なんかが考え付く対応策は全て取られているっぽいな。
「とりあえず今は下手に動かない方がいい。周りの出方を見て、それから次の行動を取る。状況が状況だ。多少の犠牲は目を瞑るしかない」
「他の人が危険な目にあっても見捨てるべき、なんですか?」
「周りだってお前の命を優先するとは限らんだろ。自分が生き残るために人と組むことはあっても、みんなで生き残るために危険になるのを承知で組んだりはするなってことさ。俺達は映画のヒーローじゃないんだ」
自分は絶対に生き残って勝利する主役ってわけじゃない、か。そりゃそうだな。言ってることは正しい。多分彼も自分が生き残るために俺と組もうとしているわけだ。どっちかが死んでも仕方ない、両方生き残ればそれでよしってか。現実もそんなもんだよなぁ。
「他の奴と組むのは構わないが、仲間が多すぎると生じるしがらみって奴もある。孤独から来る善意に駆られるのはいいが、ほどほどにしとけよ」
そこまで言うとGillyさんはその場を立ち上がった。
「俺はこれからもう少し情報を集めてみる。お前も何か解かったことがあれば知らせてくれ。また明日、ここで落ち合おう」
「了解です」
「……っと、言い忘れたがゲームは普段通りやっても大丈夫みたいだ。もちろん全滅してもなんともない。俺自身が試した」
「気をつけるのはこの世界にいるときだけでいいってことですね?」
「ああ。それと、ステータス……今の俺達の能力はゲーム内の数値が反映されるみたいだな。起きている間に色々準備しておくといいだろう」
「……なるほど、わかりました。ありがとうございます」
「じゃあな」
Gillyさんは後ろを向いたまま軽く手を上げると、そのまま町の方角へ立ち去って行った。流石はシーフ、もう姿が見えなくなってしまった。
俺は帽子を被り直し、これからどうするかを考える。とりあえずは今のまま、まだ意識が取り込まれていないパーティーと組んでおくか。ダンジョン探索は仮病でも使って控えるとしよう。とにかく彼の言う通り、判断材料が整うまでは大人しくしておいたほうが良さそうだ。もう夜も遅いし、町に帰って宿に泊まろう。これで現実世界に戻れたら、帰る方法がある程度確立出来るしな。
しかし、Gillyさん。あの冷静な判断力といい、現実では一体何やってる人なんだろう。でもゲーマーなのは確実だしなぁ。あまり考えないことにしとこう、かな。