1話 何となくそのゲームが気になったんです
大学一年の夏。俺は特に何をするでもなく、だらだらとネット三昧を続けていた。趣味と言えばせいぜい読書とゲームくらいだが、バイトも特にやっていない俺には自由に使える金はあまりない。で、無料のネトゲばかりやっているのだが……
「はぁ~あ、もうこのゲームも潮時か……」
巷のネトゲはどこも無料無料と言っているが、本当に楽しみたいのなら課金しろと言う所が大半だ。というか最近のはもはや課金前提のゲームバランスになっている気がする。たかだか学生の身分の俺にはちと辛い。
……いや、払えないことも無いんだけどさ。ネトゲなんて長く保ったとしても精々数年程度。据え置きのゲームに比べて面白いかと聞かれると首をかしげてしまうようなものに果たして金をつぎ込んで良いものか。そんな葛藤が常にあるものだ。
結局はいつもほどほどにやって退会して、また新しいのってサイクルになるんだけどね。その時だって何気なく広告に目を通してしまったんだ。
「新世代のネットゲーム『アカシックドミネーター』?……まぁ、いかにも厨臭そうな名前だな。十人協力プレイとか、凄いんだろうけどパソコンのスペック的に大丈夫か?」
最近のは名前すら似ているものが多くて混乱することがある。つーか、もうちょっと捻ってくれよ製作者。
『本稼働に先駆けて、応募者の中から抽選でβ版をプレイすることが出来ます』って……要はテストプレーヤーってことだろ? まったく、上手い具合に経費削減してますね。まぁどうせ暇だし無料だし、一応応募しておきましょ。フリーメールのアドレスだけでいいんなら特に問題なしっと。
そして、三日後。知り合いなんてほとんどいない俺に一通のメールが届く。
「『あなたはβ版のプレイヤーに選ばれました』って、この前のネトゲのテストプレイの奴か。随分早いんだな」
単に応募者が少なかっただけだったりして。まぁいいか。
さてさて、Webサイトからゲームをダウンロードし、ゲーム開始。
まずはキャラ登録っと。
性別は……女で行こう。ネカマ楽しいもんね。名前はシエルっと。女キャラを作るときはいつもこの名前だ。単に語感がいいだけで特に深い意味は無い。
次は職業。
近距離型のファイター。遠距離型のアーチャー。攻撃魔法のソーサラー。回復魔法のプリースト。ここら辺は鉄板か。後はシーフ、ドクター、トレーダー、アルケミスト、クリエイター、ファーマー……なんだこりゃ。無駄に職業多くないか?
ドラ○エとかF○みたいにいっぱい職業作りたかったんだろうが、明らかに地雷臭がしてきたぞ。なんか色々固有スキルとかあるみたいだけど。大体回復役はプリーストがいるのにドクターとかいらないだろ。せめてどっちかに纏めろよ。
うーん、どうせテストプレイなんだろうし、適当にソーサラーで。女の子だしな。
アバターは緑髪のおかっぱ頭に、いかにも魔女っぽい帽子と服、そして古びた木の杖を持った少女だ。俺は好みだけど逆にありきたりすぎる気もする。
ゲーム内容はというと、これもよくある話でまずは冒険者ギルドに登録し、各地のクエストをどんどんこなしていくといったものだ。ゲーム画面は日本人好みの2D。戦闘にはアクション要素があって、位置取りも重要で戦略的要素が高く、なかなか面白い……のだが、結構難易度が高い。
始めてから二時間。既に三回死んでいる。どうやらパーティーを組むこと前提のバランスになっているようだ。単に調整できてないだけかもしれないが。
早くもソロプレイに限界を感じた俺は適当なパーティーを探すことにした。これがネトゲの醍醐味であり、最も煩わしいところなんだよな。町に戻ってみると早くもパーティー募集のチャットが飛び交っていた。アクション要素が強いとはいえ、感想はみんな同じか。抽選で選んでる割には結構人はいるみたいだな。
ど~れどれ、お客様の中に私とパーティーを組んでくれる方はいらっしゃいませんかー?出来ればファイターの方ー。
うん。なんだかんだで楽しんでいたんだよ。この時は。