13話 嫌な予感はしていました
目を覚ますと見たことの無い大地が広がっていた。一体どうして?
あ! 何か可愛い女の子が襲われている、助けなきゃ! でもどうやって?
すると俺の手には激しい電流が宿っていた。これは…… 使えるか?
くらえー! どかーん!
「助けて頂きありがとうございます! 今の雷は…… まさかあなたが伝説の勇者様?」
勇者……? 俺が……?
「私達の世界を救ってください!」
こんな美少女の頼みごとなら断れない。
現実世界に退屈していた俺の異世界での生活が始まった!
……………
………
…
(なーんか最近多いなー こういうの)
この日は貫禄の昼12時起き。ビバ大学の夏休み。
今日は月曜だし、ゲームのほうも昼間の方が人いないけど、連日この暑さだとパソコンにもかなり負担がかかる。昼間にクーラーつけっぱは電気代がヤバいし。
そういうわけで、学食で飯を食った後、冷房の効いた図書館で持参のラノベ(古本屋で200円)を読む毎日。ラノベに飽きたなら、適当な雑誌や新聞でも読めばよい。ゲームはできないけどパソコンも好きに使える。流石は大学の図書館やで。節約はこうやってするんですよ奥さん。
そんなこんなで家に帰るのは午後6時半。晩飯も学食でとったので後はネトゲタイムだ。プレイ人数のピークは8時くらいだって掲示板にも書いてあったから今ならまだ……うし、ログイン成功。
ログイン早々チャットコールっと。おっ? まるちーさんだ。
まるちー(Lv.17)「シエルさん、久しぶりー」
シエル(Lv.29)「と言っても3日程度ですけど。今日は早いですね」
まるちー「仕事が早く終わったんで。寧ろ最近夜中が重すぎない?」
シエル「例のクエストのせいか、8時から12時まではキツイですねー。早めか遅めにログインしないと、入ることすら出来ませんよ」
まるちーさんのレベルが全く上がってない所を見ると、ここ数日本当にログイン出来ていなかったようだ。いつも10時くらいにログインして1時前には抜けてたもんな。社会人って大変だ。
まるちー「それにしても、ちょっと見ないうちにシエルさんはだいぶやりこんだようだねー やっぱり例の賞金とか狙ってる?」
シエル「私なんかじゃとても無理ですよ… 強い人にパーティー誘われたからレベルだけ上がっちゃいましたけど、上には果てしなくいるって思い知らされましたから」
まるちー「確かにねー レベル1でも入手できるって公式に書いてあったけど、実際は時間と人脈がものを言うだろうしねー」
シエル「手がかりとかヒントとかも全く無いし。獲得者がいないとその内ヒント増えたりするんでしょうか?」
まるちー「どうだろう。もしかしたら該当者なしで済ませるかもしれないし」
あぁ、その手があったか。そもそも運営が「A.R.クリスタル」とやらを本当に置いてあるのかも怪しい。そりゃそうだよな。クエスト達成条件なんて運営の匙加減でどうにでもなるんだ。あ~あ、となると益々このキャンペーンがアホらしくなってきたぞ。
シエル「これはのんびりゲームを楽しんだ者勝ちかもしれませんね」
まるちー「そうだね。ゲームは無料だし、宝くじ感覚で一攫千金を夢見ている人が多いけど、消費する手間と時間は決して只じゃないよ。そう考えると宝くじの方がまだマシさ」
社会人が言うとなんか説得力あるよなぁ。時間を大量に浪費して存在すらしない可能性のある宝を探すよりも、普通に働いてその分だけ金を稼いだほうがよっぽど効率がいい。人間やっぱ地道に行かんとな。
YASU(Lv.19)「二人ともちょうどいいところに!」
Pon太(Lv.22)「いいタイミングで4人揃いましたね」
まるちー「今日はついてるな。今からどこか行ったりする?」
YASU「二人がいなかったら他の方を誘おうとしていたんです」
Pon太「でもこんな早い時間に揃うなんて珍しいですね。前回から色々ありましたから」
シエル「やっぱりこの4人が一番落ち着きますね」
しかしレベルに関しては俺が完全に浮いてしまっているな。
この後4時間程、4人で(少なくとも俺は)まったりとダンジョン攻略を楽しんだ。流石に高いレベルに質の高い装備があるから戦闘が余裕過ぎたが、そんなのは置いとこう。仲いい人とやるのもゲームの楽しみの一つだ。しかも、ついに俺もレベル30の大台にいってしまったぞ。何だか悪いなぁ。
11時頃にまるちーさんが明日も早いからとログアウト。パーティーも今日はこの辺で、と解散した。本稼働まではしばらくこんな調子だろうから、次回は会えたら組みましょうということに。
俺も今日は早めに切り上げるかな…… その前に個人ショップでも見て回ろうっと。
っと、またチャットコールか。最近知り合い増えたからなぁ。いいことだけど。
しかもサイトさんからだ。
シエル「こんばんは。昨日はどうもお世話になりました」
サイト(Lv.51)「急にすまないね。ちょっと頼みがあるんだけど」
シエル「また何かクエストですか?」
サイト「いや、如月さんのことなんだけど。彼の連絡先とか知ってるかな?」
シエル「知ってますけど、どうかしましたか?」
サイト「珍しく彼がログインしてなかったんでさ。今日予定していたクエストだけど、明日の同じ時間に延期になったって、彼に伝えてくれないかな?」
へーそりゃ珍しい。まぁアイツにはアイツの用事もあるのだろうし。しっかし、この人もメンバーのリア友にゲームの予定を伝えさせるなんて相当な入れ込みようだな。
シエル「構いませんよ、今から電話してもいいですし」
サイト「すまないね。彼個人の事情もあるし、ゲームに束縛するのもどうかと思うけど」
一応自覚はあるんだ。しかし、伊藤(=如月)の奴も随分と頼りにされているんだな。
サイト「ところでシエルさん。最近変わったことはなかった?」
シエル「どうしたんですか? 急に」
サイト「無いならそれでいいんだけど」
シエル「はい、別に変な事は全然」
サイト「それならいいんだ。君も学生だろうけど、あまり体に無茶かけるなよ。俺も人のこと言えないけどさ」
シエル「サイトさんも大学生なんですか?」
サイト「一応な。じゃあ、俺はちょっと人待たせてるから。また今度」
シエル「はい、如月に伝えときますね」
サイトさんも学生なのか。まぁこんな廃人プレイが出来るのは夏休み中の大学生かニートくらいなもんだけどさ。さて、一応伊藤の奴に電話してみるか……
『ただ今電話に出ることが出来ません。御用件のある方は……』
寝てんのかな? じゃあメールで送っとくか。