12話 その時既に始まっていたのです
「う~ん、いいのかこれで?」
午前4時半。俺はシエルのステータスを見ながら妙な罪悪感に苛まれていた。
ただ今のレベル…… 29。一体全体どうしてこうなった。5時間程度のプレイでレベルが7も上がるって…… 先日のGillyさんと組んだ時以上だ。
まぁ結論から言うと俺は金魚の糞の如く高レベルのプレイヤーに付いて行ったのだ。そう、つい先程まであんなに嫌っていた金目当ての豚共と同じような行為を…… いや、違う。これは不可抗力だ。他の人もノリノリだったじゃないか。誘って来たのは向こうからだ。うん、俺は違う。あんな奴らとは違う。
始めに、俺は伊藤(如月由眞)、×ぽんさん、Aseliaさん、そしてサイトさんの5人で、天上回廊というマップに挑んでいた。攻略掲示板によるとここの平均攻略レベルは40くらいだと書かれていたが、サイトさんの見事な采配と他のメンバー自身の圧倒的な強さによってあれよあれよという間にクリアしてしまった。
このダンジョンの難敵は空を飛びまわるグラービートル。そしてアロンスライムだ。アロンスライムは粘着液を飛ばし、それを浴びた者の動きを一定時間止める。それを避けたとしてもその粘着液が地面に張り付く。その上を通っても一定時間移動が出来なくなるのだ。
じゃあ、それを避けて上手く立ちまわればいいじゃん、と俺も最初思ったが実際にその惨状を目の当たりにして反省した。無理、あんなの無理。
スライムちゃん多過ぎ、ハッスルし過ぎ、体液飛ばし過ぎ、そこに空中を自在に飛び回るグラービートルの大軍。一度でも粘着液に足を取られれば、グラービートルの容赦ないバックアタック(ダメージ1.5倍)の連打が待ち受けている。互いに単体ではそこまで強くないのだが、組み合わさるとハメ殺しされてしまうという、これまた鬼畜ステージなのだ。
でもファイヤーウォールWがあれば別、攻略レベルが10ぐらい下がるらしい(サイトさん談)。粘着液を無効化し、空を飛ぶ敵の足止めにもなる。無理ゲーが一転してヌルゲーとなる瞬間を俺は目の当たりにした。でも数が多すぎて、全ての敵に使うためには結局レベル30台後半のSPが必要になるんだけど。しかし、そこはサイトさん。俺のために大量にSP回復アイテムを用意しておいてくれた。金額にして4000G。ありがてぇ、ありがてぇ。
そこのボスですか? 魔法全然効かないので俺は終始空気でした。ちゃんちゃん。
で、そこをクリアした時にはレベル26。これでもかなり上がった方だと思う。今日はこれで解散…… かと思ったら、サイトさんの方からもう一つ行っとく? との提案が。
サイトさんの別の仲間が10人協力プレイの動画を取ってネットに上げたいらしく、その面子として来て欲しいとのことだ。伊藤の奴も初めて知ったらしく、結局俺達は深夜特有の妙なテンションでそのままホイホイと付いて行ってしまったのだ。
そして今に至る。
「うん…… 仕方ない。みんな楽しんでたし、おーるおーけーさ」
みんなと解散した後、10分ほど俺は自分自身の正当化に時間を費やしていた。
いいのさ、これはちゃんとゲームそのものを楽しんだ結果なのだから。
「よし…… 寝よ!」
外を見ると空が微妙に明るくなってきている。酷い生活リズムだなこりゃ。
でも、最近何だか凄く充実しているな。ゲームだけど。
これも大学時代にしか出来ない事さ。そうだ、きっと。
受験の時と違って睡魔も心地よい。ゲームして飯食って寝る。最高の生活じゃないか。
そのまま、俺は夢の世界へと堕ちて行った。
……そう、この時はまだ、寝ることに何の心配もいらなかった。