10話 単なる宝探しに思えたのですが
【スペシャルクエスト】
『この世界のどこかにある「A.R.クリスタル」を探し出せ!』
(攻略のヒント)
A.R.クリスタルはダンジョンの中にあるとは限らないぞ! 君の目と足と耳、そして直感…… 持てる感覚を全て使ってこの世界を探しまわるのだ!
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「A.R.クリスタル、ねぇ……」
もう夜中の10時だというのに相変わらず人が多すぎてログインが出来ない。参加人数増やすんだったら、もう少しサーバー増強しとけよ運営。俺が今見ているクエストの画面は他のプレイヤーがキャプチャーして別のサイトに上げたものだ。
攻略、雑談掲示板の方も満員御礼。いい加減、金目当ての新参と、本当にゲームを楽しんでいる側の古参用に分けようぜ、という声が上がり、スレッド消費も落ち着いてきたほうだ。だが本当にリアルマネーが、しかも1000万円の大金が手に入るかもとあって古参スレの方もこのスペシャルクエストの話題で沸騰している。
……実を言うと、俺もこのスペシャルクエストに全く興味が無いわけではない。ただ、賞金目当てで瞳をぎらつかせているような連中と関わりたくないだけだ。運良くこのA.R.クリスタルとやらを見つけたらそりゃ飛んで喜ぶだろうよ。賞金もありがたく頂戴する。まず無いと思うけどさ。
宝探しをさせるにしても、せめてもう少し謎解き要素があれば楽しめるんだろうけどな。生憎解けるように出来ている謎が無い。推理の余地が一切見当たらないのだ。全てがアバウト。
「レベル1でも入手出来る」「ダンジョンの中にあるとは限らない」、プレイヤーの多くはこの言葉が手掛かりにならないかと必死に考えている。だが俺に言わせればこんなのはヒントになんてならない、そう断言できる。
後はA.R.クリスタルという名前くらいか。でもタイトル的にA.R.って「アカシックレコード」の略だよな? 掲示板でもほとんどの人がそう言っているし。因果律云々とかいかにも厨二病患者が好みそうな単語だから、作り手もそんなに深く考えずに、客寄せの言葉としてつけただけだと思っていたが……
「あ~ もどかしい」
パソコンの前から離れ、俺は冷蔵庫の中の麦茶を取り出して飲む。ログインまでの時間をクエストの情報収集と謎解きに使おうと思っていたのだが。この様子ではどうにもこうにも。つーかゲーム本編をやらせてくれ。
……っと電話、伊藤からか。
「もしもし?」
『おう高瀬、確かお前ソーサラーだったよな』
「そうだけど」
『ファイヤーウォールWってもう覚えてる?』
「ああ、ついこの前覚えさせたけど」
『そうか! 頼みがあるんだけどこれからうちのパーティーに来てくれないか? ちょっとダンジョン攻略に付き合ってほしいんだ』
「クリスタル探しでないんなら構わないけど… 今サーバーが重すぎてログイン出来ずにいるんだが」
『マジかー…… あー とりあえず11時半に集合ってなってるから、その時までにログイン出来ればいいからさ。出来なかったらまたメールでもくれないか?』
「ああ、わかった。人に空きが出るのを祈るのみだな」
……ふぅ。簡単に約束しちゃったけど、肝心の俺の方のパーティーのことを忘れてた。
まぁ、今の状況ならみんなで集まることも難しいだろうし。YASUさんもPon太さんも他にパーティー組んでるしな。大丈夫だろ。え~っと? あと一時間ちょっとか。ログイン試してみるか。
『メインサーバーとの接続に失敗しました』
……コンビニで駄菓子でも買ってこよう。
ファイヤーウォールW
……ソーサラーが習得できる範囲攻撃魔法。
初期のファイヤーウォールに比べて、効果範囲が倍近くに広がっている。
複数の敵にはもちろん、素早い敵、当り判定の小さな敵、ボス戦における足止めなど、用途が広く非常に便利な魔法。
ソーサラーなら絶対に覚えておけと、攻略掲示板にも書かれているほど。