表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/65

9話 何となく怖かったんです

 結局、昨日はロクにプレイできなかった。


 公式発表ではないけど、掲示板での話によるとプレイヤー3万越えは確実。本稼働前のゲームにしては異常な盛り上がりを見せていると、他所でも話題になっていた。

 やはり話題の中心は賞金である。そもそも本当にリアルマネーなのかも、賞金の額すらも明らかになっていないが、レベル1でもゲット出来るチャンスがあると公式での触れ込みに皆が釣られているようであった。


 おかげで古参(つっても1週間程度だけど)プレイヤーは大迷惑。操作説明すらまともに読めないにわか共が集まって来て、掲示板も調べれば10秒以内で解かる程度の質問で埋め尽くされる。CNもメンヘラ臭いのばっかだし、今度みんなで実際に会って作戦会議開きませんか~?なんて、明らかに出会い目的のプレイヤーも続出していた。


 夜6時から12時にかけて、俺はサーバーに接続することすら出来なかった。俺と組んでる人たちも同様に苦労しているようであった。


 YASUさんはその人の良さが災いして、初心者質問攻めにあったあげく、素人パーティーに加えられ、システムを把握していない味方から何度も殺されそうになったらしい。


 Pon太さんも「まさかこんなことになるなんて…」と困惑していた。先日からゲームを始めた彼の友人も所在なさそうにしていた。彼が持っていた情報は「β版プレイヤーには本稼働時に特典」という噂だけだったため、本当に賞金がつくなんて予想だにしなかったであろう。一応パーティーの一員として慰めの言葉はかけておいた。


 まるちーさんはログインすら出来ていないようであった。あの人は単に仕事が忙しいということもあるのだろうが。

 詳しくはわからないが、恐らくGillyさんも似たような状態だろう。


 伊藤の奴は名前で検索かけたらヒットしたので、チャット登録して一声かけた。本当に一声。その後すぐ抜けた。

 面白い物が廃れていくまでのサイクルというコピペを以前に見たことがあるが、まさにそれである。面白い物は多くの人に知られていはいけない、下手に流行らせちゃいけないのだ。人の波が娯楽を潰す。


 ……とまぁ、昨晩はこんな事情で完全にやる気が失せてしまい。早々に床についた。それにしても如月由眞ちゃんって中々可愛いな。今後ともお世話になるかもしれない。




 そして翌日の正午過ぎ。


 いつものように学食で一人飯を食っていると、昨日と同じく伊藤が声をかけて来た。その顔はなんというか、もう9月近いというのに未だに残る残暑にやられたんですか、と言いたくなるくらいに青ざめている気がした。理由は解かるけど。


「よ」


「ん」


「見た?」


「見た」


「どう思う?」


「嘘臭い、と言いたいところだが、ああも発表して嘘でしたーじゃ済まされないだろうしな。本当…… なんじゃねーの?」


「にしても、なんだよ『賞金一千万円』って……」


 正直俺もディスプレイの前で10秒間固まった。公式サイトは激重だった。この話は様々なサイトに飛び火し、ネット上のニュースでも取り上げられた。無料のネットゲームでこれだけ破格の賞金がつくのは前代未聞なのだ。運営側のコメントは『わが社のゲームの知名度を上げるために企画しました』の一点張り。確かにゴールデンタイムのテレビCMとかはそれくらい行くし、最近は対費用効果も怪しくなってきている。良くも悪くも有名になるということは企業側の戦略としては成功の部類に入るのだろう。

 

「賞金を受け取れるのって一人なのかなぁ?」


「金額的にはそうだと思うけどな。みんなで山分けするにしても十分な金額だし…」


「だとしたらやっぱり俺はパス。変なトラブルが起きそうだからな」


 俺の両親は割と放任的であったが、金の恐ろしさについてはガキのころからしっかりと叩きこんでくれた。世の中金だけじゃない。でも金が原因で殺されたり、恨まれたり、苦しんだりしている奴は世の中に腐るほどいる。

 現に今、楽して稼ぎたいと欲に塗れた人間達が大量に押し寄せてきているのだ。ギャンブルとは違い自分にはリスクは無いので、みな気軽に始めることだろう。そのほんの軽い気持ちで金もうけしようとする姿勢が最も危険なのだ。


「確かに、賞金ゲット出来たらみんなで焼き肉、なんてもんじゃないからな…… お前がそう思うのも仕方ないか…… ま、気が変わったらいつでも声かけてくれよ。うちのパーティーリーダーは信用できる人だと思うしさ」


「……ああ」


 伊藤はそのまま飯も食わずに帰って行った。俺はどこも見るでもなく、そのままゆっくりご飯を噛んでいた。

 

『金に関しては真っ当に稼げ』か。


 バイトも何もせずにゲーム三昧の俺が偉そうに言える台詞じゃないけどな。




「ねーねー 杏子は今レベルいくつー?」


「私はやっと8いったところだよ。っていうかさーこのゲーム難しすぎない?」


「それなりのお金かかってるからねー みんな必死だよ」


「でもいくらなんでもシーフ弱すぎない? 盗賊の癖に他の人からアイテム盗めないとか」


「レベル1でも取れる可能性があるらしいから別にダンジョン入んなくていいんじゃない? やりこんでる人と友達になる方がよっぽど確実だよ」


「あったまいい~! おっさんだったらちょっと誘惑したらコロっといくかもしれないし」



 ……頼むから止めてくれよ、素直にゲームを楽しませてくれ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ