オープニングは大事ですね
「デュラハンだ!」
「後ろからとかそんなのアリかよ!?」
水滴と僅かな足音のみが響いていた洞窟に突如として、不気味な轟音が鳴り響く。病的なまでに逞しい体と、不気味な黒い目を響かせる黒毛の馬に股がる、禍々しい装飾の鎧を着込んだ騎士。手に構えるランスは真っ赤に染まっており、これまで数多の侵入者を仕留めて来たという勲章になっていた。全長3mはあろうかと言う巨大な悪魔に立ち向かうのは小さな4人の戦士達。
かち合う金属音、所々に飛び交う火柱。彼らは一歩も引くことが無かった、やがて火柱が馬の足元を掠め、僅かにバランスを崩した所を、戦士の剣が彼の者の首を貫く。唸り声を上げならがランスを振り回すが、その腕ももう一人の戦士に斬り落とされる。
「止めだ!」
戦士が首に斬りつけた剣を振り上げ、もう一度首に斬りつける。今度は首が跳ね跳び軽い金属音を鳴らしながら地面を転がり回る。
「よし!」
「よし、じゃない! シエル、首を逃がすな!」
「わかってるよ! フレイムレーザー!」
それまで後方から援護していた、一回り小さい人間の杖から、より収束した熱線が放たれる。その光線は転がった首を逃がすことなく捉え、すぐに鉄の兜を赤白く染め上げる。やがて物々しい断末魔が響き渡り、洞窟内に再び静寂が訪れた。
「まったく…… デュラハンは元々首が取れてるもんですよ?」
「ありゃ、そうだったの? 恥ずかしーい。『止めだー!』なーんて」
仲間からの痛い突っ込みに、若い男戦士は笑いながら剣の血を拭き始める。
隣にいた法衣に身を包んだ、やや呆れ気味の男が何やら呪文を唱えると、仲間の擦り傷はみるみる塞がっていった。
「よし! 特に被害も無いし、再度出発だ!」
地底深くに眠るお宝を求めて、命知らずの4人の冒険者は今日も行く。
陽気な性格のリーダー、戦士YASU。
チーム1の力持ちながら癒し系でもある、獣戦士Pon太。
貴重な回復役でチームのブレイン的存在、僧侶まるちー。
そして、パーティーの可愛らしい紅一点、魔法少女シエル。
今日も四人は命がけの探索を行っていた。でも、もうこんなの慣れっこだ。みんながこの状況を楽しんでいる。まるで死の淵こそが生の充足を満たすと言いたげに。冒険者とはこうでなくてはやってられないのだ。
たった、一人を除いて。
「上からだYASUゥぅぅーっ!!!」
少女の甲高い絶叫が洞窟に響き渡る。YASUは瞬時に右方に飛びのき、その斬撃をすんでのところでかわす。
長い爪を持った不気味な魔物は、口惜しそうに仕留め損ねた獲物を睨んでいた。
「いてて…… 助かったぜ、シエル」
「今度は上からガーゴイルか! 向こうも頭使って来てるよ!」
「流石に深層は手強いモンスターが多いですね」
冒険者たちは笑う。強敵を前にして、その状況を楽しむ。
「みんな! 油断しないで! 死んだら何にもならないよ!」
一人、少女の悲痛ともいえる声が木霊する。
「怖いのか? シエル」
「まぁ、女の子だし」
「とにかく前衛は任せろ! シエルは距離を取って後方から援護を!」
人と魔獣の声が反響し、洞窟の中は一転修羅場と化す。
「増援だ!」
「ガーゴイルが2、3……4体!?」
次々に表れては容赦なく侵入者に襲いかかる魔物たち。
「シエルさん! 2人が引き付けているうちに一網打尽に!」
まるちーの言葉に頷き、少女は魔法の詠唱を始める。
(死なせるか……!)
味方は強い。数の多いガーゴイル相手に互角以上に戦っている。しかし敵もやるもので人数差を利用したヒット&アウェイの戦法を取り、互いに決定打を打てずにいた。
戦士だけのパーティーなら長期戦必至だが、こんな時のための魔法使いなのだ。シエルの詠唱が終わりに近づく、それを確認したまるちーが味方に合図を送る。ガーゴイル達が気づいた時には既に手遅れ。自分達は距離を取っていたつもりだったのだが、実際はその逆。二人の戦士によって効果範囲内まで完璧におびき寄せられていたのだ。
「ファイヤーウォール!」
ガーゴイル達の周りを文字通り炎の壁が取り囲む。壁は次第に狭まって行き、やがてガーゴイル達を包みこむ。
「ギャァァァーッ!」
燃え盛る魔物たちを見て、味方が歓声を上げる。だがシエルは油断することなく、さらに気合を入れて魔力を集中させる。ガーゴイル達は既に動きを止めているが、それでもなお炎は燃え盛るばかりであった。
「シエルさん。もうその辺で十分です。これ以上は魔力の無駄ですよ」
まるちーの声で我に帰ったシエルは魔力を切る。既に魔物の肉体は存在せず、黒焦げた骨が残っているだけであった。脂汗をかいて息を荒らげる少女を見てまるちーは心配そうに声をかけた。
「おい! また増えたよ!」
間髪いれずに叫んだPon太の剣の先には更なる魔物の群れ。
数は10匹… いや、もっといる。
「ここが山場…かな? シエル、まだ行けるか?」
「大丈夫……!」
飛びかかって来る魔物の先陣に再び二人の戦士が立ち向かう。シエルは今度は一点集中型の魔法の詠唱を始めた。敵がまだ狭い通路にいるうちならこれで一網打尽に出来る。
「くそっ! 流石にそろそろきついぜ!」
「シエルは?」
少女の周りに大きな魔法陣が完成し、その拡散と共に味方はその場を跳んで離れる。異常に気付いた魔物たちが一斉にシエルに向かって襲いかかる。
(「俺」だってまだ……死にたくねぇんだよ!)
魔物の爪が今にもシエルの腕を斬り裂こうとした時、彼女の杖から鋭い閃光が伸びた。
投稿後3ヶ月以上経ってからのようやくの追記(というか注意事項)↓
・この物語は主人公チート物ではありません。
・TS要素が含まれますが特にストーリーに影響を及ぼす事はありません。
・デスゲーム要素はありません(デス○ート要素はあるけど)。
・キャラクターごとの個性はわざと無くしています。
・設定は全く作りこんでいないので、細かいことを気にしたら負けです。
・まことに残念ながら、可愛い女の子は登場しません。
まとめ:頭を空っぽにして楽しんでいただければ幸いです。