第47話「ナノマシン、世界へ」
その発表は、静かに準備された。
だが――
影響は、静かでは終わらない。
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「最終確認、完了しました」
一条朔也が言う。
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本邸の空気は落ち着いている。
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だが、その裏では、
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国家も、企業も、すべてが動いていた。
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「内容は」
業真が問う。
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一条が答える。
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「医療技術としての発表」
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一拍。
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「ただし、限定的です」
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神崎が補足する。
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「効果の提示のみ」
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「構造は非公開」
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それが今回の条件。
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見せる。
だが、渡さない。
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「場所は」
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「国内発表」
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一条が続ける。
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「その後、国際展開」
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段階的。
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計画通り。
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「準備は」
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「完了しています」
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それで十分だった。
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業継が小さく呟く。
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「ようやく一般に出せるね」
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『はい』
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アークが答える。
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ナノマシン。
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これまで隠してきたもの。
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それが――
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世界に出る。
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数日後。
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都内・会見場。
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記者。
カメラ。
関係者。
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すべてが揃っている。
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だが、
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誰も“本当の意味”は知らない。
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「始まります」
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一条が言う。
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壇上。
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発表はシンプルだった。
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「新規医療技術の開発に成功しました」
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ざわめき。
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だが、
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まだ小さい。
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「特定条件下において」
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一拍。
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「異常細胞の選択的除去を確認しています」
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空気が変わる。
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記者の視線が変わる。
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それはつまり――
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治療。
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しかも、
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選択的。
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つまり、
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副作用の少ない治療。
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「臨床適用は段階的に進めます」
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「詳細は今後の発表にて」
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短い。
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だが――
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十分すぎる。
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数秒の沈黙。
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そして――
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爆発する。
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「具体的な技術は?」
「成功率は?」
「既存医療との違いは?」
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質問が飛ぶ。
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だが、
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一条は崩さない。
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「現時点では非公開です」
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それだけ。
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だが、
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止まらない。
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会見終了後。
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世界。
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反応は一瞬だった。
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医療界。
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「あり得るのか?」
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企業。
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「特許は?」
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国家。
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「情報を集めろ」
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そして――
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海外勢力。
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「……出したか」
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男が言う。
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一拍。
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「想定通りです」
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部下が答える。
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「どうする」
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「変わりません」
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一瞬の沈黙。
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「いや」
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男が言う。
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「変わる」
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一拍。
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「奪う必要がなくなった」
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それが意味するもの。
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ナノマシンは、
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“独占技術”から、
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“世界技術”へ変わる。
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だが――
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「主導権は残る」
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それも事実。
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本邸。
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「反応は」
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一条が報告する。
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「想定通りです」
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「混乱しています」
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業高が笑う。
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「だろうな」
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神崎が言う。
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「だが、これで変わります」
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「何が?」
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「戦い方です」
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一拍。
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「奪う戦いから、主導権の戦いへ」
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業継が小さく呟く。
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「なるほどね」
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『はい』
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アークが答える。
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ナノマシンは出た。
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もう隠せない。
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だが――
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完全には再現できない。
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だから、
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主導権は残る。
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「これでいい」
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業継が言う。
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静かに。
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「助けられるし」
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一拍。
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「守れるから」
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それがすべてだった。
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夜。
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業継は一人で空を見ていた。
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「世界、動いたね」
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『はい』
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「一気に大きくなったね」
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『非常に』
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業継は少しだけ笑う。
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ここまで来た。
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資源。
企業。
国家。
世界。
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すべて繋がった。
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「でも」
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一拍。
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「まだ途中だよ」
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『はい』
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ナノマシンは、
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世界へ出た。
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だが――
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それは終わりではない。
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始まり。
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九条業継は、
その中心に立っている。
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五歳。
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だが、
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その影響は、
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世界そのものに届いていた。




