第15話「御影資源開発、外部の本格調査開始」
東京。
大手総合商社・資源部門の一室。
無機質な会議室の中に、数名の社員が集まっていた。
テーブルの上に並べられているのは、分厚い資料の束。
その表紙に記されている名前は――
御影資源開発株式会社。
「例の件、続けろ」
部長の一言で、若手社員が口を開く。
「はい。前回の簡易調査から一歩進め、現地確認と周辺ヒアリングを実施しました」
「結果は」
「……違和感はあります」
部長がゆっくりと顔を上げる。
「具体的に言え」
「はい。まず、産出量の安定性です。通常、初期鉱区はばらつきが大きいはずですが、御影資源開発の数値は異様に安定しています」
ページがめくられる。
「さらに、第二鉱区の発見タイミング。これも偶然としては出来すぎています」
「偶然が続いたと?」
「はい。ただし――」
言葉を選ぶ。
「それを否定する材料はありません」
部長は小さく息を吐いた。
「つまり、“怪しいが証拠はない”か」
「その通りです」
別の社員が口を挟む。
「地元の評判も調べましたが、特に不審な動きは見られません。むしろ、雇用が増えたことで歓迎されています」
「地元に嫌われていないか」
「はい」
「厄介だな」
部長は椅子に深くもたれた。
(評判は良好で違法性なく数字も優秀だが)
優秀すぎる。
「どう見る」
部長の問いに、しばし沈黙が落ちる。
やがて一人が言った。
「……触るべきではない可能性があります」
部長は目を細めた。
「理由は」
「整いすぎています。普通、ここまで綺麗に動く案件は、裏に何かある」
「何だ」
「それは……」
言葉が止まる。
結局、わからない。
「だから怖い」
部長は小さく笑った。
「だが、放置もできん」
資料を閉じる。
「段階を上げる」
その一言で、空気が変わった。
「接触する」
⸻
数日後。
地方。
御影資源開発の仮事務所。
「失礼します」
スーツ姿の男が一人、受付に現れた。
「東京から来ました。御社の事業について少しお話を伺えればと」
丁寧な言葉。
柔らかい態度。
だがその目は、明らかに“仕事”の目だった。
受付が対応し、奥へ連絡が入る。
そして――
一条朔也が出てきた。
「お待たせしました。御影資源開発の一条です」
穏やかな笑顔。
完璧な第一印象。
「お時間いただきありがとうございます」
「こちらこそ。遠方からわざわざ」
握手。
その瞬間、互いに理解する。
(ただの挨拶ではない)
(ただの地方企業ではない)
だが、どちらもそれを口には出さない。
⸻
「まずは、御社の取り組みについて簡単に教えていただけますか」
商社の男が言う。
「ええ。まだ小規模ですが、地域資源の有効活用を目的に事業を開始したばかりです」
一条は淀みなく答える。
用意された言葉。
だが自然。
「御社の成長速度には驚かされています」
「偶然が重なりまして」
「その“偶然”が興味深い」
やんわりとした探り。
一条は微笑みを崩さない。
「資源は、巡り合わせですから」
否定もしない。
肯定もしない。
ただ流す。
会話は続く。
だがその実態は――
探り合いだった。
⸻
一方その頃。
本邸では、すでに情報が共有されていた。
「来たな」
業高が言う。
「来たね」
業継も同じ言葉を返す。
『外部接触を確認』
アークの表示が出る。
「どこまで?」
『初期ヒアリング段階です』
「まだ軽いな」
業高が腕を組む。
「だが、ここからだ」
「どうするの」
業継が聞く。
以前なら、興味本位だった。
だが今は違う。
これは“対処すべき事象”だと理解している。
「何もしない」
業高は即答した。
「え?」
「正確には、“いつも通りにする”」
業継は少し考える。
「それでいいの」
「いい」
業高ははっきり言う。
「ここで変に動くと、逆に怪しまれる」
『同意します』
アークが補足する。
「つまり」
業継はまとめる。
「普通にやってればいい?」
「そうだ」
業高は頷く。
「今の御影は、“普通に成功してる会社”だ。それを崩すな」
業継は少しだけ笑った。
「普通、ね」
「そうだ」
⸻
同時刻。
別の場所では、黒瀬牙が静かに動いていた。
「対象の動きは」
「現在、一条様と接触中」
「尾行は?」
「確認されていません」
黒瀬は短く頷く。
「監視を続けろ」
「はい」
その動きは目立たない。
だが確実に、外部の視線を把握している。
見られていることを前提に、さらにその外側を取る。
それが黒瀬の役割だった。
⸻
事務所。
会話は終盤に差し掛かっていた。
「本日はありがとうございました」
商社の男が立ち上がる。
「いえ、こちらこそ」
一条が丁寧に頭を下げる。
表向きは、ただの企業訪問。
だがその裏では、十分な情報が交わされている。
(隙はない)
男はそう判断した。
怪しい。
だが崩れない。
「今後とも、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
その言葉の意味は、双方で違う。
⸻
帰りの車の中。
男は資料を見直していた。
「……何も出ないな」
助手席の同僚が言う。
「だが、何かある」
「根拠は」
「ない」
即答。
「だが、勘だ」
同僚は苦笑する。
「それが一番厄介だな」
「だろうな」
男は窓の外を見た。
地方の風景。
(その中に、“異物”が混じっている気がするが)
それを証明する術はない。
⸻
本邸。
業継は窓の外を見ていた。
「来たね」
『はい』
「どうなると思う」
『段階的に関心が増加します』
「どこまでいくかな」
『制御次第です』
業継は少し考える。
資源。
会社。
技術。
すべてが現実に乗り始めた。
だから当然、見られる。
「……面白いね」
『警告。その発想は危険です』
「わかってるよ」
でも、やる。
ただし――
今度は“外”も含めて。
順番に。
段階的に。
それが今のやり方だ。
⸻
御影資源開発。
それはもう、ただの箱ではない。
外から見られる存在になった。
だがそれでも、
まだ正体は見えない。
その均衡が崩れる時、
この物語はさらに一段、加速することになる。
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