第13話「御影資源開発、急成長の兆し」
御影資源開発株式会社。
設立からまだ間もないその名前は、表向きには“地方の小規模資源会社”として扱われていた。
だが、その内側で起きている変化は、決して小さくなかった。
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「搬出量、予定比一・三倍」
神崎理央がタブレットを見ながら言う。
「ただし市場への放出は抑制中」
その声は淡々としているが、内容は異常だ。
設立直後の会社が、予定を超える産出量を確保している。
しかもそれを“意図的に絞っている”。
「在庫はどうする」
業高が聞く。
「分散して複数の倉庫に分ける。名義も分ける。帳簿上は一箇所に集めない」
「そこまでやるか」
「やらないと詰む」
短い言葉だったが、重かった。
「今はまだ“たまたま当たった会社”で済んでる。だが数字が揃い始めると、誰かが気づく」
「誰が」
「誰でもだ」
神崎は肩をすくめた。
「市場はバカじゃない」
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一方、現場では鷹宮豪臣が腕を振るっていた。
「そのライン、詰めすぎるな!」
怒鳴り声が飛ぶ。
「採れるからって一気に広げるな! 面を維持しろ!」
作業員たちが即座に動く。
第二鉱区の開発は順調だった。
だが鷹宮は、あえて速度を抑えている。
「旦那の言葉、忘れんなよ!」
誰にともなく言う。
「“掘れるから掘るな”だ!」
それは第5話で業真が言った言葉の現場版だった。
現場は理解している。
(これは普通の鉱山じゃない)
“普通に見せなきゃいけない鉱山”だ。
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山吹悠斗は、その少し外れで地面を見ていた。
第一鉱区。
第二鉱区。
その両方の変化を、同時に感じている。
「……安定してるな」
小さく呟く。
異常が異常として暴れていない。
ちゃんと“山の一部”として馴染み始めている。
「若様、やり方変えたな」
誰にも聞こえない声だった。
(だがそれは正しい)
業継はもう、ただ作るだけではない。
馴染ませている。
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本邸。
業継は端末を見ながら、その報告を聞いていた。
「順調だな」
『はい。安定成長フェーズに移行しています』
「安定か」
業継は少しだけ考える。
最初はただ面白かった。
できるからやった。
でも今は違う。
「……回ってるな」
『はい。自律的運用が開始されています』
その言葉は、少しだけ不思議だった。
自分が作ったものが、
自分が触らなくても動いている。
「これ、俺いらなくなるんじゃないか」
『否定します』
即答だった。
「なんで」
『供給源が唯一のためです』
「それもそうか」
業継は笑った。
(結局、自分が止まれば止まる。
だけど、全部を自分でやる必要はない)
それが今の状態だ。
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その時、橘智紀が部屋に入ってきた。
「順調らしいな」
「見てたの?」
「見てなくてもわかる」
橘は画面をちらりと見て言う。
「数字が綺麗すぎる」
「またそれ」
「今回はいい意味でだ」
橘は腕を組む。
「問題は、この“綺麗さ”がどこまで持つかだ」
「崩れると思う?」
「崩れる」
断言だった。
「ただし、お前のせいじゃない」
「じゃあ誰だよ」
「外だ」
橘は短く言う。
「気づくやつが出る」
業継は少し考えた。
神崎も似たことを言っていた。
「どれくらいで?」
「早ければ数週間」
「遅い?」
「十分早い」
橘はため息をつく。
「普通の会社なら、そんな短期間で目を付けられない」
「じゃあなんで」
「“普通じゃないから”だ」
業継は少し黙った。
それは理解している。
だからこそ、調整している。
でも――
「バレる?」
「完全にはバレない」
橘は首を振る。
「だが“おかしい”とは思われる」
「それでどうなるの」
「調べられる」
シンプルな答えだった。
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同じ頃。
東京。
とある商社の資源部門。
「……この会社、見たか?」
若い社員が資料を差し出す。
上司がそれを受け取り、目を通す。
「御影資源開発?」
「はい。地方の小規模案件ですが……」
「数字が妙だな」
ページをめくる。
「初期産出量にしては安定しすぎている」
「ですよね?」
「地質データは?」
「公開分は問題なしです」
「……だから妙なんだよ」
上司は資料を机に置いた。
「問題がないのが問題だ」
若い社員は少しだけ背筋を伸ばす。
「調べますか?」
「軽くでいい」
上司は即答した。
「深追いはするな」
「なぜです」
「こういう案件はな」
少しだけ笑う。
「触らないほうがいい場合もある」
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九条本邸。
業継は、少しだけ窓の外を見ていた。
「来るな」
『はい』
「まあ、来るよな」
『想定内です』
焦りはない。
むしろ、少しだけ楽しそうだった。
「どうする」
『対応は複数あります』
画面にいくつかの案が出る。
『情報分散』
『意図的なノイズ投入』
『成長率の調整』
業継はその中の一つを見て、少し笑った。
「成長、落とすか」
『推奨します』
「せっかく調子いいのに」
『それが最適です』
業継は少しだけ考えて――頷いた。
「わかった」
これも“順番”だ。
ただ伸ばすだけじゃない。
止めるところで止める。
それができるようになった。
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業高が部屋に入ってくる。
「神崎から連絡だ」
「なんて」
「“少し絞る”ってよ」
業継は笑った。
「同じこと考えてるな」
「当たり前だ」
業高も笑う。
「うちの連中は優秀だぞ」
「知ってる」
その一言には、ちゃんと実感があった。
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御影資源開発は、順調に伸びている。
だがその伸び方は、
普通ではない。
だからこそ、
普通に見せる。
それができるかどうかが、
次の分かれ道だった。
九条業継は、もうそれを理解している。
だから止める。
だから伸ばす。
その繰り返しで、
“異常”は“現実”に変わっていく。
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