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一号はこちらの表情を眺めて、深く息を吐いた。どうやら頭が痛いようだ。
「気持ちはすごく、すっごくわかる。わたしもそうだった。だが、できれば辞退しないで引き受けて欲しい。とりあえず、世界の平和? を、守ることにはなる」
「はぁ……」
「実感がわかないのもすごくわかる。正直、この体質のことがなければわたしも断ってたくらいだからな!」
ぎらっと七三分けを睨む。彼のほうは視線を受けても平然としていた。いつものことなのだろうか。
「一号さんは、体質で正義の味方をしてるということ……?」
「おまえもな」
「え?」
「おまえも。変身できるんだから、同じ体質だ。下手するといきなり人前で破裂して死ぬかもしれないぞ」
「え」
「死ぬのはいいが、明らかに世にも奇妙なお話になるような死に方は御免だからな。新聞にもネットニュースにも載る気はない」
しみじみと言うと、二号と三号の兄妹のほうも同様な表情だ。人前で……と、想像するとかなりゾッとした。とんでもない人生の汚点になる。死んだあとだから気にするなと言うやつもいるかもしれないが、少なくとも、憶えている人間がいる限り話題にのぼりそうな死に方は嫌だ。さっさと忘れて欲しいのは、もしや同じような気分ということかもしれない。
「そんな死に方を、なんでするんでしょう?」
問いかけに一号はむすっとする。
「虚獣のせいだ」
「キョジュウ?」
「虚構の虚に、獣と書いて、虚獣。あいつらはこっちの七三の世界の力がこの世界に届いて起こってる怪異みたいなものだ」
「?」
よくわからない。不思議そうに軽く首を傾げると、一号は七三分けの男を指さした。本当に嫌っているみたいで、なんだか可哀想になってくる……。
「こいつの世界には魔法? 魔術? とかいう不可思議なものがあって、えっと、大気にその力が混ざってるらしくてな。その濃度が一定以上超えると、別の世界にその力が放出されるらしい。とてつもなく迷惑な話だ」
うわぁ、すごいゴミみたいに七三の人を見てる……。まあ確かに、その話が本当だとしたら、迷惑極まりない話ではある。そもそも一号はあまりきちんと理解したいとも思っていないのが伝わってくる。本当に嫌なんだな……。
「七三の人の世界って、いわゆるファンタジーってこと? 魔法があって、魔物とかいてってやつ?」
……首を傾げられている……。うまく伝わってないのかもしれない。そんな七三分けにまったく説明する気がない一号はつんとしている。
「一号が、一番最初に目をつけられたからさ、ちょっとナナサンにはひどいんだよね、態度が」
三号が苦笑いをした。中学生にフォローされてる……。ナナサンってのは名前か? あだ名? どっちにせよ、ひどい。一号、性格悪いのか。
「とにかく、そのこちらにはない物質が大量に流れ込んで虚獣ができるってことだ。そして、それが見えるわたしたちにも大きく影響している。そうだな、まあ花粉? みたいな感じで、わたしたちはすごく少ない特殊な花粉症にかかっているってことだ」
例えがひどい……。
「ただの花粉症なら、まだマシだ。いや、花粉症の人にとってはそうではないとは思うがな。
だが、わたしたちのほうが状況は悪い。大量に吸ってるから、まあ……あれだ。薬をキメてる感じ? ということか。死ぬってことだな」
やっぱり例えがひどい……。
すごい顔をしていたのか、中学生の三号がすかさずフォローに入って来た。
「虚獣がいると、こっちもそれを吸収してるから適度に変身して能力を使わないとパンクしちゃうってこと」
「え。じゃあ魔法が使えるってこと? だから変身してるってこと?」
「うーん。なんか魔法っていうのとは違うみたい。そもそもこっちにはない物質だから、よくわからない。わからないから、一号は仕方なく一号をしてるし」
確かにそう言われると、背筋がぞぞっとした。わけのわからないもののせいで、いきなり人前で破裂死とかするとか……嫌すぎる。死んだあとのことをこの年齢で心配することになるとは思わなかった。
「一号は、そのために変身して虚獣を倒してる、と。でも、虚獣って普通の人には見えないし、磁場でも狂わせるの? スマホにも映らなかったし」
「それはそうだろう。虚獣はそもそもこの世界に存在してないんだから、見ることは不可能だ。磁場がおかしくなるっていうのも正解だな。でも、この世界に干渉はしてるから、わたしたちだけが触ったり見たりできる」
「でも一号って、半年前にネット動画で騒がれてなかった……」
ひっ!
すごい顔で睨んできた。慌てて視線を逸らす。
「けど、なんでオレのことがわかったの?」
「それは、駆け付ける途中でスマホを虚獣に向けてるのが見えたから。一号は身体能力がすごいから、めちゃくちゃ遠くても見えるんだよね」
三号の言葉に、一号が不快そうな表情になる。本当に嫌なんだなぁ……。
「ちなみに俺も見えてた。お仲間じゃんってなったよね。ナナサンはこれだから、やっぱり仲間欲しいし。せめて五人いないとヒーローっぽくないしぃ!」
最後のほうが悲鳴になったのは、一号が鋭く睨みつけたからだろう。男なら、絶対に一号のこの態度は苦手になるか、それとも鈍い奴なら正面から喧嘩を吹っ掛けるかもしれない。
「よ、四号のおにいさん、仲間になってよ」
お菓子をもりもり食べている妹さんとは違って、兄のほうが肩身が狭いのかもしれない。うぅ。嫌だけど、破裂も嫌だ……。
「仲間にならなかったらどれくらいで死ぬ感じ?」
「それはわからない。明日かもしれないし、十年後かもしれない。言っただろう。こっちにはない物質なんだから、わからないって」
「…………」
とんでもない博打行為ではないのかと、思ってしまう。そもそも半年もあって、仲間がこの人数というのはどうなのか。元々少ないのか、それとも断られてばかりなのか。訊くに訊けない空気だ……どうしよう。
ごくりと喉を鳴らす。部活に入っていなくて良かったと、本気で思った。
「わ、わかった。入ります、その正義の味方サークル」
その宣言に、一号の表情は変わらなかったが、三人の表情が一気に明るくなる。あ、あれ? もしかして断ると思ってた……?
一号はにっと笑う。にこっと笑うのではなく、その笑い方なのがすごく似合っている。
「ではナナサンと握手しろ」
「なんで?」
思わず訊き返してしまった。
***
そういう理由で、なぜか正義の味方になったわけだが、ナナサンの言葉がわかるようになったのは本気でびっくりした。波長を合わせたということらしい。
室内で、スマホの連絡グループを眺める。グループ名は、操者。異世界では、虚獣と戦う人間をそう呼ぶらしい。一号がその説明を本気で嫌そうに聞いていたのは、なんだかなぁとも思う。本名はおいおい教えてくれるということで、登録名が全員、番号だ。ちなみにナナサンの連絡先はないらしい。スマホがないということと、なぜか一号と一緒にいるらしいことだけはわかった。




