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跳ね飛ばせるなにか便利な武器さえ、武器さえあれば!
そうこう考えているうちに追いついてしまう。どういうスーツなんだこれは! 色々と規格外になっていてワケがわからないし、理解が追いつかない。
「この!」
掛け声とともに空中で回転して蹴りをお見舞いする。さらに怪獣が速度をあげて空を飛ぶ。いやいや、これじゃ足りないよなたぶん!
「バットでもあれば!」
とうとう空中でジタバタし始めてしまった。だってどこのロボットものかわからないが、こんな蹴り二発くらいじゃ、色々と無理なところがあると思うのだ。そもそもあの怪獣にダメージがあるようには見えない。そう! そこだ。蹴りを二発も入れているというのに頑丈にもほどがある!
こう、野球みたいにカキーンと! バットがあれば……バット?
手の中に野球のバットみたいなものがある。なんだ、と。
もしやこれが武器の一つ? そんな馬鹿な。愕然としてしまう。だってスーツ姿にヘルメットに、オマケに野球のバットだと? トンチキ野郎にもほどがあるだろう。これはネット動画に挙がってもおかしくない。
「こなくそっっ!」
それでもこれが武器なのは間違いない。どこの世界の怪獣退治もので、ビーム砲でもなくただの野球バットもどきで戦うやつがいるというのか。フィクションでも苦笑いだぞこんなの。ふざけるなと本気で思う。
一歩、二歩、三歩で追いつき、思いっきりバットを振り抜いた! こちとら安定の帰宅部だっつーの!
手ごたえを感じた瞬間、怪獣の身体が破裂した。お、おい、ちょ……。
目の前で巨大な風船が割れたような突風が起きた。え。いや、ふつうは粉々になった怪獣の成れの果てがどばっと落ちてきたりするのではと身構える暇もなく、ぽかんとしたままその風に耐えてから地上を見遣る。う、うわ、見るんじゃなかった。上空から見ると悲惨な状態なのは一目瞭然だった。これはヤバイ。怪我人が出ていないことを祈るばかりだ。田んぼといい、欠けた山といい、責任がとれないのでそそくさと空中を蹴って家を目指す。
心臓がばくばくと鳴っている。早く現場から離れなければ。
そう思ってから自分の頭上を見上げた。そういえば、衛星があるんじゃなかったか? ……じゃあもしかして、観測されていたらヤバイのでは。
血の気が引いた。正直、衛星がどういう条件でこちらを見ているのかはわからないが……精度はかなりあがっているはずだ。下手をしたら変身シーンとかも全部……記録されているかもしれない。だが、衛星をわざと壊すのは難しい。どうしようもなかった。こういう時は、発達した現代社会を憎むしかない。
「っと!」
小さな声と共に、家の裏庭に着地する。……まずい、地面に穴が空いた……力加減がむずかしい……。
しばらく突っ立っていたが、まったく衣服が元に戻らない。あの男、次会ったら許さないぞ絶対。
頭を抱えて蹲っていると、目の前に靴が見える。この明らかに異国風の靴は、と顔をあげるとあののっぽが立っていた。そしてまたも猫たちがちらほらと集まってきていた。なんなんだ、こいつほんとに!
「お見事。変身解除をしないのか?」
「できないからこうなってるんだろ! ぶっとばすぞ!」
「……ポーズを決めないといけないのかもしれないな」
やや難しそうな顔で言っているものだから、拳を握って近寄ると慌てて後退された。
「無理に変身させたから、たぶん今回だけだ。緊張しているから、変身が解除されないんだと思う」
「ふざけるな……倒せば戻るんじゃなかったのか」
「倒したあとは自由に戻せる。戻らないのは、慣れていないこともあるだろうが……特定のポージングをしないとたぶん戻らない」
くそ。本気で泣きそうだ。なんの罰ゲームなんだ。
「どうすれば戻る?」
「変身を解除しやすい掛け声とか、ポーズを自分で考えるしかない」
地獄か。ここは地獄だったのか?
よく見知っているのは、小さい頃にたまに見ていた変身ヒーローもの、戦う魔法少女ものくらいだ。高校生の今、そう簡単に変身を解除するようなものは思い浮かばない。身近な事柄ではないからだ。とんでもないポジティブなら可能かもしれないが、少なくとも自分はそれに該当しない。
抵抗がひどくある。どちらがマシかと考えるが、そもそも変身シーンは強く残っているが、解除のシーンはほぼ自動だったような気がする! もうほんとダメだろ! アメコミヒーローもそういうシーンは省かれることが多いし!
だがいつまでもこんな珍妙な格好をしているわけにはいかない。しかも野球バットも消えない。もう嫌だ本気で。
「…………」
こんなに脱力して、がっかりすることってあるか? 変身が解けないとか、ほんとに。
「…………へーんしん」
変身ポーズをとる。とはいえ、まったく気合いが乗っていないので、腕だけそれっぽく動かしただけだが。
と、がくん、と膝から前のめりに倒れた。え? ええ? どういうことだ? 動けないんだが。というか、もしや『変身するポーズ』で解除された?
「解除できたみたいだ。言い忘れていたが、慣れていない間は行使した力のぶん、反動がある。今は筋肉痛みたいだ」
「…………」
このやろう……。怒りで動けないまま睨みつけるが、男は苦笑するだけだった。
そうして、異界からの侵略である『虚獣』を倒すべく、田舎の女子高生・伊波ユズは、一人目の操者として選ばれてしまったのだった。




