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夢をみた。
一度閉じた幕が再度上がり、その向こうから見知った彼らがこちらを見ていた。みんなが笑みを浮かべていた。
最前列の客席にいたゆかりは、自分が拍手をしていたことに気づかなかった。けれど、賞賛の気持ちが溢れて、泣きながらずっと手を叩いていた。
たった一人の拍手が響く中で、舞台の上に立っていた彼らは一歩だけ前に出る。
「頑張った頑張った。ほんとは私たちが拍手を送らなきゃいけないのにね。もー、泣きすぎだよ~」
いつも通りに明るく笑う早霧。
「イクトくんのことは、まあ最後に頑張ったし、いいでしょう。ちゃちゃっと告白しな!」
「ちょ! ぅ……ぐ。
立花」
話を振られた郁人がぎょっとするが、決意したようにまっすぐ声を向けてくる。
「ずっと好きだっ、た……!」
「よく言ったー! 言えなくて散々悶々としてたとか、誰も気づかなかったよね~ほんと」
「ち、茶化すな……!」
「仕方ないだろ。おまえは明らかに一号のこと意識してたように見えたし」
「そうそう。四号の言う通り! 俺も深雪も騙されたし」
「なんでおまえ、いつも一号を見てたんだ?」
「違う! み、見てたのは……八号、だ」
「え? 僕?」
「いつも一号と一緒にいたから……」
「まあ確かに、セーシローくんはユズちゃんにべったりだったしね~」
「ど、どうやって告白したのかって、ずっと気になって、て……」
「えーっ! 七号、恋の参考にしようとしてたの? ダメだって! 参考にならないよ八号は!」
「ひどいな三号……。八号がしょんぼりしてるぞ」
「そうだ。こいつは泣き虫なんだから、泣かせるようなことをするな。面倒だから」
「ユズさん。面倒とか言わないで……」
「寡黙キャラしてたから、わかりにくいったらないわ~。ただ単にかっこつけてただけなの?」
「喋るのは……得意じゃない、カラ……」
「ぼそぼそ喋るから誤解されるんだって! 八号は絶対に参考にしたらダメだからね! 中学生の俺がドン引きするくらい、手が早いんだから!」
「そ、そんなことないって! ユズさんが許可しない限り、そんなことしないって!」
「許可されたらすぐ手ぇ出すってことだぞ、八号」
「そ、そういう意味じゃない! 四号は僕をフォローしてよ!」
「無理。だっておまえ、ずっと一号との惚気話ばっかりしてたし」
「し、してな……っ! あー! ユズさん、違うよ! 違うから!」
「なにも言ってないだろ、わたしは」
「でも気になるのは私も」
「深雪! その男だけはダメだ! 顔がいいだけの粘着質なんだから! にいちゃんは許さないぞっ」
「みんなボロクソに言うじゃん……八号がまたしょんぼりしてるし」
あまりにいつも通りのやり取りに、ゆかりもつられて笑ってしまう。そのことに気づいて、彼らはまた微笑んだ。
「お疲れ様! ご褒美にイチオシの本、貸してあげる~!」
「おいっ! 立花になに渡す気だ、ヤメロ……!」
「お疲れ、六号」
「お疲れ様、六号。めちゃくちゃ頑張ってたの、見てたよ俺たち」
「うん。おつかれさま、ろくごう」
「よくやったな」
「お疲れ様。こんな労いの言葉しか送れなくてごめんね」
そして。後頭部を軽く掻き、郁人が頭を下げる。
「おれがもっとしっかりしてれば、立花にあんなに苦労をかけずに済んだ。……本当にすまない……!」
彼は見えていない。深く頭をさげているから、周囲の、仲間たちが一歩下がってそんな彼を優しく見つめていることに。
そして。
そんな彼の無防備な背中を、六人が一斉に押した。
「わっ!」
前に押し出された郁人が舞台から落ちる。ゆかりは慌てて席を立って、両手を伸ばした――――。
*
ゆかりは瞼を開く。雨はやんでいた。そして優しく覗き込んできている相手に、微笑んだのだ。




