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REvision  作者: ともやいずみ
第9の章「繰り返さないと、あなたと、この世界を」
33/33

9-2

「あいつがずっと後悔していたのは一つだけ。

 わたしの許可なくからだをつなげたことだったんだよ」

「ぐ、ぐっ、う」

「馬鹿みたいに、呆れるほどに、どうでもいいことをずっと悔やんでいたから、『次があったら、絶対に抵抗してくれ』って頼まれてたからな」

「う、そ、だ」

「嘘じゃないさ。ほんと、馬鹿な頼みだ。わたしの力で男のあいつに勝てるわけないのに本気で言っていたしな。

 よっぽど辛かったんだろうな。何度慰めても、許しても、信じないし、すぐ泣くし。

 だから先回りして、その後悔だけはなくしてやっていたんだがな」


 押し倒されていた彼女は力を込めて起き上がる。とてつもない力で、彼ののどつかんだまま押し返す。


「どんな人生になっても、あいつがそれ以降、わたしに対して絶対にしないルールになった。

 お願いと言いながら、自分自身に課した禁止事項を、あいつが『破る』わけないからな」

「そん、な」

「そうやって、あいつらを殺してなり替わっていたとはな。やっとわたしを完全にあざむけたとでも勘違いしたのか?」

「っ、う」

「王手をかけるには、まだ早かったな。七号」

「っ、」

「こうして抵抗するわけないんだ。あいつは本当に、わたしが死ねと言えば死ぬようなやつなんだから」


 仲間の誰もがしないことを清史郎だけがやると、知っていた。

 ユズがその細腕に見合わない力を込めてどんどん彼をのけらせる。息苦しさに彼は両手をばたつかせる。


「それに、あいつがわたしの純潔を奪ったのは、『わたしを愛してると告白したあと』だ」


 彼は目を見開く。


「きっちり手順を踏んでるんだよ。ご丁寧に求婚までしてきて、ほんとクソ真面目なやつだ。

 ちなみに、そのあとすぐってわけじゃない。わたしが大怪我をしたのを治療するために仕方なくした行為だったんだ」

「そ、」

「大泣きして謝って来たのをなぐさめるのは大変だった……。だから毎回、()()()()()に、わたしがあいつを抱いたんだ」


 うんざりしたんだと言わんばかりの声音で、さらに力を込めてくる。

 もはや息ができない。どうしてこんな力があるのかと、不思議になるほどだ。


「効率重視の一号だからな、わたしは。おまえがそう評した通り、わたしは一番効率よく、生きてる」


 いつもどこか気怠けだるさを持っていたその瞳が、爛々(らんらん)と輝いていた。そう、彼女はどの人生でも、操者そうしゃになったあとはひどく効率的に行動していた。


「確かに、好きな女が腕も足も、片方なくして、両目をつぶされて、血まみれだったら判断もおかしくなる。

 少なくとも、あいつは気が狂ったみたいだったらしいから、わたしをどうしようと構わなかったし、なんなら見捨ててくれても良かったんだがな」


 そんな状態から完全に回復をさせたというのは、本当にいかれているとしか言えない。まともな神経をしていたら、そんなことはできないと判断するはずだ。


 だが、その状態を見た清史郎は悲鳴をあげるどころではなかった。仲間から彼女を引き離し、枯渇こかつを何度も起こしながら彼女の肉体を復元した。その際におこなったことは、清史郎しか知ることはない。

 ユズが知っているのは、目を覚ました時に彼がずっと泣いていて、抱き着いて散々謝ってきたことだけだ。


 仲間からは清史郎がおかしくなったと心配されていた。彼女が復帰するなり清史郎が心配そうにいつも見てくるので、ユズは鬱陶しいと何度か感じてしまった。


 清史郎の独占欲は、純粋に愛情によるものからくるのではない。彼はユズを危機から守るために、目を光らせていたにすぎない。


 普段からユズが先陣をきって行動するので、あんなことになっても清史郎は仲間を責めはしなかった。清史郎自身をのぞいて。


「五号なら、『闇堕ちエンドになってもおかしくなかった』とか、言うんだろうな」


 みしみしと首の骨が音をたてる。一気に殺さず、ゆっくりと話す様子が異常だった。

 なぜ息の根を止めず、こうして語るのか。


「まったく心苦しくないな。清史郎の顔だけど、なんにも感じない。少しは違うかもとは思ったんだが」


 なにを言っている……?


「多少は罪悪感がけば、まあ、少しはあいつにそれっぽいことを言えるかもとは思ったんだが、やっぱり先回りしか方法はないみたいだな」

「…………」


 恐ろしくなり、涙が浮かぶ。だが彼女はまったく表情を変えない。

 八号は彼女のこんな面も知っていたのかと、そんなことを彼は思う。


「わたしは薄情なんだ。なのに、あいつらはやたらわたしを美化するからな。

 おまえは知らないだろうが、わたしがこういうやつだってことを、清史郎は『知って』るぞ」


 信じられないようなことを、言われた。いや、だからこそ、あの男はこの女に対しては『外からは』とてつもない執着心があるように見えていたのかもしれない。

 清史郎という存在が加わったことで、ユズの異常さがうまく隠されてしまったのだ。


 そもそもなぜ、彼女が記憶を持ち越しているのかわからない。人間にはそんなことはできない。転生でも、巻き戻りでもない。一からやり直しているのだから、この世界の人間には不可能だというのに。


 理由はわからないが、彼女は確実に記憶の持ち越しをおこなっている。清史郎を殺したのは失敗だった。憎らしかった男をひたすら苦しめて殺していたが、なにをしてもユズは他の誰にもなびくことはなかったから、清史郎に『る』ことにしたのに。


 油断もしていた。清史郎の肉体なら、彼女に無条件で愛されると。


 甘かった。考えが甘かった。


 それに、なぜ己の知らないことを、彼女は『知っているように』語るのか。


「逃げても『次』も見つける。小賢こざかしいことをするのは、わたしに勝てないからなのはわかっている」



 世界の幕を下ろす。

 もうこの時間はだめだ。

 だが必要な情報は得た。用心するべきは、一号。記憶の持ち越しをしている彼女を、どうやったら手に入れられるのか。そして憎たらしい八号をどうすれば八つ裂きにできるのか。腹立たしい六号のしつこさも、どうにかしたい。



「『見つけた』」


 その聞き覚えのある声音に、足を止める。全身から、嫌な汗がぶわっと、出た。ゆっくりと振り向く。


 琥珀色こはくいろに輝く瞳をたたえて、伊波いなみユズが制服姿でまっすぐにこちらを見つめていた。


「だれ……?」

「誰だろうな」


 演技で誤魔化されるような相手ではない。愕然がくぜんとする。

 学生鞄を投げ捨て、彼女は一気に距離を詰めてくる。


()()三号か。ははは」


 なぜ笑う?

 恐怖に足が凍り付いて、動けない。おかしいおかしい。いくらなんでも、おかしい。

 不敵な笑みを浮かべて、片手を伸ばしてくる。だめだ。この時間もだめだ。



 ぐしゃ、と音がする。廃工場で話し合っている最中に、五号が容赦なく目の前で異世界から来た男を殺した。そしてこちらを見てくる。


「もう飽きちゃった。いい身体と顔してたから、毎回ネタをもらうために多少は生かしておいたけど。

 人間ひとりを隠すのって、ほんとは面倒だし。ナナサンみたいに餓死状態まで待ってあげるほど、暇じゃないし~」


 なにを言っているのかと目を見開く。


「いじるなら、セーシローくんのほうが面白いしね」


 にっこり微笑む彼女の言動に、違和感しかない。()()()()()()()()()()()()()()()()のに。

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