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たかがひ弱な十代女子の力など知れたもの。
だが、その予想は裏切られた。男の身体が一瞬で吹っ飛び、山に激突してしまう。……マジ、か……。
空中に浮かんだ状態のままで、唖然としてしまう。嘘……だって、誰か言ってくれ。選ばれたとか辞退願う。
「ぐ、ぬぬっ、と、とれん……っ」
両手でヘルメットに手をかけるが、まったく動かない。どうなってるんだほんとに! こんなの明らかにヤバイ人だろ。パンツスーツ姿で、ヘルメット……ご近所さんにでも見られたら高校生活が完全終了だ!
蹴りの威力が凄まじいのはわかったが、だからなんだというのだ。もっとかっこいい方法があってもいいと思う。魔法が使えたりとかな! いや、でもやっぱりいらん。ろくなものじゃないはずだ。
「はーっ、と、とれな……」
どれだけやってもとれないし、こんなヘンテコな姿で家に帰ったら家族もびっくりする……。とうとう頭がおかしくなったかと思われてしまう。友達いないけど、そこそこ家族に鬱陶しい絡みをされないように大人しく生きてきたのに。
「なにをするんだ、操者」
「わっ」
いきなり背後から声をかけられ、のけ反る。明らかにぼろぼろの様子ののっぽが、背後に浮いていた。い、生きてたか……。あの激突の仕方で生きてるとか、やっぱりこいつ、人間じゃないな……。
「わたしに何してくれてんだ!」
「元の姿に戻りたければ、あの虚獣を倒すんだな」
しれっとした顔でなに言ってんだこいつ! またキック喰らわせるぞ!
こめかみに青筋を浮かべてぎりぎりと歯を軋ませているこちらの様子に、負傷している頭部の血を取り出したハンカチで拭きながらではあるが、まったくこちらの意図を汲む気はないようだ。くそ……!
「キョジューとか知ったことか! 滅ぶんだったらそれがこの惑星の寿命ってことなんだよ!」
「いや、虚獣は外界から飛来した隕石のようなものだ。排除するのが君の役目だ」
「そんなの知るか!」
「じゃあ一生そのままでいるんだな」
「…………」
おい。やはりこいつ、もう一発蹴りをぶつけたほうがいいよな。
「君の攻撃を受けても、その変身は解けないぞ」
「変身を解除しろ! こんなおかしな恰好で戦えるわけないだろ!」
「いや、戦える。さっきの蹴りも、力の一端だ」
「じゃあ武器くらいよこせ! そもそも肉弾戦しかできない変身ヒーローなんて、時代遅れだろ!」
馬鹿にしたように肩をすくめて言うが、男はまったく表情を崩さない。いやほんと、殴りたくなってきた。顔面陥没くらいするはずだ、きっと。
「武器は装備されてる。念じればどれか出てくるはずだ」
「は?」
ねんじる? おいおい、どこかのポケットでも常備しているのか、このスーツは。ビスケットが二つになるとかだったら許せん。
念じる……。武器、ね。ぶきぃ?
首を捻るが、いっこうに何も出てこない。男を睨むと、彼は呆れたような顔をする。
「嫌がるから防具が出たままで武器が出ないんだ」
「ぼうぐ?」
「その頭の被り物だ」
え!
あ、いや、確かにヘルメットは頭を守るための防具か。なるほど。
「同時に出せるとかじゃないのか?」
「出せるが、君が嫌がってるから被り物が元の形状に戻らないだけだ。武器が出ないのも、嫌がってるからだ」
「嫌がってるっていうか、嫌なんだ! だれかにこの変身を譲渡したい!」
「それは無理だ。とりあえず虚獣を倒さないとずっとそのままだ」
なんだと!
こんなクソ田舎にこんなトンチキなことが起こっていいはずがない。こういうのは首都で起こるべきだ!
「あ! そうだ、おまえがなんとかすればいいんじゃないか?」
「残念だが、虚獣を倒せるのは操者だけだ」
どういうカラクリでそうなるんだ……。言い合っていても、平行線のままだこれは。
すごく、いやだ。めちゃくちゃ、いやだ。本気で、嫌だ。
でも。
でも!
「くそったれ!」
そう言うなり、空中で器用にあの巨大な生物のほうへ向かう。とてつもなく身体が軽い。それに、一歩の速度が速すぎて、すぐにあの生物に追いついてしまった。移動速度おかしいし、重力とかどうなってんだよほんとさぁ。
武器ぶき武器ぶき。念じるが、まったく出てくる様子がない。くそ! 欠陥品なんじゃないか、この変身!
仕方ないと地面に降りて、突進することにした。蹴りがすごかったんだから、きっとパンチもすごいはず。わからないけど!
あれ? そういえばこの姿って、『見えて』いるのか?
その考えに行きついた時にはキョジューと呼ばれているやつを両手で思いっきり『押して』いた。お相撲さんもびっくりだと思う!
「お、も!」
い! くそ!
足を踏ん張って思いっきり腕を突き出す。その生物の巨体がぐら、と揺らいだ。一気にそのまま気合いを入れて力の限り、突き飛ばした。どごん、と山に衝突する。やばい……山が凹んだ……。電線とか、え、ちょ、やばいのでは。
山に囲まれた土地なだけあり、周囲は田んぼと山という、なんとも懐かしい田舎風景というものではあるが、まだ実在しているのだこういう場所が。その一つがここなわけだが、さすがに山があんな状態になったら……あ! 動画撮ってるやつがいる!
う! そしてやはりというか、あっちの巨体は見えていないが、こちらのほうはしっかり見えているみたいだ。このよくわからない怪しいヘルメット女の姿が! 最悪だ!
うわああ、と心の中で悲鳴をあげてその場から逃げ出す。いやいや、あの変な怪獣をやっつければ元の姿に戻るっていうんだから、倒さないとミッションは終わらない。慌てて方向を変えて駆けだす。動画を撮っていた連中が呆気にとられている。当然だ。消えたように見えるはずだ。あとでスロー再生されたらどこに向かったかはバレるとは思うが、ネットに挙げたところできっと心無いコメントが寄せられるはずだ。どこの変態がこんな田舎で珍妙な格好をしているというのか。
そもそもどうやって倒せというのか。緩慢な動きで怪獣は起き上がろうとしている。おいおい! よせよせほんとよせ! わー!
(武器ぶき武器ー!)
ほらあれだ。羞恥でパニックになっている場合ではない。魔法でどかーんとなるような、そんなものがあるだろうか? そんなことしたら山火事でとんでもないことになるのは目に見えている。そもそも都合のいいやっつけ方なんて、あるわけない。
あ。これならいけるかも。
思いついた途端に、走る速度をあげる。起き上がる前にその巨体を下から持ち上げるように踏ん張る。めちゃくちゃダサい。
「こ、この! 重いっつってんだろーが!」
両腕を思いっきり上へと持ち上げる。怪獣を空へと持ち上げたのは一瞬だ。その巨体ゆえに落下速度もある。だからこそ。
「てえええぇぇいっ!」
左足に重心がくるようにして、落ちてきた怪獣を思いっきり蹴り上げた。すごい轟音が響いたので、思わずヘルメットがあって良かったと思ったが、怪獣が見事にすごい速度で空の彼方へと吹っ飛んでいく。この威力で……いや、無理だろくっそ!
もう泣きそう!
空中へとジャンプをして、そのまま飛んでいく怪獣を追いかけた。何発キックを入れればこいつ、落ちてこなくなるだろう? 大気圏突破はさすがに無理だとは思うが。




