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REvision  作者: ともやいずみ
第8の章「感情と、七号と、終わりの始まり」
28/31

8-1


「ななごう」


 そう呼ばれて、振り向く。二号は、(うずくま)っているこちらに手を伸ばす。その背後に、居心地悪そうに立っている八号の姿がある。

 何度見ても、色気を振りく迷惑なその顔が、苛立いらだつ。元の姿も美形なのだから、どれだけしたって、勝てないと勝手に思ってしまう。


 ほぼ同年代の四号と八号と七号はまったくタイプが違っていた。柔和な口調と声の八号ではあったが、一号の紹介で仲間になった時にはすでに一号の恋人だった。

 あの顔と声で、それこそ女など選びたい放題だろうに、よりによってと四号が「趣味が悪い」とらしていた。


 本当に恋人なのかと疑ったこともあったが、いつも彼女の近くにいるし、彼女が視線を向けると三号と四号が引くほど色気を駄々洩(だだも)れ状態にした微笑みを浮かべていた。そして一号の視線が外れるとそれがきれいさっぱり消える。五号がまじまじと八号を観察していたことに、六号が苦笑していたほどだ。


 この八人の中で露骨に恋愛感情を見せていたのは八号だけだった。本人はまったく自覚していなかったうえ、一号に時々邪険にされるような扱いをされていたが、不思議なくらいに許容範囲と言わんばかりの態度だった。むしろ、どこまでが許容できるのかと不思議に思った者は多いだろう。


 見た目のこともあり、八号は明らかに女に勘違いをされるような行動が目立った。ただ、優しい言葉も行動も、一号以外にはまるで壁を相手にしているような不思議な距離感があった。普段からモテてはいただろうが、本人はまったく告白されていたことや、そのような誘いをされていたことにも気づいていなかった。普通の男なら八号の境遇はうらやましいものであるはずなのに、三号も四号もまったくそう思わなかったようだ。


 治癒能力を使う八号は明らかに一号だけを特別扱いしていたし、一号の冷やかな言葉も態度も、八号には当たり前のようだった。

 マゾなのかもしれないと三号が恐々(こわごわ)と言っていたが、一号の威圧的な態度に他の男たちと同様に委縮いしゅくする様子はあったし、五号にからかわれると逃げ出すこともあった。


 だが、一号がひどい怪我を負った時、八号は血の気が完全に引いており、一号に状態を何度も尋ねていた。一号は元々変身をした状態での耐久度が他の者たちより強い。だからこそ、あれほど狼狽ろうばいしていたことに他の者たちは驚いていた。


 すぐさま治療をするのかと思ったが、眉をひそめると一号をかかえてどこかに行ってしまった。戻って来た時は、一号はけろりとしていたし、八号はそんな一号をとがめていたが、一号はまったく言うことをきく様子はなかった。

 本当に恋人なのかと、また全員が疑ったが、そもそも一号は最初から八号の言うことを聞いていたことは、一切なかった。


 八号は重宝ちょうほうされる能力の持ち主ではあったが、本人は複雑そうだった。

 怪我をした者にてのひらをかざして治癒をしていたが、一号だけにはべたべたと身体からだに触り、「なんでまた無茶するの」「心配だからやめて」「心臓がもたない」と何度も言っていた。もちろん、一号は「うるさい」と毎回応じていたが、あれだけあちこちを触られていても無反応なのは六号が疑問符を飛ばすには充分だった。


 一号が怪我をした日は必ず一緒に帰っていったし、とにかく一号がほぼ無頓着むとんちゃくなせいで衣服が破れれば自分のを着せ、無茶苦茶な戦い方をすれば顔面蒼白になるしと、色々な意味でせわしない男だった。


 八号にいだいた感情は羨望せんぼうであったが、ねたみに近いものだ。その感情はそもそも小さなものではあったが、それまでの経緯から様々な感情と混ざり、肥大化した。


 五号がある時、二人を見比べ、堂々と言い出した。


「ねえねえ、どっちが告白したの?」


 わかりきった問いかけではあったが、そこに居た者たちは聞き耳をたてていた。まるで湯沸かし器のように、一瞬で八号の顔が真っ赤に染まって目が泳いだ。一号はいつものように平然としている。


「わたしだ」


 意外なことに一号がそう言いだした。唖然としたように、静まり返る。が、「ええーっ!」と五号と三号がそろって声をあげた。


「ち、ちがっ、え、と、正確にはちょっと違うと思うよ?」

「そうだったか?」

「す、すぐ忘れる……!」


 八号は逃げ出したいのをこらえるような仕草をしながら、一号のすぐ横に居た。


「嘘でしょ! どうやって! なんで! そうなったの!」


 五号の怒涛の質問に、ぎょっとしたのは八号だったが顔色ひとつ変えずに一号は平坦な声で言った。


「こいつの服を破ったから?」

「わーっ!」


 さすがに八号が慌てて一号の口をてのひらふさぐ。


「ち、違う違う! なんで誤解を招くようなことを言うの!」

「え? じゃあどっかの筋肉ムキムキキャラみたいに、胸筋とかでふんぬって服を破ったとか?」


 どうやら五号は相当困惑しているらしい。なにを言っているのか本人もわかっていないようだ。動揺しているのがわかる。八号がそんな芸当ができるわけがないというのに。


 ぱしぱしと一号が、口をふさいでいる八号の手を軽く叩いている。珍しい光景だった。一号ならば、掌をつねるくらいはやるはずだ。


「ダメ! またおかしなこと言うか、ひゃあ! な、めてもダメ!」


 あからさまに一号が不機嫌そうな表情になるが、八号はてのひらをどけない。なかなか根性がある。

 しかし五号だけはまったく違う反応をした。


「ギャー! ちょ、なんというえ! めっちゃき!」


 爛々(らんらん)と瞳を輝かせる五号に、三号と四号が揃ってゾッとしたように身を引く。


「美人だからこそできる今の顔はヤバい! アンコール、アンコール!」

「ひえぇ……八号、終わった……」


 三号が「ご愁傷様……」と顔を引きつらせている。……七号は不思議そうにその様子を見ていた。


「もう一回舐めてみてー! ユズちゃんおねがいー!」


 懇願こんがんに一号が怪訝けげんそうにするが、少し考えるようにする。八号がハッとして両手で彼女の口をおおった。完全に口を封じられ、身動きがとれなくなった一号が殺気を込めた瞳を八号に向けている。「こ、こわ」と四号がらした。


「なにやってんの! 絶対に嬉しいやつじゃん! それから『ひゃん』のほうがいい! 今度はそっちで!」

「なに言ってるんだよ!」

「あんた右側でしょうが!」

「みぎ……?」


 八号が首をかしげる。


「受けでしょう、絶対に!」

「…………」


 唖然あぜんとしていた八号が、意味がわかったのか一気に耳まで赤くしてから一号の背後に隠れた。だが身長差のせいで、まったく隠れていない。


「違うっ!」

「嘘をついてもわかるんだからね~。攻めの顔じゃないもんね~」

「ひいぃ!」


 とうとう一号の腰にしがみついて、身をちぢこまらせている。


「今の発言をまとめると明らかにそうでしょ……。破かれた服、それに告白されたほう……絶対に『受け』だー!」

「誤解があるって! 告白したのは僕だから……!」

「そうだったか……?」

「やっぱり忘れてる……! ていうか僕を助けてよ!」

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